裁判所または捜査機関が、証拠物または没収すべき物の占有を取得する処分のことをいう。押収には、差押えと領置と提出命令が含まれる(刑事訴訟法99条)。差押えと領置は、裁判所が行う場合と捜査機関が行う場合とがあり、提出命令は裁判所にのみ認められている。差押えとは、物の占有を強制的に取得する処分であり(同法99条1項、218条1項、220条1項、222条1項)、物の移転がつねに伴うとは限らない(たとえば、建物の差押え)。領置とは、遺留物や任意提出物の占有を取得する処分である(同法101条、221条、222条1項)。提出命令とは、差押えの対象となる物を指定し、所有者、所持者または保管者にその物の提出を命ずる裁判である(同法99条2項、100条1項・2項)。なお、公務上の秘密あるいは一定の業務上の秘密に関するものについては、刑事訴訟における真実発見の利益を上回る利益がありうるので、押収拒絶権が認められている(同法103条~105条)。
憲法第35条は、押収する物を明示する令状を要求して、令状主義を定めている。これを受けて法律は、捜査機関は、裁判官の発する令状により差押えをすることができるとしている(刑事訴訟法218条1項)。裁判所が法廷外で差押えをする場合にも、差押状を発してこれを行うこととしている(同法106条)。押収手続に違法があった場合の押収物の証拠能力につき、判例は、以前は、押収手続に違法があったとしても物自体の性質、形状に変異をきたすはずはないから証拠の価値に変わりはないとしてその証拠能力を認めていた。しかし、1978年(昭和53)9月7日の最高裁第一小法廷判決は、捜索差押許可状なくして覚せい剤等を押収した事案に関して、押収手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、そのような違法手続によって得られた証拠物を証拠として許容することは、将来における違法な捜査を抑制するという見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである、とした。この違法収集証拠の排除法則は、今日、日本の実務に定着するに至っている。
[田口守一]
刑事事件,少年保護事件等において,証拠物や没収すべき物の占有を官憲が取得する処分。裁判所あるいは捜査機関によってなされる。強制的に占有を取得する場合を差押え,遺留物や任意に提出された物に対する場合を領置と呼ぶ。提出命令という方法もある。押収,とりわけ差押えについては,目的物を明示した司法官憲(裁判官)の発する令状が必要とされる(憲法35条。令状主義)。このことは捜査機関による差押えの場合に重要な意味をもつが,逮捕の際にその現場で差押えをするには令状を要しない(同条)。公務上の秘密や,医師,弁護士,宗教の職にある者等の業務上の秘密に関する場合には,押収が制約されている。押収をしたときは,目録を作成して交付する。押収物は留置の必要がなくなれば還付される。留置の必要があっても,請求により仮還付されることもある。
執筆者:米山 耕二
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