景気の良しあしを表す指標を景気指標というが,これには次の三つの種類がある。第1は,経済統計そのもので,鉱工業生産指数,物価指数,GNP(国民総生産),企業収益といった統計がここに含まれる。第2は,とくに景気状況を判断するためにくふうされた指標で,景気動向指数あるいはディフュージョン・インデックスdiffusion index(DIと略称)と呼ばれる。第3は,企業や家計による売上げや所得の予想を示す指標で,サーベイ・データがこれに当たる。第1の種類の経済統計のなかで景気の動きを最もよく表しているのは,製造業の出荷指数(製造業),生産指数(同)である。またこれらと同じ方向に動く製造業の所定外労働時間(同)も,景気の動きに敏感である。しかし,こうした製造業中心の動きは,製造業生産が国民経済のなかで1/4程度を占めるにすぎないので,GNPの動向を観察することで補う必要がある。とりわけ製造業生産は輸出の動きに大きく左右されるのに対して,それ以外の部門は内需に左右される度合が強く,輸出と内需はいつも同じ方向で動いているわけではないからである。内需に左右されやすい部門には,建設,ガス・水道,卸・小売,金融・保険,不動産,サービスの各産業がある。こうした内外需の動きを総合的にとらえた統計がGNPである。GNPはまた,この内需を消費支出,設備投資,在庫投資などに分けて示してある。このなかで在庫投資は景気に最も敏感に反応するが,1年以上に及ぶ景気の流れは,消費や設備投資をみるほうがよい。第2の景気動向指標(DI)は,二つの目的をもっている。景気の先行き,転換点をみることと,好況,不況の日付をつけるためである。現在(1984年4月),経済企画庁がつくっている景気動向指標は全部で30の指標から成り,(1)景気全般に先立って早く動く傾向のある先行系列(12個の指標),(2)景気全般といっしょに動く一致系列(11個の指標),(3)景気に遅れて動きやすい遅行系列(7個の指標),の三つに分けてある。それぞれの景気指標を先行指標,一致指標,遅行指標という。先行系列は,機械受注,東証株価指数,所定外労働時間,通貨残高といった,景気の先行きをみるのに重要な指標から成る。一致系列には,前述の出荷・生産指数のほか,労働市場の動きを示す有効求人倍率,大口電気使用量などが入っている。遅行系列のなかで代表的な指標は,設備投資を示す資本財出荷指数(輸送機械は除く)である。DIは,前月にくらべて上昇した指標の数を,系列のなかに含まれている指数の総数で割った百分率のことである。たとえば,先行系列をつくっている10個の指標のうち,6個が上昇していればDIは60%である。先行系列が50%を上回っていれば,景気は先行き上昇に転じる可能性が高い。50%を切ればその反対である。先行,一致,遅行の3系列に含まれる30個の全指標について同じようにDIをつくったものを総合系列と呼び,この総合DIが50%を下回っている期間は不況期,上回っている期間は好況期として,景気循環の基準日付に使われる。第三の景気指標としてのサーベイ・データには,経済企画庁の企業経営者見通し,法人企業投資動向調査,日本銀行の主要企業短期経済観測(略称,短観)などがある。これらは企業が,売上げ,生産,収益などの先行きをどう予想しているかという企業心理と景気の関係をみるうえで重要である。
→景気循環
執筆者:吉冨 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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