家族主義(読み)カゾクシュギ

デジタル大辞泉 「家族主義」の意味・読み・例文・類語

かぞく‐しゅぎ【家族主義】

家族内にみられる人間関係生活態度ないし意識を、家族以外の社会集団へも広げ適用しようとする考え方。また、これに基づく制度や慣習。

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精選版 日本国語大辞典 「家族主義」の意味・読み・例文・類語

かぞく‐しゅぎ【家族主義】

  1. 〘 名詞 〙 道徳や価値の評価の重点を、個人よりも家族全体におく考え方。また、そのような人間関係を社会構成にまで及ぼそうとする考え方をいう。
    1. [初出の実例]「全くの個人主義を採らずして家族主義を加味せられて居る」(出典:国民性十論(1907)〈芳賀矢一〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「家族主義」の意味・わかりやすい解説

家族主義 (かぞくしゅぎ)

家族主義という言葉は,ある社会が家族を社会の構成単位として重視するだけでなく,家族の原則を家族外のさまざまな社会関係にもおしひろげて適用する傾向のある社会構造を示している事実を指したり,あるいは,そのような社会構造となることを理念とするイデオロギーを指したりする。

 日本社会は現代に入るまで近世,近代を通じて家を重視し,また社会生活上,家なしには個人が生きていくことが困難なため,社会全体が家々の連合する構造を示し,親類のネットワークおよび同族,機能別の多様な,地縁的な町内,ムラ,古代には(うじ)などの組織の組合せにより特徴づけられてきた。それらが家単位の連合であることを家族主義的事実とみなす学者も多いが,家と家族を同一視することは概念を混乱させ,理論をあいまい化する。なぜなら,家は家長の家族(親族関係者)のみによって構成されるものでは必ずしもないからである。住込み奉公人家業経営,家事運営の必要から,いまの人が想像しているよりも幅広い層の家々で,家の成員として養取adoptionされていた。非血縁者を親族として養取することが多かっただけでなく,この種の雇人としての養取も,家の傍系(非嫡系)成員の一種とされた。彼ら住込み奉公人が主家で成人し,生家からではなく主家から分家(奉公人分家)させてもらって,傍系の親族成員(家族員)だった者の分家(親族分家)とともに,主家だった本家の分家として同族を構成した。住込み奉公人は住込み奉公中に能力により淘汰選抜されたから,奉公人分家を同族に含むことは,中国の宗族とは違って,実力主義の能力ある非血縁分家の起用を可能とした。とくに近世や近代初期における商工家の発展は,このような親族分家とならぶ非親族分家(奉公人分家)の暖簾分けによる暖簾内と呼ばれる同族の構造によるところが大きかった。

 家,したがってまた同族の,このような非血縁者の能力・実力による活用,同族化を家族主義という表現では把握できない。家族関係への擬制という説明もあるが,西欧文化中心主義的な理論や近代の民法を基準とするこのような説明では日本文化における家や同族の本質を把握しそこねる。むしろ家族主義とか擬制的な家族員という考え方は,日本近代の支配層による,武家的,儒教的,そして西欧近代的なイデオロギー(民法や教育勅語など)の庶民への強制と,日本社会の伝統に基づく土着的発展との区別をあいまいにし,分析の精密さを失わせる結果を伴ってきた。家は家長の家族と不可分な存在ではあっても,概念上明確に区別されねばならない。家族主義という用語による事実の説明は,日本の文化・社会の歴史的現実とその変動過程において,近代日本の支配層が国民全体に与えようとした〈家族国家〉観や〈経営家族主義〉や,これと表裏一体の,非血縁的成員の家からの排除,家長個人による私的所有,近代欧米的な雇用契約という近代日本的変容形態やその目ざした方向が,あたかも完全に国民社会全体に実現したかのような幻想を与えるのに役立つ。ひいては近世日本や近代日本の庶民社会をまで,こうしたイデオロギーで説明して日本民族の伝統を超歴史的に固定し,矮小化し,欧米近代文化に対する劣等感をもたらし,欧米思想中心主義的知識層の優越感を助長し,歴史的現実の科学的な認識をあやまらせる。

 天皇を家長にたとえ国民社会を一大家族に擬する家族主義的国家観は,国家と国民社会を混同し同一視させる企てであったが,近代日本支配層のこのような企図は必ずしも成功しなかっただけでなく,近代日本の国家主義は十五年戦争とその悲惨な結末をもたらした。これに対して,経営家族主義は,中小零細企業=家業経営における家の原則を初期の資本主義的大企業経営に応用して成果をあげ,近代日本における産業化を支える一要因となり,第2次大戦後の経済高度成長期に入るまでの基盤ともなった。

 いずれにせよ日本における家族主義という言葉は,社会構造の本来のパターンをさすよりも,むしろ政府や企業が明治後期以降採用し始めたイデオロギーと,これにもとづく国民統合の政策,また企業経営の政策の結果あらわれた新しい変容形態であったとみるのが適切である。したがって,その結果生じた事態を,ただちに家業経営に基礎をおく時代や階層の家や家連合と,またそれらと不可分な親分・子分関係と同一視して,近代の日本,ことに明治末年以降顕著となった傾向を家族主義と呼ぶだけでなく,明治時代,さらには江戸時代にまでさかのぼってそれで日本社会の構造を説明しようとするのは,歴史的現実を無視することになる。また,家を単位とした中国社会の往時の構造を家族主義という語で説明したと同じように,家を単位とした日本社会のそれを見るのは,文化の相違,家の社会的構造とその展開の仕方の相違を無視した見方といわねばならない。
 →家族制度
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「家族主義」の意味・わかりやすい解説

家族主義
かぞくしゅぎ

家族内にみられる人間関係や生活態度ないし意識を、家族以外の社会集団へまでも拡大適用しようとする考え方や、これに基づく政策ないし制度慣習の総称。この場合、西欧では家父長的家族が、また日本では「家(いえ)」制度体における家長と各種の家成員との関係や、その展開である本家・分家の同族関係ないし親方・子方関係が模範とされた。

 農工商が家業の自営として営まれ、それが社会を支える主要な産業である場合、しかも世襲する君主の家系を支配の頂点とする国家の場合、国家を家族に見立て国王を家父長に例えることは、西欧でも絶対王政下の君主論にみられた。中国に「国家」という表現が古代よりあったのをstateの訳語にあてた日本の近代でも、儒教思想とあわせて日本自身の家の思想を拡大類推させ、明治憲法下の国家を説く国民道徳論が政府の奨励のもとに広い支持を受けた。そして「家族国家」とか「国民は天皇の赤子(せきし)である」とかいう表現を伴って家族主義的国家観がたてまえとされた。このような国家観の基礎に、稲作中心の農家をはじめとして、家を単位とした零細な商工業などの家業経営によって生計をたてる国民生活があり、富国強兵を旗印とした近代日本の資本主義経済の発展は、家と家連合による町や村の構造に支えられてきた。先進諸国との競争に耐えた低賃金労働の供給、過剰労働力のプール、急激な生産の拡大・縮小のしわ寄せ先となる下請け組織、乏しい利益で末端流通組織を支える零細商家経営など、家と家連合が相互扶助で低い生活水準に耐えてきた。これも家族主義の美徳とされた。また家と無関係な大企業でも、上司を親に見立てて企業を家に例える恩情主義が、経営家族主義とよばれ近時に及んだ。

[中野 卓]

『間宏著『日本的経営の系譜』(1963・日本能率協会)』『間宏著『日本的経営 集団主義の功罪』(日経新書)』『安藤喜久雄・石川晃弘編『日本的経営の転機』(1980・有斐閣)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「家族主義」の意味・わかりやすい解説

家族主義
かぞくしゅぎ

家族の構成原理,特に家父長的原理と情義的人間関係が外部の社会組織,集団にまで拡大浸透しているとき,そこにみられる行動様式,人間関係,価値体系を総称して家族主義という。資本主義社会以前の段階にあっては多かれ少なかれ発生するものであるが,ヨーロッパでは近代における資本主義の発達とともに解体していった。しかし,日本における資本主義の発達は,封建的社会体制を完全には崩壊させず,むしろそれらを残存させ,強化する形で行われたため,家族主義的価値体系が解体されることなく,あらゆる社会構造のなかに根強く持込まれていった。第2次世界大戦後,このような家族主義の克服が目指されたが,新たな家族の原理が定着するまでにはいたっていない。

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世界大百科事典(旧版)内の家族主義の言及

【ホームドラマ】より

…映画史家の田中純一郎は,松竹の新撮影所長城戸(きど)四郎の方針の下に作られた一連の島津保次郎監督作品(《お父さん》1923,《日曜日》1924,等)をホームドラマの先駆的作品としてあげ,ほぼ同時代の五所平之助監督作品や小津安二郎監督作品も含めて,いわゆる〈小市民映画〉の流れに連なるものとしている。このようなホームドラマの登場は,当時の新しい〈中間階級〉,すなわちサラリーマン階級の台頭と表裏の関係にあったが,田中も指摘するように,日本人固有の〈家族主義〉の伝統も,この〈城戸イズム松竹調〉(いわゆる〈蒲田調〉)のドラマトゥルギーに大きく影響していたとみることができる。 このように,大衆のなかの〈生きたジャンル〉としてのホームドラマは,戦前の松竹映画を嚆矢(こうし)とすると言ってよいが,それがある変容を含みつつ一気に隆盛し,一つの画期を示すのは,戦後の〈テレビ時代〉の到来以降のことである。…

※「家族主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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