改訂新版 世界大百科事典 「州際通商法」の意味・わかりやすい解説
州際通商法 (しゅうさいつうしょうほう)
Interstate Commerce Acts
州際通商の規制に関する一連のアメリカ合衆国連邦法。〈州際通商〉とは,複数の州との間または州とその州外の地(外国を含む)との間の交易,通商,輸送,伝達,通信をいい,合衆国憲法(第1編第8節3項)は連邦議会に州際通商を規制する権限を与えている。連邦政府は,この〈通商条項〉にもとづく立法によって,外国との通商のみならず,国内における経済活動を広い範囲にわたって規制できる。20世紀に入って,多様になり広域化した生産・流通・消費にかかわる活動を全国的見地から規制する連邦立法が数多く生まれたが,通商条項はこうした領域における連邦権限拡大のための憲法上の主要な根拠となる。
はじめ連邦政府による法規制はおもに交通機関と通信手段に限られ,通商活動の大きな部分は各州ごとの規制にゆだねられた。しかし,州政府は規制にあたって州際通商を禁止したり,不当な制約を設けてはならないとされていた。19世紀末から,広域化する企業活動を全国一律に規制する必要が強まり,通商条項にもとづく連邦立法があいついで制定された。まず鉄道事業を規制する州際通商法(1887)が制定され,同時にその実施に当たる州際通商委員会が設置された。鉄道会社の恣意的運賃や独善的営業に対する利用者の不満にこたえたものであった(グレンジャー運動)。また独占企業を規制するためにシャーマン法(1890),クレートン法(1914)が制定され,連邦通商委員会が設立された。さらにニューディール期にかけて,食品衛生,薬品の安全性,広告,金融,証券取引,海運,航空,放送,労働,福祉などの各分野において連邦法が制定され,また法規制の実施の責任をもつ独立の行政委員会が数多く誕生した。合衆国最高裁判所は,通商条項にもとづく連邦規制の拡大には,当初,制限的な見解を示していたが,1937年に重要な判例変更を行い,通商条項にもとづく規制が〈生産〉にも及ぶことを認めた。現在,二つ以上の州にまたがって流通する可能性のある商品については,生産から消費まで連邦の法規制が及ぶとされる。現実に連邦法の規制の対象とされない事業活動はきわめて少ない。
執筆者:藤倉 皓一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報