株式会社の構成員たる社員の地位は均等な割合的単位に細分化されるため株式といわれ,株主とは,かかる株式の帰属主体をいう。株主は,実質的には会社企業の共同所有者であるから,企業支配と企業利潤に参与する権利を有する。合名会社や合資会社では,持分単一主義がとられ,各社員の有する地位は1個であって,その大きさが出資額に応じて異なるものと考えられるが,株式会社の場合には,持分複数主義がとられ,各株主はその持株数に応じて数個の株主の地位を有するものとされる。株式は株主の地位の単位であるから,1個の株式を複数の株主が共有することはできるが,単位を引き下げて従来より小さい新単位を作る株式分割(商法218条以下)と異なり,1個の株式を分割して譲渡したり,株主の有する各種の権利の一部のみを譲渡することは,法がとくに認めている例外(端株制度)を除いて許されない(株式不可分の原則)。
株主は,株式会社の社員としての地位において,会社に対して各種の権利を有するが,それらは種々の基準によりつぎのように分類されている。
自益権とは,利益配当請求権と残余財産分配請求権を中心として,そのほか,利息配当請求権,株式買取請求権等のように,株主が会社から経済的利益を受ける権利である。共益権とは,株主総会での議決権を中心とし,そのほか,各種の監督是正権のように,株主が会社の管理運営に参加することを目的とする権利である。議決権は,株主総会の多数決によって,基本的事項に関する会社の意思を決定するとともに,取締役・監査役を選任して会社の経営と監査をゆだねるという,会社の正規の運営体制の基礎をなすものである。監督是正権は,多数派株主による会社の運営から生ずる病理現象の防止または排除のために認められる権利であって,少数派株主の保護を目的とする。
単独株主権とは,1株のみを有する株主でも行使しうる権利で,自益権はすべてこれに属する。共益権のうち,議決権はこれに属するが,監督是正権では,設立無効訴権,総会決議取消訴権,累積投票請求権,代表訴訟提起権,取締役・清算人の違法行為差止請求権,新株発行差止請求権,新株発行無効訴権等,そのうちの一部がこれに属するにとどまる。少数株主権とは,原則として発行済株式総数の一定割合または一定数以上の株式を有する株主のみが行使しうる権利であるが,1人の株主だけでこの要件をみたす場合のほか,数人の株主の持株数を合算してこの要件をみたす場合にはその数人が共同して行使しうる。監督是正権のうちの一部のものは,その濫用を防止するために少数株主権とされており,提案権は100分の1または300株(単位株制度をとる会社では300単位)以上の株式を有する株主,総会手続調査のための検査役選任請求権は100分の1以上の株式を有する株主,総会招集権,取締役・監査役の解任請求権,会計帳簿閲覧権等は100分の3以上の株式を有する株主,業務・財産調査のための検査役選任請求権,解散請求権等は10分の1以上の株式を有する株主のみが行使しうる。
固有権とは,株主の本質的利益に関するものであって,その株主の同意がないかぎり株主総会の多数決をもっても奪うことができない権利であり,非固有権とは多数決をもって奪うことができる権利である。固有権の理論は,株主平等の原則とともに,多数決の濫用から一般株主をまもる機能を有するが,いかなる権利が固有権であるかについては説が分かれており,株主の権利を保障する強行規定が発達している現在では,それほど大きな意義を有するものではない。
株主的権利とは,株主が株主たる地位において会社に対して有する上述のごとき諸権利のことで,これらは1個の株式に包含されているため,一部を分離して独立に処分の対象とすることはできず,株式が譲渡されれば当然に株式の譲受人に移転する。株主的権利は団体的制約に服するから,強行法規や株主平等の原則に反せず固有権を侵さないかぎり,会社は定款の規定や株主総会の決議でこれを剝奪・制限できる。債権者的権利とは,会社に対する取引上の債権のように株主たる地位と無関係な権利のみならず,株主たる地位に基づくものであっても,利益配当請求権のような抽象的権利と異なり,総会の決議により特定した配当金支払請求権のような具体的権利をも含むものであって,株式とは独立に処分の対象となり,団体的制約に服しない。
株主が株主たる地位において会社に対して負担する義務は,その有する株式の引受価額を限度とする有限の出資義務にとどまり(商法200条1項),それ以外にはなんらの義務も負わない。しかし分割払込制がとられていない現行法のもとでは,出資義務は会社の成立前または新株発行の効力発生前にすべて履行されなければならないから,株主の出資義務は株式引受人の出資義務にほかならず,株主となったときは原則としてなんらの義務も負っていない。資本充実の必要から,出資義務は現実に履行することを要し,その免除や払込金の返還は認められない。
各株主は,株主たる資格に基づく会社との法律関係において,その有する株式の数に応じて平等の取扱いを受けるという原則。一般の団体における社員平等の原則と共通し,多数決の濫用から一般株主をまもる機能を有するが,株主は資本的に結合するため,株主の平等は頭数ではなく各株主の有する株式の数を基準とし(相対的平等),この原則は,各株式の内容が原則として同一であり,内容が同一であるかぎり,各株式が同一の取扱いを受けるべきことをいう(株式平等の原則)。しかし,〈数種の株式〉等のように,商法は,この原則に対する例外として,法定の態様の範囲内で定款により権利の内容の異なる株式を定めることを認めている。
株式の本質をいかに解するかについて,通説は,株式をもって一般の社団における社員の地位と同一のものであって,多くの権能を有する単一の権利(社員権,株主権)と解している(社員権論)が,社員の地位は義務をも包含するから,社員権,株主権という用語をさけて,社員の地位,株主の地位ということが多い。しかし,自益権と共益権とは性質が異なり,共益権は社員が社員たる資格において有する権利ではないとして,社員権という概念を否定し,株式をもって自益権の総体と解し(社員権否認論),または利益配当請求権と解する説(株式債権論)もある。さらに,株式会社を営利財団法人とみて,株式を金銭債権と解する説(株式会社財団論)もある。
→株式
執筆者:平出 慶道
株主を,個人と法人の別,保有期間の長短,持株数の多少といった観点から分けると,それぞれ,個人株主・法人株主,安定株主・浮動株主,大株主・少数株主(1株株主はこの一種)となる。安定株主は法人株主,浮動株主は個人株主と一般的には考えられてきたが,もちろん,そうでないケースも多い。ところで,こうした分類のうちとくに重要な個人株主・法人株主について,以下に述べる。
個人持株比率は,第2次大戦直後70%近くにも達していたが,その後低落の一途をたどり,1996年度には23.6%となっている。反面,法人(金融機関,事業法人等)の持株比率は上昇を続け,同年度で66%強にも達している。そのなかには,系列化,提携強化などを目的とした,いわゆる政策投資による持株が少なくない。これは,〈株主の法人化現象〉と呼ばれるが,証券市場はもとより,国民経済にとって大きな問題をはらんでいる。すなわち,株式の持合いなど政策投資による株主の法人化現象が深化しすぎると,株式が固定され,株式市場の価格形成機能が低下することになりかねない。ひいては,流通・発行両市場の機能低下につながるおそれもある。これは,個人投資家にとって金融資産運用の場としての株式市場を失うことを意味し,同時に,日本経済の発展すなわち企業収益の向上による利益を享受できなくなることを意味する。他方,企業にとっても,株式発行による,資金の最終的な出し手たる個人からの資金調達の基盤が脆弱(ぜいじやく)化し,ひいては,資本の空洞化を招くことになるわけである。このような株主の法人化現象がなぜ起きているかについてはさまざまな説があるが,資本の自由化を背景とした法人の株式安定工作(買占め防止等のため安定株主をふやす手段を講ずること),あるいは時価発行の盛行,配当の低位固定化などを主因とみる説がある。
ただ,いわゆる〈バブル〉の崩壊後,〈株主の法人化現象〉の背景にあった〈株式の持合い〉に関し,〈株式の持合いの解消〉の動きがある。すなわち,〈財務体質改善の必要性〉〈事業会社の資金需要の減退〉などを背景として事業会社と金融機関の間で〈株式の持合いの解消〉の動きがある一方,1996年11月に発表された〈日本版ビックバン構想〉を背景に,金融機関相互においても〈株式の持合いの解消〉の動きがある。97年6月18日,純粋持株会社の全面的な禁止を改めることなどをその内容とする独占禁止法改正法が公布された。〈株式の持合い〉が発展してきた背景には,〈純粋持株会社の全面的な禁止〉という制度的要因があっただけに,〈純粋株式会社の解禁〉が〈株式の持合いの解消の動き〉にいかなる影響を与えるか,また,〈株主の法人化現象〉の中身がそれに伴ってどう変わっていくか,注目される。なお株主優待制度は,電鉄・航空会社,百貨店,映画・興行会社等によって古くから行われてきたが、近年はこうした業種の会社以外でも,個人株主を増やすべく積極的にこれの導入をはかるところが増えている。
執筆者:西村 重幸
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株式会社の出資者であり構成員である社員をいう。株主は、実質的には会社企業に対する共同所有者であるが、その持分(もちぶん)は、会社に対する法律上の地位として表され、細分化された割合的単位としての「株式」の形式をとる。株主はこの株式の帰属主体であり、各株主はその有する株式の数に応じた株主の地位を有し、株式の内容は同種の株式間では同一であり、各株主はその有する株式の数に応じて平等の取扱いを受ける(株主平等の原則)。
[戸田修三・福原紀彦]
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出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
…株式会社は会社の一種で,会社の構成員である社員(株式会社においては,株主と呼ばれる)の地位が株式という細分化された割合的単位の形をとり,同時に,すべての株主が,会社に対して,その出資額を限度とする有限責任を負担するだけ(いいかえると,株主は会社の債権者に対してはなんらの責任を負わない)の形態のものである。
【法的にみた株式会社】
上記のような株式会社の制度的特質は,個性を喪失した大衆投資家を株主とすることによって,大規模な資本の集中を図るための必要から生じている。…
…表決権ともいう。以下では,株主が株式会社における社員たる地位に基づき株主総会において決議に加わる権利について説明する。 株主は,資本団体としての株式会社の性質上,1株につき1個の議決権を有する(商法241条1項)。…
…こういった関係は,有限会社さらに近代株式会社においていっそう顕著となる。とくに近代株式会社では,資本市場―証券市場を通してきわめて多数の出資者が資本参加をするが,彼らの大多数は単なる投資株主,投機株主として企業の経営に当初から参加する意思も,ときには能力ももっていない。また仮に能力があっても,多くの株主がいっせいに経営に参画すれば意見一致に至るまで莫大な時間と費用がかかる。…
…一般には会社の被用者のことを社員という場合もあるが,法律上は社団なかんずく社団法人の構成員を意味する。株式会社では株主と呼ばれる者である。社員は社団の構成員であるから,社団に対し種々の権利を有し義務を負う。…
…それによって資本を広く外部から調達することが可能になった。分散した資本所有者の大部分が小株主であり,彼らのおもな関心は配当であり,経営への支配にはこだわらなくなった。これがいわゆる株式の分散という現象である。…
※「株主」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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