改訂新版 世界大百科事典 「斜陽産業」の意味・わかりやすい解説
斜陽産業 (しゃようさんぎょう)
生産高や売上高が過去にピークを記録して以来,現在まで低下ないしは低迷状態にあって,将来も不振が続くとみられる産業。これと逆なのが成長産業である。現代の日本では石炭産業,紡績産業が典型的な例に当たる。たとえば第2次大戦後から1960年ころまで,石炭は最も重要なエネルギー源として電力,都市ガス,鉄道等で使われたので,その生産高は高い伸びを記録し,石炭産業は成長産業,花形産業として隆盛をきわめた。ところが,60年代前半に石油が安く大量に海外(主として中近東諸国)から輸入できるようになると,石油のほうが流体であるため運搬,貯蔵,燃焼操作等に便利であるうえに灰がでないので,エネルギー源は急速に石炭から石油へ切り換えられた(エネルギーの流体革命)。このため,日本の石炭産業は急速に衰退し,61年度末に574もあった炭鉱数は79年度末には26にまで減少した。2度にわたる石油危機で石油価格が大幅に引き上げられたから,70年代半ば以降は電力業界等で再び石炭の利用が増加しているが,採炭条件の悪化等から海外炭に対する競争力を失っており,日本の石炭産業は低迷を続けている。斜陽産業になる要因としては,他の競合する製品に需要が移行したり,主要製品のライフサイクルが最盛期を過ぎたり,また賃金の上昇等から海外の製品との競争力を失ったりすること,などがあげられる。
執筆者:下田 雅昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報