日本大百科全書(ニッポニカ) 「従業員満足度」の意味・わかりやすい解説
従業員満足度
じゅうぎょういんまんぞくど
employee satisfaction
従業員の労働内容、報酬・待遇、企業風土、経営ビジョン、職場環境、人間関係などに対する満足度。略称ES。産業界では従業員満足度で定着しているが、学術分野では「職務満足度job satisfaction」という用語が使われることもある。従業員の仕事に対する満足度を高めることが、モチベーション(やる気)を引き出し、生産性向上や業務効率化を通じて、業績向上につながるとの考え方に基づく概念である。1920年代に、アメリカの管理学者ロバート・ホポックRobert Hoppock(1901―1995)が著書Job Satisfaction(1935)で最初に提唱したとされる。1959年には、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグFrederick Herzberg(1923―2000)が、職務満足度に関する要因には仕事の内容に関わる満足要因(動機づけ要因)と職場環境などに関わる不満足要因(衛生要因)があり、従業員のやる気を決定する満足要因と不満足要因は別のものだとした「動機づけ・衛生理論Motivation Hygiene Theory」を提唱し、従業員満足度の理論的基礎を築いた。20世紀後半には、顧客だけでなく、ステークホルダー(利害関係者)の一部である従業員の満足度を高めることが、業績や企業価値の向上につながるとして、産業界や証券・金融界で注目されるようになった。このため従業員満足度は顧客満足度と対比して使われることが多い。
21世紀に入り、仕事と生活を両立するワーク・ライフ・バランスの一環として、従業員満足度を重視する傾向が強まっている。さまざまな調査方法が開発されており、数多くの調査・コンサルタント会社がある。産業界では、従業員満足度の改善・向上は競争力強化に直結するとの考え方があり、調査結果に基づいて、報酬・待遇の改善、福利厚生制度の拡充、従業員を精神的にサポートするメンター制度の導入・整備などに取り組む企業がある。こうした取組みをES改善活動とよぶ。一般に従業員満足度が低い企業や組織では、離職率が高くなるとされている。最近は、従業員を法律に違反して過重労働させる「ブラック企業」が社会問題化したため、従業員満足度を重視する傾向が強まっている。
[矢野 武 2015年8月19日]