強制労働(読み)キョウセイロウドウ

デジタル大辞泉 「強制労働」の意味・読み・例文・類語

きょうせい‐ろうどう〔キヤウセイラウドウ〕【強制労働】

労働者意思を無視して、強制的に行わせる労働

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精選版 日本国語大辞典 「強制労働」の意味・読み・例文・類語

きょうせい‐ろうどうキャウセイラウドウ【強制労働】

  1. 〘 名詞 〙 精神的・身体的自由をおびやかすことによって、労働する意思のない者に労働を強要すること。
    1. [初出の実例]「花の御所の造営は、強制労働と悪税と徳政〈略〉とによって、僅かにつぐのわれた」(出典:感情旅行(1955)〈中村真一郎〉七)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「強制労働」の意味・わかりやすい解説

強制労働
きょうせいろうどう

暴行その他によって強制され、労働者の自由意思に基づかずに行われる労働。古代の奴隷労働がその典型であるが、近代社会においても、たとえば建設業、炭鉱などにおける「監獄部屋」「たこ部屋」、あるいは繊維業における工場寄宿舎などで、程度の差こそあれ強制労働とみなされるような状況がみられた。

 日本国憲法は、まず国家との関係での身体の自由の保障という面を中心に、適正な手続を経ないで国民を逮捕したり刑罰を加えたりできないと定めている。たとえば憲法第18条は「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因(よ)る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」と定めている。しかし近代社会においては、封建時代のように暴君が恣意(しい)的に家臣、農民を拘禁・使役したりすることはないにしても、対等な者同士の自由な合意という形をとりながら、事実上労働者を不当に拘束するという状態は多々生じうる。そこで労働基準法はさらに具体的に、「使用者は、暴行、脅迫監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」(5条)と定め、これに違反した使用者には「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」(117条)という厳罰を規定している。

 このような使用者による強制労働とみなされた具体例としては次のような例があげられる。労働者の所持金、化粧道具を取り上げ、さらに就寝時に外出着、下着を取り上げて逃亡を防ぎ、客をとらせた事件。暴行は加えなかったが、反抗すればどのような制裁を受けるか知れないような気勢を示して、1日14時間にわたる出炭労働を行わせた事件。

 さらに労働基準法は、労働契約を締結する際の労働者の弱い立場につけこんで、たとえば、機械を破損したり不良品を出した場合の損害賠償額を不当に高い額であらかじめ定めておいて、実際上退職できなくすることを禁止している(16条)。また、使用者が、労働者が前借りした金と賃金を相殺することも禁じている。親が多額の金銭を借り労働者が無報酬で働くというような弊害を防ぐためである(17条)。賃金の一部を使用者が強制的に貯金させることも禁じている(18条)。

 なお、大規模な強制労働の例としては、第二次世界大戦時におけるナチス・ドイツユダヤ人に対する強制労働があげられる。日本軍に強制連行された朝鮮人や中国人にも過酷な労働が強いられた。

[木下秀雄・吉田美喜夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「強制労働」の意味・わかりやすい解説

強制労働 (きょうせいろうどう)

強制力行使や,脅迫手段の誇示など,精神や肉体の自由を奪ったうえで,自由意思に反する労働提供を強要すること。日本国憲法は18条において,〈何人も,いかなる奴隷的拘束も受けない。又,犯罪に因る処罰の場合を除いては,その意に反する苦役に服させられない〉と規定しており,労働基準法においても労働者の意に反して働かせることを禁じている。国際的にみても,植民地・委任統治地域における住民への強制労働を禁止する目的で,1930年,ILOは29号条約〈強制労働に関する条約〉を採択しており,日本も32年に批准している。これは,政治的制裁の手段,経済的発展の手段,労働規律の手段,差別待遇の手段,ストライキ参加への制裁手段としての強制労働を禁じた105号条約(強制労働の廃止に関する条約,1957年採択)とともに人権に関する基本条約となっている。

 強制労働は,資本主義確立期における原生的労働として,また植民地経営の一環として,鉱山や鉄道の開発,建設,森林伐採等に利用されてきた。朝鮮から〈官斡旋〉の手段で朝鮮人を強制連行したのはこの一例といえる。また戦前は,土建業や炭鉱のいわゆる〈監獄部屋〉や〈たこ部屋〉,紡績業における〈寄宿舎〉などでは強制労働がかなり行われていた。一貫した強制労働政策の例としては,ナチス・ドイツやスターリン体制下の収容所が挙げられる。とくに後者は,〈階級敵〉や〈クラーク〉といった体制にとっての〈敵〉階級を一掃し,労働を通じた人間変革をめざすと称した点で特異な例であり,実際には,矯正と再教育による社会復帰を掲げたものの,重工業施設や,運河,鉄道,森林等の開発に奉仕するための制度であった。
奴隷的拘束・苦役からの自由
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知恵蔵 「強制労働」の解説

強制労働

戦後補償」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「強制労働」の意味・わかりやすい解説

強制労働【きょうせいろうどう】

人の意思に反して労働を強制すること。現行憲法には禁止規定(18条)があり,労働基準法も暴行・脅迫・監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって労働を強制することを禁止している。ILO29号条約および105号条約にも同趣旨の規定がある。→ILO監獄部屋強制連行

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「強制労働」の意味・わかりやすい解説

強制労働
きょうせいろうどう
forced labour

本人の意思に反して労働を強制すること。脅迫,暴行,監禁など直接的方法のほか,心理的圧迫など間接的方法をもって行われることもある。監獄部屋,タコ部屋,ナチスの強制収容所内における強制労働などが代表的な例である。強制労働は人間の尊厳ならびに基本的人権尊重の理念に著しく反するものであり,各国の憲法や,その他の国内法 (日本では憲法 18,労働基準法5) および国際条約 (ILO29号条約,105号条約,国際人権規約など) によって禁止されている。

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世界大百科事典(旧版)内の強制労働の言及

【出稼ぎ】より

…男子の出稼ぎとして炭鉱や鉱山の鉱夫などもあった。戦前の出稼ぎには虚偽の労働条件の提供,強制労働,ピンはねなどの弊害がしばしばともなったが,戦後は職業安定法や労働基準法によってこれらの取締りがいっそう強化されることになった。 戦後は農閑期を利用した土建業,製造業への季節的出稼ぎが中心である。…

※「強制労働」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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