他の会社の株式を所有することにより、その他社の事業活動を支配することを目的とする会社。ホールディングカンパニー。その際、株式所有に必要な資金は、持株会社自身の株式を発行して一般投資家など外部から調達されることが多く、これを証券代位とよび、リーフマンのように証券代位に持株会社の本質を求める考え方もある。しかし、同族の封鎖的支配下にあった戦前の日本の財閥では、三井合名会社、三菱(みつびし)合資会社などの財閥本社は傘下の多数の事業会社の株式を所有しながら、その出資がすべて同族内でなされ、証券代位が存在しなかった。こうした現実を踏まえた場合、証券代位を行わない持株会社もあると考えるのがより妥当であろう。
持株会社の経済的意義は、持株会社による子会社株式の過半数所有(実際にはそれ以下ですむ)、同様に子会社による孫会社株式の所有といったピラミッド型持株支配構造によりコンツェルンを形成し、比較的少額の資本により大規模な事業網の支配を可能にすることにある。こうして独占的な企業集中形態としての持株会社は、支配に必要な資本の節約を可能にするとともに、傘下企業の独立性をなかば維持しながら、しかも統一的な支配を確保できるという利点を有しており、19世紀末以降のアメリカで、それまでの受託者トラストにかわるものとして急速に普及した。1899年に組織されたニュージャージー・スタンダード石油は持株会社を利用した最初の大規模な企業結合であり、ついで1901年に設立されたUSスチールも持株会社機構を通じて主要鉄鋼企業を統合し、全米鉄鋼生産能力の70%という圧倒的シェアを実現した。このように持株会社は独占的企業の設立に利用されたが、一部の少数者が産業を支配する危険があることから、アメリカでは1914年のクレートン法で規制を受けるに至った。また日本では、第一次世界大戦期を中心に各財閥が持株会社を設立し、それを中核とするコンツェルンを形成した。さらに昭和期に入って、日産など新興コンツェルンでは株式を公開し、証券代位を行う持株会社も登場した。
第二次世界大戦後の財閥解体で財閥本社はすべて解体され、1947年(昭和22)に制定された独占禁止法も第9条で純粋持株会社の設立を禁止してきた。しかし1990年代に入って、経済界が国際競争力確保の観点から持株会社解禁を強く要望するに至り、1997年(平成9)独占禁止法改正案が国会で成立して、過度の資本集中を生じる場合を除いて持株会社設立が解禁された。これにより、企業の分社化によるリストラクチャリングや合併による業界再編が容易になった。解禁後の持株会社設立第1号は、ダイエーによるダイエーホールディングコーポレーション(DHC)である。1999年4月には大和証券(持株会社名は大和証券グループ本社)、同年7月に日本電信電話(NTT)が持株会社になっている。さらに日本版金融ビッグバンによる金融再編成を迎える金融業界でも持株会社設立を視野に入れた業務提携を結ぶ動きが相次いだ。2000年(平成12)9月に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行による共同持株会社としてみずほホールディングスが設立されたのをはじめとし(2003年にみずほフィナンシャルグループに変更)、2001年4月には三和銀行、東海銀行、東洋信託銀行によるUFJホールディングス、東京三菱銀行、三菱信託銀行による三菱東京フィナンシャル・グループ(2005年10月にUFJホールディングスと三菱東京フィナンシャル・グループは合併し、三菱UFJフィナンシャル・グループ)、2002年12月には三井住友銀行による三井住友フィナンシャルグループが設立され、大手銀行はすべて持株会社体制となった。
[中村青志]
『西野嘉一郎著『近代株式会社論――持株会社の研究』(1935・森山書店)』▽『高宮晋著『企業集中論』(1942・有斐閣)』▽『鞠子公男著『持株会社』(1971・商事法務研究会)』▽『金融持株会社研究会編『日本の金融持株会社』(2001・日本証券経済研究所)』▽『下谷政弘著『持株会社解禁』(中公新書)』▽『武藤泰明著『持株会社経営の実際』(日経文庫)』
日本の独占禁止法では9条3項で,〈前2項において持株会社とは,株式(社員の持分を含む。以下同じ)を所有することにより,国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社をいう〉と規定されている。このような実定法上の規定は,国際的にみても数少ない例である。一般には,より広義に,株式所有を主たる事業とする純粋持株会社と,それを主たる事業とはしない事業持株会社の両方を含むと考えられている。事業活動の比率が高い事業持株会社を親会社,その支配下にある他社を子会社ないし従属会社という。ドイツの経済学者リーフマンRobert Liefmann(1874-1941)は,持株会社の本質を証券代位substitution of effectに見いだしている。証券代位とは,他社の株式証券を獲得し,これに参与することを目的として,株式ないし社債を発行することをいう。リーフマンは,証券代位を行う会社を,投資会社,証券引受会社,支配会社の3者からなる参与会社と総称した。彼の定義では,他社の支配の有無は問わないが,現在では通常狭義に支配会社のみを持株会社という。しかし,証券代位を行わない持株会社もある。
持株会社による子会社支配,さらに子会社による孫会社支配といったピラミッド型支配構造を形成することによって,持株会社制度は比較的少額の資金で巨額の資金支配を可能にする。そのため,一部の少数者による産業支配の危険や,子会社の一般株主および債権者の利益が侵害されるおそれがある。このピラミッドの頂点にある最高持株会社は,子会社を直接支配するだけでなく,孫会社以下の全傘下企業を間接的に支配する。多産業にわたって構成されたピラミッド型支配構造がコンツェルンであり,同一産業内のそれがトラストである。持株会社による企業集中は,アメリカではコモン・ローによって違法とされた受託者トラストに代わる形態として,19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んに行われたが,1914年のクレートン法(アンチ・トラスト法)によって設立に制限が設けられた。USスチール社は1901年に設立された代表的な持株会社であった。第2次大戦前の日本の財閥は,持株会社である財閥本社を根幹とした巨大コンツェルンであった。財閥本社の特徴は,証券代位を行わなかった点にある。とりわけ住友合資会社は住友吉左衛門1人によって全額出資されていた。
戦後,財閥本社は連合軍によって解体され,また純粋持株会社も独禁法によって全面的に禁止されていたが,1997年6月独禁法第9条の改正により解禁された。持株会社設立は原則自由となったが,公正取引委員会が事業支配力過度の集中につながると判断した場合は禁止される。以下の三つがそれである。(1)グループの総資産が15兆円を超え,かつ5事業分野以上で総資産3000億円超の企業をもつ場合,(2)総資産が15兆円を超える金融機関など,(3)相互に関連性のある相当数の事業分野での有力企業同士。
→金融持株会社
執筆者:井口 富夫
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他の会社の株式を保有し,それらの会社を支配することを目的とする会社。他会社支配を主要業務とする純粋持株会社と事業兼営持株会社がある。アメリカではスタンダード・オイルなど同一産業の独占を目的として設立されることが多かったが,第2次大戦前の日本では,三井・三菱などが,同族の出資する財閥本社を多くは純粋持株会社として,傘下に複数産業にわたる複数企業を擁するコンツェルンを形成した。これには税金対策の意味もあった。1930年代に成長した新興コンツェルンは,化学工業を中心とする事業兼営持株会社が多く,株式が公開されていた。第2次大戦後,財閥解体によって財閥本社は解散し,独占禁止法によって純粋持株会社の設立が禁止された(1997年解禁)。
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(2017-1-26)
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…一つまたは複数の銀行,証券,保険,その他非銀行子会社を傘下に保有して金融業務を行う経営形態。 これは独占禁止法第9条が禁止してきた純粋持株会社に該当する。このような禁止規定は主要国ではほとんど例がなく,また企業経営の柔軟性を阻害する懸念があることなどから,1997年6月独占禁止法が改正され,持株会社の設立を原則自由としたが,第116条で,別に法律で定める日までの間は金融持株会社の設立を禁止した。…
…第2次大戦後,連合国(中心はアメリカ)の対日占領下で行われた〈経済民主化〉政策の一環で,農地改革,労働運動の解放とともに三大経済改革の一つである。戦前帝国主義下の日本の産業組織において,支配的資本としての金融資本(独占資本)は,財閥――家産を基礎とした持株会社がさまざまな産業部門に子会社,孫会社を擁して持株支配を行う日本独特のコンツェルン組織として存在していた。アメリカは,この財閥の制度的特質を農業における地主制とともに日本軍国主義の制度的手段となったとみなし,1945年8月29日付政府文書〈降伏後における米国の初期の対日方針〉および同年11月1日付統合参謀本部のマッカーサーあて文書で,その〈解体の促進〉を指示した。…
…この受託者方式による企業結合は,1890年に成立したシャーマン法(アメリカの独占禁止法の基本法。〈アンチ・トラスト法〉の項参照)によって規制対象となったので,それ以降の企業結合は持株会社holding company方式ないし企業合併corporate merger方式に移った。したがってトラストは,(1)受託者方式のトラスト,(2)持株会社方式のトラスト,および(3)企業合併方式によるトラスト,に分類できる。…
※「持株会社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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