営利事業を営むための会社形態の一種。法律上、社員(株主すなわち出資者)の地位が株式という均等に細分化された割合的単位をとり、その社員が会社に対し、その有する株式引受価額を限度とする出資義務を負うだけで、会社債権者に対してなんらの責任を負わない(間接有限責任)会社をいう。経営的には、多数の出資者が株式制度によって結合した物的会社であり、営利的多数集団企業の一種とされる。いずれにせよ、株式会社の基本的特質は、株式と有限責任である。
[森本三男]
1602年オランダに設立された東インド会社に起源を求めるのが普通である。その後、株式会社制度は各国に伝わり、資本主義経済発展の原動力となった。初期の株式会社は、国王の特許によって個別的に設立される特許主義に基づいていたが、1807年のフランス商法典で免許主義が採用され、私的な民主的経済組織となった。さらに産業革命後、大規模企業への適合性による急速な普及に対応し、各国は19世紀なかばから所定の要件に合致すれば設立できる準則主義に転換し、これによって設立が自由かつ容易になったため、中心的企業形態としての株式会社の地位は不動のものとなった。日本では、1869年(明治2)に設立された通商会社と為替(かわせ)会社が株式会社の最初とされることもあるが、これらは組合的色彩を脱しきれない不完全な株式会社であり、むしろ1873年に設立された第一国立銀行を日本最初の株式会社とする見方が一般的である。1899年商法が制定され、出資と経営の合一した株主支配を基礎にするドイツ的色彩の強い株式会社制度が盛り込まれ、準則主義が定着した。第二次世界大戦後、出資と経営の分離を中心にした株式会社の実態の変化に対応し、また経済民主化の流れもあって、アメリカの制度を大幅に取り入れた商法の大改正が1950年(昭和25)に行われた。さらに2005年(平成17)には、それまで分散していた会社に関する法律を一つに統合した会社法が制定された。
[森本三男]
経営上からみた株式会社の特質として次の諸点をあげることができる。
〔1〕出資と経営の分離(所有と経営の分離、あるいは資本と経営の分離ともいう)が可能になり、有能な人材を経営者に迎えることができること。株式会社では、株主は株主総会において会社の基本的意思決定に参加できるが、会社の基本的意思決定の大部分は取締役会に委譲されており、株主総会にはごく限られたものしか残されていない。また、経営者である取締役を株主に限定することは法的に許されない。このような制度上の仕組みは、出資と経営を分離し、専門経営者に経営をゆだねるうえできわめて好都合である。しかも実態は、法律的制度が想定しているよりもはるかに出資と経営の分離が著しい。株式会社の大規模化とともに株主数は増大し、株式所有が分散して、上位大株主の持株比率も、会社の意思決定を支配するに必要な割合に達しなくなる。大多数の株主は投資株主や投機株主と化した大衆株主であるが、彼らの多くは経営に無関心、無能力である。これらの事情が相まって、株式会社の最高意思決定機関である株主総会は、「観客なき喜劇」と形容されるほど形骸(けいがい)化し、経営者の提出した原案を形式的に承認し決定する儀式の場になっていることが多い。かくて、株式会社の実質的支配権は、形式上の法的所有者である株主から経営者である取締役へと移っている。取締役のなかでもCEO(チーフ・エグゼクティブ・オフィサーChief Executive Officer、最高経営責任者)の肩書を与えられた社長(代表取締役)の地位は圧倒的に強大であるから、株式会社の実権は、株主総会から取締役会に、取締役会からCEOに移り、「会社はだれのものか」という企業統治(コーポレートガバナンス)の問題を生み出している。
〔2〕資本の集積・集中にもっとも適していること。株式制度と有限責任制は、大衆の間に散在する資金を吸収し、巨大資本へ集積する手段としてきわめて有効である。しかも会社の財産は、株主の顔ぶれの変動とまったく無関係に、それ自体安定した資本体を形成し、会社の活動と個々の株主の活動も別個のものとされている。このような会社の財産と活動とは、専門経営者の指揮のもとに置かれ、多額の固定資産を必要とする高度の機械制生産にとってきわめて好都合である。また株式会社は、株式会社相互間で株式所有を行うことにより、支配と従属、提携、集団化、系列化を進め、あるいは合弁事業を展開することができ、個別会社を超えた資本の集中にとって、きわめて便利な点が多い。
[森本三男]
株式会社に対する法律的な制度や諸政策は、政治的・経済的変動に伴って多くの変遷を経てきた。
[戸田修三・森本三男]
初期においては、株式会社は国王の特許状によって設立され(特許主義)、その経営には国家の任命した官吏と大株主とがあたった専制的組織のものであった。その後しだいに国権から解放されて私的な民主的組織となったが、1807年のフランス商法典では免許主義をとり、民主主義的な機構を確立した。19世紀後半に至って各国で準則主義が採用され(イギリス1862年会社法、フランス1867年法、ドイツ1870年法)、株式会社の設立は容易になり、いっそう広く利用されるようになった。日本でも1899年(明治32)に現行商法が制定されたが、これは主としてドイツ商法を範とし、それにフランスおよびイタリア商法の影響も若干受けたものであった。各国の株式会社法は19世紀後半にほぼ確立されたが、第一次世界大戦後、株式会社法の改正が世界的な傾向となり、イギリス1929年、ドイツ1931年および1937年、フランス1935年および1937年にそれぞれ大きな改正があり、日本でも1938年(昭和13)に大改正が行われた。第二次世界大戦後ふたたび改正の動きが現れ、1948年イギリスが会社法を改正したのをはじめ、ドイツでも1960年に一部改正が行われた。日本でもアメリカ合衆国の制度を大幅に取り入れた大改正が1950年(昭和25)に行われた。
[戸田修三・森本三男]
第二次世界大戦後の混乱期を過ぎて各国の経済が立ち直り、株式の大衆化がいっそう進むにしたがい、ふたたび株式会社法の改正が問題となった。さらに資本の自由化やヨーロッパ経済共同体の成立といった国際経済の動向がこの傾向に拍車をかけ、各国で改正事業が盛んに行われた。西ドイツでは1965年に株式法が改正され、フランスでは1966年に、イギリスでは1967年および1980年にそれぞれ改正がなされた。そのほか、イタリア、ベルギーなどでも改正作業がなされた。
アメリカ合衆国では州によって会社法が異なるが、1950年に公布されたアメリカ法曹協会American Bar Associationの手による「模範事業会社法」Model Business Corporation Actは多くの州で採用され、統一化が図られた。同法は1984年に大規模な改正を行い、「改正模範事業会社法」Revised Model Business Corporation Actとなった。現在では、全米24州が改正模範事業会社法のすべて、あるいはほぼすべてを州の会社法として採択しており、また、多くの州でも部分的に採用している。
これらの立法にほぼ共通する特色の一つは、ますます広がる企業の所有と経営の分離に対応して、株主の保護を図ることであり、具体的には、取締役の責任強化、会社の計算規定の合理化・厳格化、情報の公開、少数株主の保護などである。
日本でも1962年(昭和37)には計算関係の規定を中心とした改正が、1966年には記名株式の裏書廃止、株式譲渡制限、株券不所持制度、議決権の不統一行使などの重要な改正、さらに1974年には株式会社の監査制度に関する大改正が行われた。1981年には、株式につき株式単位の引上げとこれに伴う端株(はかぶ)や単位株制度の採用、また機関については、株主の提案権、取締役等の説明義務、議長の権限の明確化、株主権の行使に関する利益供与の禁止などにより、株主総会の活性化を図るとともに、取締役・取締役会の合理化と責任の強化、および監査役の権限の強化と独立性の確保を図るための改正のほか、株式会社の計算の公開、新株引受権付社債の新設などの大改正が行われた。
1990年(平成2)には、大小会社区分立法を中心として商法の改正がなされた。そのうちのおもな改正点を以下にあげる。
(1)株式会社に最低資本金の制度を設けることにより、株式会社の財産的基礎を確保することとし、資本の額は1000万円以上であることが要求された(旧商法168条の4)。従来、株式会社には最低資本金についての定めがなかったので、株主有限責任との関係で会社債権者にとっては会社財産だけが唯一の担保であり、会社に少なくとも一定の額を保有させることが必要であるという意見が強かった。
(2)会社の設立手続の合理化として、株式会社の発起人の数を7人以上としていた規制を廃止して、1人でもよいこととした(一人会社(いちにんがいしゃ))。また、発起設立における検査役の調査の廃止、現物出資・財産引受けの場合における検査役の調査の一部省略など、小規模会社に適合する手続規制の緩和が図られた。
(3)優先株式の発行の容易化。
(4)株式配当および無償交付につき、その本質が、利益もしくは準備金の資本組み入れに基づく株式分割であることにかんがみ、それぞれの規定を削除し、株式分割に関する規定に整理した。
(5)そのほか、株券記載事項の合理化、利益準備金の積立て基準の拡充強化による会社債権者の保護などに関する改正がなされた。
1993年には、株主による会社の業務執行に対する監督是正機能の強化を図るとともに、株式会社の監査役制度の実効性を高めるために必要な改正がなされたが、そのほか株式会社の資金調達方法を合理化し、社債権者の保護を強化するために、社債に関する制度の整備を目的とした所要の改正が行われた。そのうちのおもな改正点は、以下のとおりである。
(1)株主による会社の業務執行に対する監督是正機能の強化として、株主代表訴訟の訴訟の目的の価額を95万円とみなし、手数料を一律8200円とすること、株主の帳簿閲覧権の持株要件を、発行済株式総数の100分の3以上とすること。
(2)株式会社の監査機能の強化として、監査役の任期を3年に伸張すること、大会社の監査役を3人以上に増員するとともに、社外監査役制度の導入および監査役会を法制化すること。
(3)社債制度の改善として、社債発行限度枠の規制を廃止すること、発行会社に社債管理会社(銀行・信託会社等)の設置を原則として義務づけること、社債管理会社の権限、社債権者集会、担保付社債信託法における所要の改正措置が図られた。
1994年には、自己株式の取得規制の緩和を内容とする商法の改正がなされた。改正前の商法210条は自己株式の取得を原則として禁止し、株式の消却のためなどに限り認めていた。改正法では原則禁止は維持しつつ、取得が認められる事由を拡大し、(1)使用人に譲渡するため、(2)定時総会の決議に基づく利益消却のため、(3)閉鎖会社において、株式の譲渡承認および買受人指定の請求があったときに会社が売渡請求をした場合、または株主の相続があった場合でも取得を認めることとした。さらに1997年には、取締役に譲渡する場合も取得を認める改正がなされた。
[戸田修三・森本三男]
1990年ごろにバブル経済が崩壊した後、経済構造改革(規制緩和)と金融改革による日本経済の再生に懸命の努力が続けられたなかで、商法・会社法の改革が展開した。これは、会社法制現代化のための序奏でもあった。1997年の改正においては、合併手続を行いやすくするための制度改革がなされた。1999年には完全持株会社制度を導入しやすくするために、株式交換・株式移転制度が創設された。さらに金融資産を時価評価する制度も導入された。2000年には会社分割制度が導入され、事業の切出し・リストラクチャリングを行いやすくした。
前記のとおり、商法改革はパッチワーク的に続けられてきたため、各種制度間の調和の必要性が叫ばれ、商法の抜本改革の要求が生じてきた。2001年4月に法務省は、「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」を公表し、会社法制の大幅見直しの視点を、(1)企業統治の実効性の確保、(2)高度情報化社会への対応、(3)企業の資金調達手段の改善、(4)企業活動の国際化にあることを示した。
2001年には1年に三度も商法改正がなされた。まず6月改正(議員立法)では、自己株式取得制度の大幅緩和(通称、金庫株解禁)、株式制度の改革(株式の大きさの任意化、額面株式の廃止、単元株制度の導入、端株制度の合理化)、法定準備金制度の改善、新株発行規制の合理化がなされた。ついで、11月改正(閣法)では、種類株式の弾力化(議決権制限株式の導入ほか)、新株予約権の創設、新株発行規制の緩和、会社運営のIT(情報技術)化対応(会社書類の電子化、総会招集通知等の電子化、電子投票制度の導入ほか)、商法施行規則の制定がなされた。さらに、12月改正(議員立法)では、監査役制度の改善(機能強化と地位強化、社外監査役の要件・人数)、取締役等の責任軽減制度の創設、株主代表訴訟制度の合理化がなされた。
2002年には相当多岐にわたる商法改正がなされた。
(1)株式関係 種類株主の取締役の選解任権、株券失効制度の創設、所在不明株主の株式売却制度等の創設、端株券の買増制度、
(2)機関関係 株主提案権の行使期間の繰上げ、株主総会の定足数の緩和、株主総会招集手続の簡素化、取締役の報酬規制の改正、重要財産委員会制度の創設、大会社以外の株式会社における会計監査人による監査、委員会等設置会社に関する特例、みなし大会社制度の導入、
(3)計算関係 計算関係規定の省令委任、大会社についての連結計算書類の導入、
(4)その他 現物出資等の価格の証明、資本減少手続等の合理化、外国会社、罰則、
である。
2003年の商法改正内容は、定款に規定を置くことによって取締役会決議による自己株式の買受けの許容、中間配当限度額の財源規制の改善、株主代表訴訟の手数料額を1万3000円にする、である。2004年の商法改正では、電子公告制度の導入、株券不発行制度の導入がなされた。
[戸田修三・福原紀彦]
以上の商法改革の仕上げとなる商法改正が「会社法制の現代化」と称して準備された。形式的には、「商法」第2編(会社)、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)、「有限会社法」についての大改正(平仮名現代語化、用語整理・解釈明確化・規定整備、会社規定再編・「会社法」制定)である。しかし、法改正は、(1)「会社法」の制定と現代語化、(2)従来型企業の規制緩和(取締役の無過失責任の見直し、取締役会の権限強化)、(3)非公開中小企業の取締役の員数の自由化、(4)外資参入や企業再編の促進のための合併対価の多様化等に及び、現代語化という形式的な改正にとどまらない社会経済情勢の変化にかんがみた実質的改正が行われることになった。
[戸田修三・福原紀彦]
2005年に制定された「会社法」の要点は、法務省によって以下のようにまとめられている。
〔1〕利用者の視点にたった規律の見直し 中小企業や新たに会社を設立しようとする者の実態を踏まえ、会社法制を会社の利用者にとって使いやすいものとするために、各種の規制の見直しを行う。(1)株式会社と有限会社を一つの会社類型(株式会社)として統合、(2)設立時の出資額規制の撤廃(最低資本金制度の見直し)、(3)事後設立規制の見直し。
〔2〕会社経営の機動性・柔軟化の向上 会社経営の機動性・柔軟性の向上を図るため、株式会社の組織再編行為や資金調達にかかる規制の見直し、株主に対する利益の還元方法等の合理化を行うとともに、取締役等が積極果敢な経営を行うことの障害にならないように取締役等の責任に関する規律の合理化を図る。(1)組織再編行為にかかる規制の見直し、(2)株式・新株予約権・社債制度の改善、(3)株主に対する利益の還元方法の見直し、(4)取締役の責任に関する規定の見直し。
〔3〕会社経営の健全性の確保 会社経営の健全性を確保し株主および会社債権者の保護を図るため、株式会社にかかる各種の規制の見直しを行う。(1)株主代表訴訟制度の合理化、(2)内部統制システムの構築の義務化、(3)会計参与制度の創設、(4)会計監査人の任意設置の範囲の拡大。
〔4〕その他 (1)新たな会社類型(合同会社)の創設、(2)特別清算制度等の見直し。
[戸田修三・福原紀彦]
株式会社の法律的特質としては、次のような諸点をあげることができる。
(1)株式会社の基本的な特質は、社員の地位が株式という形式で細かく単位化され、株主は株式を取得することによって、その取得した株式数に応じて権利を有することになる。
(2)株主は会社に対し、その有する株式の引受け価額を限度とする出資義務を負担するだけで(会社法104条)、会社債権者に対しては、なんら直接の責任を負担せず、ただ会社に対する出資義務により、会社を通じて間接的に責任を負うにすぎない。会社法は、出資義務を確保するため、全額払込制度をとり、株式引受人は会社設立前または新株発行前に出資の全部を履行すべきものとしているから、株主となったときは会社に対してなんらの責任も負わない。
(3)株主有限責任の結果、会社債権者にとって、会社財産だけが唯一の担保であるから、会社に留保すべき最小限度の計算上の数額として一定額を資本として定め、会社財産がこの資本額を下ることのないように考慮されている。この資本の制度は、株主有限責任制度からくる株式会社の第二次的な特質ともいえる。
(4)株主の地位(株式)が自由譲渡性をもち、それが株券に証券化されていることにより、個性を喪失した多数の者が容易に会社に参加することができるばかりでなく、証券市場を通じて投下資本をいつでも回収することができるような制度になっている。このことは、株式が投資の対象として都合がよいばかりでなく、証券取引所制度と結合して、投機の対象ともなりうることを意味する。
[戸田修三・福原紀彦]
株式会社の設立には発起設立と募集設立の二つの方法がある。発起設立は、発起人が設立に際して発行する株式の全部を引き受けて会社を設立する方法である(会社法25条1項1号)。募集設立は、発起人が設立に際して発行する株式の一部だけを引き受け、残りを公募などの方法で発起人以外の者に引き受けてもらって会社を設立する方法である(同法25条1項2号)。ただ、通常は、一般株主の公募を証券会社等の専門業者に依頼し、公募残を生じたときはこれら仲介業者が引き受ける方法をとることが多い。
[戸田修三・福原紀彦]
会社設立の手続は、まず発起人が定款を作成・署名し(会社法26条)、公証人の認証を受ける(同法30条)。発起設立の場合は、設立に際して発行する株式の全部を発起人が引き受け(同法25条1項1号)、払込み・現物出資の履行(同法34条、変態設立事項に関する検査役の調査28条、33条)、設立時取締役等の選任(同法38条)、設立時取締役による設立経過の調査(同法46条)の終了を待って設立登記がなされ(同法49条)、それにより株式会社が成立する。募集設立の場合も、発起人の定款作成に始まって(同法26条)設立登記により会社が成立する(同法49条)点は発起設立と同じであるが、その間に、発起人が引き受けない残りの株式についての株主の募集(同法57条、58条)、株式を引き受けようとする者による申込み(同法59条)、発起人による株式の割当て(同法60条。これにより株式引受人となる、同法62条)、銀行等に対する払込金額全額の払込み(同法63条)、創立総会(同法87条)における設立時取締役等の選任(同法88条)などの手続が必要である。
[戸田修三・福原紀彦]
法定の要件を欠いた設立は、登記がしてあっても無効のはずであるが、法律行為の一般原則に従って無効にしてしまうと、法律関係はむだに複雑化してしまう。そこで、とくに法律関係の画一的処理および無効の遡及(そきゅう)効の阻止の要請から、この無効は設立無効の訴えによらなければ主張できないこととしている。すなわち、会社の設立の無効の主張は、会社成立の日から2年以内に、設立無効の訴えの方法によってのみ、株主・取締役・清算人(機関設計によっては監査役・執行役)だけが行うことができる(会社法828条1項1号・2項1号。なお、被告は会社である、同法834条1号)。確定した設立無効判決は、対世的効力(訴訟当事者以外にも判決の効力が及ぶ)を有する(同法838条)が、判決の効力は遡及しない(同法839条)。設立無効判決により、解散に準じる効果が生じ、会社は清算をなすべきこととなる(同法475条2号)。設立登記がなされても会社と認めるべき実体がまったく存在しない場合を会社の不存在といい、これは、だれでも・いつでも・どのような方法によっても主張できる。設立が途中で挫折(ざせつ)して設立登記にまで至らなかった場合は、これを会社の不成立という。
[戸田修三・福原紀彦]
会社法は、発起人等に対し重い責任を課し、株式会社の設立に関与した者の不正の防止と不健全な会社の設立の回避につとめている。現物出資または財産引受けの対象となった財産の会社成立当時の実価が定款所定の価額に著しく不足する場合には、発起人と設立時取締役は連帯して不足額を支払う義務を負う(会社法52条1項)。ただし、発起設立では、検査役の調査を受けたとき、または、無過失を立証したときは、出資者以外の者は、その責任を免れる(過失責任。同法52条2項)。なお、募集設立では、検査役の調査による免責のみが認められ、無過失による免責は認められない(無過失責任。同法103条1項、52条2項)。また、発起人・設立時取締役・設立時監査役は会社設立において任務を怠った場合にはそれによって会社に生じた損害を賠償する義務を負う(同法53条1項)。悪意または重大な過失があるときには第三者に対して生じた損害を賠償する義務も負う(同法53条2項)。株式申込証・目論見書・株式募集広告その他の文書に、自己の氏名および設立を賛助する旨の記載をなすことを承諾した者は、擬似発起人として発起人と同一の責任を負う(同法103条2項)。
[戸田修三・福原紀彦]
法人たる会社では、その組織上、一定の地位にあり、一定の権限を有する自然人(または会議体)の意思決定または行為が、会社の意思決定または行為として認められ、このような会社の組織上の存在を機関という。株式会社の機関は、企業の所有と経営の分離現象のもとに、株主総会は別として社員たる資格と機関たる資格とが分離し(第三者機関性)、機関が専門的に分化して権限が分配されるところ(機関の分化)に特色がある。株式会社の機関のあり方については、たび重なる商法改正や会社法制定とともに変遷している。
[戸田修三・福原紀彦]
(1)1950年(昭和25)の商法改正前の株式会社では、取締役会は存在せず、株主総会(意思決定機関)、取締役(業務執行・代表機関)、監査役(監督機関)の典型的な三権分立型の体制がとられていた。この時点において株主総会は株式会社の最高の意思決定機関であり、万能の機関であった。
(2)1950年の商法改正により、アメリカを模範として取締役会制度を導入した。これにより、取締役ではなく取締役会が会社の必要的機関となった。会社経営という専門性・迅速性を旨とする意思決定を行うためには、開催に時間も費用もかかる株主総会に頼るよりも、経営のプロである取締役が構成員となる会議体である取締役会に多くを頼るほうが望ましいと考えられたからである。しかし、しだいに企業の所有と経営の分離による株主総会の空洞化現象が生まれ、取締役会の権限が強くなってきた。すなわち、株式会社の実態をみると、株主総会は会社経営についての意思決定を行ってはおらず、経営の重点は取締役会に移行し、そこで基本的な問題を含め業務執行の意思決定を行っている。さらに日本の株式会社の多くは、社長・副社長、専務、常務等の有力取締役のみで常務会などの名称をもつ任意機関を設け、事実上、会社業務の意思決定を行ったのち、形式要件を満たすために、必要に応じて取締役会や株主総会にかけるという例がしばしばみられたのである。すなわち、事実上、経営者・代表取締役の会社内における権限が強化されることによって専横を許し、これによりさまざまな企業不祥事が現れてきた。そこで会社経営者の不祥事にいかにして対応すべきかに、商法改正の関心が向けられるようになった。
[戸田修三・福原紀彦]
対応策は、株主総会を活性化させること、会社経営を監督・監査する機関を強化すること、の2方向からとられた。
〔1〕株主総会の活性化 1950年の商法改正に起因する株主総会から取締役会への権限委譲が、不祥事が起こる原因の一端をなしていることにかんがみれば、そもそも資本の出資者である株主の権限を強化することによって、不祥事に対応することがまずは考えられる。1981年の改正商法は、株主総会の活性化と健全化を図るために、株主の提案権や取締役等の説明義務(株主の質問権)など、株主の総会への参加意欲を助長する改正を行った。同時に、総会の病理的現象ともいうべき「総会屋」を排除するための利益供与禁止規定も導入した。不祥事を行った経営者の責任を株主が直接追及する手段としての株主代表訴訟は1950年の改正によってすでに導入されていたが、申立て時に訴訟での請求額に応じた訴訟手数料を裁判所に納付しなければならず利用しづらい制度であった。1993年(平成5)の商法改正により、代表訴訟を「財産権上の請求でない請求に係る訴え」として(旧商法267条5項、会社法847条6項)、請求額にかかわらず訴額を95万円、訴訟手数料を一律8200円としたことにより(2003年改正前民事訴訟費用等に関する法律4条2項)、利用しやすい制度へと変容した。2003年の民事訴訟費用等に関する法律の改正により、訴額は95万円から160万円に改正され(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)、訴訟手数料は1万3000円となった。
〔2〕監督・監査機関の強化 経営者の専横に対応するために、経営を監督・監視する機関を強化する改正もたびたびなされた。
(1)取締役会改革 まずは経営者の選出母体である取締役会の制度改革が考えられる。1981年の改正商法により、代表取締役による独裁を抑制するために、取締役会の監督権限を明確強化するとともに、重要な業務執行はかならず取締役会という合議制の機関を通じて決定せしめるという趣旨を徹底させた。
(2)監査役改革 取締役会による経営者の監督は自己監督にあたるため、十分な監督はかならずしも期待できない。そこで、株主総会選出の常勤の監査機関としての監査役制度の強化が、昭和時代の商法改正では期待されてきた。1950年の商法改正では、取締役会制度導入に伴い、監査役の権限は会計監査権限のみに限定されていた。1974年の商法改正により、監査役に業務監査権限が復活し、これとともに監査役の地位が強化された。1981年には監査役の独立性を強化する改正がなされた。
(3)商法特例法における監査制度の改革 1974年に「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法・監査特例法)が制定された。同法は、会社資産の規模に応じて相応な監査制度の設置を要求するものであった。すなわち、会社を大会社(資本額5億円以上または負債額200億円以上)、小会社(資本額1億円以下でかつ負債額200億円未満)、中会社(大・小会社以外)の三つに分類し、大会社では監査役監査のみならず会計監査人監査をも義務づけ、小会社では監査役の権限を会計監査権限に限定していた。
[戸田修三・福原紀彦]
前記の流れをみる限り、機関構成に関する商法改正は、かつては経営者の不祥事対応として、監査役制度を改革するという側面が強かった。しかし、近時の商法改正では、不祥事による過剰な責任追及から経営者を救済する側面が強くなっており、しかも、監査役制度改革ではなく取締役会制度改革に重点を置くようになってきた。
(1)2001年の商法改正 法令・定款違反の場合の取締役の責任について、損害賠償額を制限する規定が設けられた。過剰な賠償額を負わせると取締役の冒険的な経営が萎縮(いしゅく)してしまうことが改正理由であったが、改正の直接の動機となったのは取締役に過大な賠償額を負わせた大和(だいわ)銀行代表訴訟事件であった。2001年の改正にはほかにも、代表訴訟が提起された場合、一定のときに会社が被告取締役側に補助参加をすることが明記され、監査役の取締役会への出席義務・意見陳述権が明記された。
(2)2002年の商法改正 アメリカの制度に模し、委員会等設置会社制度を導入できるようにした。これは、大会社が導入できる制度であり、取締役会内に指名・報酬・監査の三委員会と執行役を設け、監査役制度にかわるガバナンス体制を設ける。
(3)2003年には、代表訴訟提起時の手数料が1万3000円に値上げされている。
[戸田修三・福原紀彦]
2005年制定の会社法においては、株式会社形態を採用する会社の実情を踏まえ、また、従来の有限会社制度の規律との一本化を図るために、株式会社の機関設計について、定款自治による大幅な柔軟化・多様化が図られている。会社法における機関設計の原則は以下の八つである。
(1)すべての株式会社には株主総会のほか取締役の設置を要する(会社法295条、326条1項)。
(2)取締役会を設置する場合には、監査役(監査役会を含む)または三委員会等(指名・監査・報酬の各委員会と執行役)のいずれかの設置を要する(同法327条2項本文)。ただし、大会社以外(中小会社)の株式譲渡制限会社(非公開会社。すべての種類の株式が譲渡制限株式である株式会社)において、(監査役を置かないで)会計参与を設置する場合にはこの限りではない(同法327条2項但書)。
(3)株式譲渡制限会社以外の会社(公開会社)には、取締役会の設置を要する(同法327条1項1号)。
(4)取締役会を非設置の場合には、監査役会および三委員会等を設置することはできない(同法327条1項2号・3号)。
(5)監査役(監査役会を含む)を設置すれば、三委員会等を設置することはできない(同法327条4項)。
(6)会計監査人を設置するには、監査役(監査役会を含む)または三委員会等(大会社であって株式譲渡制限会社ではない株式会社では、監査役会または三委員会等)のいずれかの設置を要する(同法327条3項・4項)。
(7)会計監査人を設置しない場合には、三委員会等を設置することはできない(同法327条5項)。
(8)大会社には、会計監査人を設置しなければならない(同法327条5項、328条1項・2項)。
これらの規整のもとで、選択可能な機関構成は39通り存在する。
[戸田修三・福原紀彦]
会社の計算とは、会社の財産状態や損益状態を把握するために要求される会計の手続をいう。株式会社においては、利益の分配を目的として参加した多数の株主が存在する一方で、会社債権者にとっては会社財産が唯一の担保的機能を果たしているので、これら利害関係人の利益の調整と保護を図り、企業の合理的な運営をするうえにおいて、会社の計算関係の規定を明確化し、決算監査の充実を図るための厳格な規定を設けることは必須(ひっす)条件である。そこで会社法は、(1)株主と会社債権者への情報提供、および、(2)剰余金分配の規制を目的として、株式会社の計算について詳細な規定を設けている(会社法431条~465条)。ただ、具体的な計算処理については、会社法およびそれに基づく法務省令には具体的規定は乏しく、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしている(同法431条)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社は成立の日の貸借対照表を作成し(会社法435条1項)、さらに、各事業年度に関する計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書を作成しなければならない(会社法435条2項、会社法施行規則116条~128条、会社計算規則89条、91条、104条~145条)。計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表をいう(会社計算規則91条)。
監査役設置会社においては、計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書については、監査役の監査を受けなければならない(会社法436条1項)。
会計監査人設置会社においては、計算書類およびその附属明細書については、監査役(委員会設置会社においては監査委員会)および会計監査人の、事業報告およびその附属明細書については監査役(委員会設置会社においては監査委員会)の監査を受けなければならない(同法436条2項)。
取締役会設置会社においては、計算書類および事業報告等は、取締役会の承認を受けなければならない(同法436条3項)。
取締役会設置会社においては、定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対し、取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告を提供しなければならない(同法437条)。取締役は、計算書類および事業報告を定時総会に提出し、事業報告についてはその内容を報告し、計算書類については総会の承認を受けなければならない(同法438条)。ただ、取締役会設置会社であって会計監査人設置会社である場合の特則として、取締役会の承認を受けた計算書類が法令および定款に従い株式会社の財産および損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令(会社計算規則163条)で定める要件に該当する場合には、総会の承認を得る必要がなく、この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない(同法439条)。
株式会社は、定時総会の終結後遅滞なく、決算公告をしなければならない(同法440条1項)。
[戸田修三・福原紀彦]
株式会社が事業年度の途中の一定の日における会社財産の状況を把握するために貸借対照表や損益計算書を作成することができ、これを臨時計算書類という(会社法441条1項)。また、会社およびその子会社からなる企業集団の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定める計算書類を連結計算書類という。会計監査人設置会社は各事業年度にかかる連結計算書類を作成することができ(同法444条1項)、事業年度の末日において大会社であって金融商品取引法の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社は、連結計算書類の作成が義務づけられる(同法444条3項)。
[戸田修三・福原紀彦]
資本金の額は原則として、設立または株式の発行に際して株主となる者が株式会社に対して払込みまたは給付をした財産の額である(会社法445条1項)。ただし、その払込みまたは給付にかかる額の2分の1を超えない額は資本金として計上しないことが認められ(払込剰余金。同法445条2項)、その場合には、それは資本準備金として計上しなければならない(同法445条3項)。また、剰余金の配当をする場合には、株式会社は、剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じて得た額を資本準備金または利益準備金(「準備金」と総称)として計上しなければならない(同法445条4項)。
資本金および準備金を減少するには、原則として、株主総会の決議と債権者異議手続が必要である(資本金については同法447条、449条、309条2項9号、準備金については448条、449条、309条1項)。なぜなら、これは会社の基礎的変更に該当し、また、資本金・剰余金は会社財産を確保する基準となる数字であるから、その減少は会社債権者の利害に影響を及ぼすからである。
[戸田修三・福原紀彦]
会社法は、株主に対する金銭等の分配(利益配当、中間配当、資本金および準備金の減少に伴う払戻し)および自己株式の有償取得を、横断的に剰余金の分配(剰余金の配当等)として整理し、統一的に、株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は当該行為が効力を生ずる日の分配可能額を超えてはならないとの財源規制を課す(会社法461条1項)。分配可能額算出にあたり会社法は、「剰余金」額(同法446条)をいったん計算して、そこから「分配可能額」を算出する(同法461条2項)手段をとる。剰余金額は資本剰余金と利益剰余金の合計額である(同法446条。同条の構成はかなり複雑であるが、その意味するところは本文指摘のとおりである)。また分配可能額は剰余金額から自己株式帳簿額を控除した額である(同法461条2項)。仮に期中に剰余金分配を行うときには、決算期後計算書類確定時までに生じた分配可能額の増減を反映させる制度を設けている(同法441条、453条、461条2項)。
なお、資本金の額にかかわらず、純資産額(資産から負債を控除した額)が300万円未満の場合には、剰余金があってもこれを株主に分配することはできない(同法458条)。かつての有限会社の最低資本金が300万円とされていたことと平仄(ひょうそく)があう。
[戸田修三・福原紀彦]
株式会社は株主(自己株式を保有する当該株式会社を除く)に対し、いつでも株主総会の決議によって剰余金の分配を決定できる(会社法453条、454条1項、309条1項)。ただし、会社法においては剰余金分配を決議する要件を加重・緩和している場合もある。
〔1〕要件加重 (1)現物配当 株主に対して金銭以外の財産を分配する場合には、原則として株主総会の特別決議を要する(同法454条4項・309条2項10号)。(2)特定の者から自己株式を有償で取得する場合にも、株主総会の特別決議を要する(同法160条1項・309条2項2号)。
〔2〕要件緩和 (1)中間配当 取締役会設置会社では、定款の定めにより、一事業年度途中に1回に限って取締役会決議に基づく中間配当を行うことができる(同法454条5項)。(2)取締役会設置会社において、定款による授権があれば、取締役会決議によって自己株式を取得することができる(同法165条2項)。(3)会計監査人設置会社で、取締役の任期を1年に短縮し、剰余金の配当を取締役会決議により決定できる旨を定款で定めた会社で、計算書類に会計監査人の適法意見が付されている場合には、取締役会決議で剰余金の配当を決定できる(同法459条1項4号・2項)。
[戸田修三・福原紀彦]
(1)効力 分配可能額がないのに剰余金分配をした場合、その分配の効力が有効なのか無効なのかについては、現在のところ定説はない。
(2)株主の責任 会社は、違法な剰余金分配により金銭等の交付を受けた株主に対してその返還を請求することができ(会社法462条1項)、会社債権者は株主に対して直接に違法分配額の返還を請求することができる(同法463条2項)。
(3)取締役等の責任 違法な分配を行った取締役・執行役・職務上の関与者および分配議案を作成した取締役・執行役・職務上の関与者に、分配額を支払う義務を課す(同法462条1項)。違法な分配を受けた株主に返還を求めることは実際には困難であるために、取締役等にも支払義務を課したものである。これは過失責任である(同法462条2項)。分配可能額を超える部分については、総株主の同意があっても免責されない(同法462条3項)。違法分配額の支払いを行った取締役等は、悪意の株主のみに対して求償権を有する(同法463条1項)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社が事業上の資金を調達するには、銀行などから融資を受けるという方法と、新株あるいは社債を発行する方法とがある。新株発行の方法は自己資本を拡大するものであり、社債発行は他人資本による資金の調達方法である。そのいずれにせよ、会社法は、資金の調達を容易になしうるような法的措置を講じている。
株式会社における社員の地位が株式という細分化された割合的単位の形式をとっているのは、社員の個性を失わせ、多数の者が容易に株式会社に資本的参加ができるようにしたものである。すなわち、株式は、株式会社が大衆資本を集積して巨大な資本をもつことを可能にした技術的な手段であるが、株式会社は、会社資金調達の必要があれば、定款所定の発行可能株式総数(授権株式数)の範囲で、増資することができる。これに対し、社債は、大衆に対してなされる起債によって発生した株式会社に対する債権であって、集団的な長期借入金であり、社債券という有価証券が発行される。この場合も大量的であり、長期の借入金を一般大衆から集める手段である。
[戸田修三・福原紀彦]
会社の資本金の額を減少すること。減資ともいう。資本金は、会社がつねに保有すべき財産の額を示す一定の計算上の数額であり、会社信用の基礎をなすから、みだりにこれを減少すべきではないが(資本不変の原則)、実際上の必要がある場合には厳重な手続、すなわち、株主総会特別決議と債権者異議手続のもとでこれを認めている。株主総会特別決議が必要となる理由はそれが会社の基礎的変更となるためであり、債権者異議手続が必要となる理由は会社信用の基礎をなす計数の減少をもたらすからである。
〔1〕株主総会決議 原則として、(1)減少する資本金の額、(2)減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨および準備金とする額、(3)資本金の額の減少がその効力を生ずる日を株主総会特別決議によって定めなければならない(会社法447条1項、309条2項9号)。例外として、欠損填補(てんぽ)のための資本金の額の減少は、株主総会普通決議で行うことができる(同法309条2項9号)。また、株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときは、事実上減資が生じないので、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会決議)で行うことができる(同法447条3項)。
〔2〕債権者異議手続 会社は、(1)資本金の額の減少の内容、(2)株式会社の計算書類に関する事項、(3)債権者が一定の期間(最低1か月)内に異議を述べることができる旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者(債権者の所在、債権の原因および内容の大体を会社が知っている債権者。判例は、その債権の存在につき会社と係争中の債権者も該当しないとはかならずしもいえないとしている)には、各別に催告しなければならない(同法449条1項・2項)。所定の期間内に異議を述べなかった債権者は、当該資本金の減少について承認をしたものとみなされる(同法449条4項)。債権者が期間内に異議を述べたときは、株式会社は、当該債権者に対し、弁済し、もしくは相当の担保を提供し、または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として相当の財産を信託しなければならない。ただし資本金減少によっても当該債権者を害するおそれがないときはその措置は不要である(同法449条5項但書)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社の解散とは、会社の法人格の消滅をきたす原因となる法律事実をいい、株式会社は、次に掲げる事由によって解散する(会社法471条)。すなわち、(1)定款で定めた存続期間の満了、(2)定款で定めた解散の事由の発生、(3)株主総会の決議(同法309条2項11号)、(4)合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る)、(5)破産手続開始の決定、(6)解散を命ずる裁判(同法824条1項、833条1項)である。(1)(2)(3)は、2週間以内に登記が必要である(同法926条)。会社の清算とは、会社が解散後において既存の法律関係の後始末をするための手続であり、現務の結了、債権の取立て、債務の弁済、残余財産の分配を目的とする手続である。株式会社では法定の手続による法定清算しか認められない。法定清算には、清算の遂行に特別の障害が予想されない場合に裁判所の監督に服さずに行われる通常清算(同法475条~509条)と、会社に債務超過等の疑いがある場合に裁判所の厳重な監督のもとに行われる特別清算(同法510条~574条)とがある。会社の清算実務は、清算人が行い、すべての清算手続が結了すれば会社は消滅し、清算結了登記がなされる。株式会社が解散したときは、合併または破産の場合を除いて、清算をなすことを要し、また、設立無効判決・株式移転無効判決が確定したときも清算を要する(同法475条)。清算中の会社は、清算の目的の範囲内において法人格が存続する(同法476条)
[戸田修三・福原紀彦]
会社の合併とは、2個以上の会社が契約によって合体し、1個の会社となることをいう。経済的には、企業の競争力強化、競争回避、経営合理化などのために行われる、企業結合のもっとも進んだ形態である。会社の権利や義務などを個別に承継する必要がないこと、個別的な株式引受けなどの社員の入社行為が必要でないこと、消滅会社にとって合併は解散の一場合である(会社法471条4号)が清算手続は不要であることが、合併の経済的効果として認められる。
合併には、当事者である会社の全部が解散し、それと同時に新会社を設立してそのなかに入り込む新設合併と、当事者である会社の一つが存続しほかの解散する会社を吸収する吸収合併とがある。会社が合併するには、合併契約の締結に始まり、合併登記・事後開示をもって終了する一連の手続が必要である。その手続は、合併契約書の作成(同法748条、749条、753条)→合併契約の内容等の株主・会社債権者への事前開示(同法782条、794条)→合併契約書の承認決議(原則として株主総会の特別決議。同法783条、784条、795条、796条、804条、805条。特殊決議を要する場合は783条1項、309条3項2号、反対株主等の株式買取請求権は785条、787条)→会社債権者の保護手続(同法789条、799条、810条)→合併登記(同法921条、922条)→合併効力発生後の事後開示(同法801条、815条)という経過をたどる。会社の合併は登記によりその効力を生ずる(同法750条1項、754条1項)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社の整理とは、会社の現況その他の事情により、支払不能もしくは債務超過に陥るおそれがあるとき、またはその疑いがあると認められたときに、破産することを避けるため、裁判所の監督のもとになされる会社再建を目的とする手続であった(旧商法381条以下)。民事再生法の制定により利用価値が激減したことを理由として、会社法制定に伴い廃止された。
会社の更生とは、会社が窮境にあるけれども再建の見込みがある場合に、会社更生法の規定に従い、裁判所の広い監督権限のもとになされる会社の維持・更生を目的とする手続で、「企業の維持」の精神に基づいて認められた制度である。
[戸田修三・福原紀彦]
『大隅健一郎著『株式会社法変遷論』(1953・有斐閣)』▽『大塚久雄著『株式会社発生史論』(1954・中央公論社)』▽『高橋俊夫著『株式会社とは何か――社会的存在としての企業』(2006・中央経済社)』▽『酒巻俊之著『新会社法(株式会社・特例有限会社)』(2007・法律文化社)』▽『企業法務実務研究会著、埼玉司法書士協同組合編『株式会社の登記と実務』(2007・民事法研究会)』▽『岩田規久男著『そもそも株式会社とは』(ちくま新書)』
株式会社は会社の一種で,会社の構成員である社員(株式会社においては,株主と呼ばれる)の地位が株式という細分化された割合的単位の形をとり,同時に,すべての株主が,会社に対して,その出資額を限度とする有限責任を負担するだけ(いいかえると,株主は会社の債権者に対してはなんらの責任を負わない)の形態のものである。
上記のような株式会社の制度的特質は,個性を喪失した大衆投資家を株主とすることによって,大規模な資本の集中を図るための必要から生じている。つまり,構成員である株主の会社における地位が細分化された割合的単位の形(株式)で表されることによって,多数の株主と会社との関係が簡明に数量的に処理できるようになり,かつ,株主の地位の譲渡も簡明に処理できるようになるのである。また,すべての株主に対して有限責任が保障されることによって,経営に対して責任を負う意思のない大衆投資家も投資に参加できるようになる。なお,こうした株主の有限責任の結果,会社の債権者にとって担保となるのは会社財産だけなので,会社財産を確保するため,一定額を資本(資本金)として定め,会社財産がそれを下回ることを法律は極力防止しようとしている。そこで,この資本の制度は,株式会社の付随的特色といわれている。そして,株式を株券という有価証券に表章しその譲渡を自由としていることは,この資本維持の原則のため,出資の払戻しができない点の不都合を解消し,株主の投下資本の回収を株式譲渡という方法で可能にするためである。
株式会社の起源についてはいろいろの説があるが,後述のようにオランダ東インド会社(1602設立)等の植民公社を起源とみるものが多い。当初は,国王の特許状によって設立され,経営も官吏・大株主が専制的に行ったが(特許主義),しだいに私的な民主的性格のものが現れ,1807年のフランス商法典は,株式会社に関する一般的な規定をおくに至った。フランス商法典は免許主義(法人ごとに官庁が実質的審査を行って,その裁量に基づく免許によって設立を認めるもの)をとっていたが,19世紀半ば以降になると,経済の興隆に対応して各国で準則主義(あらかじめ定められた一定の要件を満たしていれば当然に設立を認めるもの)が採用されるに至り,株式会社の設立は容易となった。
日本では,1869年(明治2)に設立された通商会社,為替会社,72年の国立銀行条例,74年の株式取引条例等を経てしだいに各業種を通じて株式会社は発達し,90年制定の旧商法は免許主義を定めていたが,99年に現商法が制定された際に,準則主義が採用された。その後の経済の発展にともない,日本では1938年に株式会社に関する商法の大改正が行われたが,第2次大戦後は経済民主化の要請から,独占禁止法(1947公布),証券取引法(1948公布)が制定されたほか,商法の株式会社に関する規定も改正された。すなわち,48年に株金分割払込制度を廃止したのに続いて,50年にはアメリカの制度を広範にとり入れた大改正が行われた。それは,(1)授権資本制度等を採用することにより資金調達の便宜を図る,(2)株主総会の権限を縮小すると同時に取締役会制度・監査役制度を改正して会社運営機構を合理化する,(3)少数株主権の強化,取締役の責任の厳格化等により株主の地位の強化を図る,ことを主眼点とするものであった。その後の株式会社法の改正としては,62年の計算(企業会計)を中心とする商法改正,資本自由化を前にした66年の株式の譲渡制限・譲渡方法等に関する改正,粉飾決算にからむ大型倒産を機に監査役の地位強化と会計監査人制度の導入を柱とした74年改正等が行われたが,74年改正の直後から,会社法の全面的見直しおよび改正の作業が始まり,81年に改正が実現した。そのおもな改正点は,会計監査人監査の強制等大会社の特例が適用される会社の範囲が拡大されたこと,1899年以来据置きとなっていた株式の単位を引き上げたこと,および,いわゆる総会屋根絶のための措置等会社運営の適正を図ったこと,である。1990年代に入って,90年に最低資本金制度の導入,設立手続の合理化,優先株式の機動的発行等を目的とする改正,93年に株主代表訴訟の貼用印紙額を一律に8200円とする,社債制度を抜本改正する,大会社の監査役を3名以上とし,社外監査役をおき,監査役会制度を法定する等を目的とする改正,94年に会社による自己株式取得規制を緩和することを目的とする改正,97年にストック・オプションの実施および株式の利益消却手続の容易化および合併手続の合理化を目的とする改正と,続けざまに株式会社法の改正は行われている。
(1)機構上の特色 株式会社は,資本を大規模に集中して事業を行い,その利益を利益配当(配当)として株主に分配するための制度であるが,多数の株主が会社の経営に直接に参加するわけにはいかないことから,株主によって構成される株主総会が取締役を選任して取締役に会社の経営をゆだね(商法254条1項),株主総会自身は,利益配当の決定や定款変更・合併・減資などの基本的事項の決定のみを行う。また株主総会は監査役を選任して,取締役が職務を執行する過程で株主の利益を害することがないよう監査することをゆだねる(274条)。こうした株主総会,取締役および監査役という三つの機関の関係は,国家における立法,行政および司法の三権分立になぞらえて説明されることが多い。ただ現在の日本では,大規模な企業のみならず中小企業も多くは株式会社の形態をとっていることから,株式会社の機構も,そうした実態に応じて細かく法規制が分かれていく傾向にある。すなわち資本金が1億円以下で,かつ最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計が200億円未満である株式会社では,監査役は,会計監査のみを行う機関とされており,会社の業務監査をする権限をもっていない(〈株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)〉22,25条)。それに対して,資本金5億円以上または最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上の株式会社(以下,大会社という)では,粉飾決算がなされると将来大規模倒産の原因となる等社会的に大きな影響が及ぶので,法は,定時株主総会前,計算書類・計算書類付属明細書について,会計監査人(公認会計士または監査法人)の監査を受けることを義務づけている(商法特例法2条,4条1項)。そこで監査役は,こうした大会社ではおもに業務監査に専念する機関となっている。
(2)〈所有と経営の分離〉と〈経営者支配〉 株式会社は法的にみても株主が取締役に会社の経営をゆだねる制度となっており,これは所有と経営の分離と呼ばれるが,現在の日本の大規模な株式会社では,実態は法が予想した以上にこの現象が進んでいる。すなわち,法制度上は取締役には株主総会で信任を受けたものが選任される。ところが実際は,株主は経営に無関心であり経営に暗いので,経営者側が指名した取締役・監査役候補者がほぼ例外なく株主総会で支持を受ける。選任された取締役は,法制度上は,取締役会を形成し,取締役のなかから代表取締役(社長ほか若干の取締役)を選任して内部的および対外的な業務執行権限と日常的業務執行の決定権限とをゆだねるとともに,取締役会自身は,重要な業務執行についてはみずから決定し,かつ代表取締役がなす職務の執行を監督することになっている(260条)。すなわち,制度上は取締役会は代表取締役の上位にある。しかし実際には,代表取締役の力が事実上強いため,取締役会は十分その監督機能を果たすことができず,代表取締役である社長のワンマン経営となっている例が少なくない。会社の事実上の経営権限が社長を中心とする少数の経営者の手に集中し,それら経営者が株主総会等の機構を意のままに操作することによって後継者をみずからが決定する現象は,経営者支配と呼ばれる。経営者支配が,法の予想した単なる〈所有と経営の分離〉と異なる点は,経営者支配下の株式会社では,株主の利益を最大にする(株主に対する利益配当額を最大にし,株価を最高にする)という営利法人としての当然の目標が,社会奉仕,従業員福祉,経営者個人の経済的利得と名誉心の満足といった方向に変化する可能性が大きくなることである。
現在の日本においては,他の先進資本主義諸国に比べて,大企業における経営者支配の傾向が顕著に強いと指摘する見解もある。その原因としては,諸外国では,機関投資家が大株主として存在し,機関投資家は利益配当と株価の値上がりを期待しているので,そうした大株主の期待に反した経営者はTOB(株式公開買付け)等により経営者としての地位を追われる危険にさらされているため,株主の利益を最優先に考えざるをえないのに対して,日本の大株主はおもに取引先である事業法人・金融機関であるため,大株主は取引の機会さえ確保できれば配当・株価に関しては無関心であり,むしろ大会社の経営者は株式安定工作と呼ばれる株式相互保有を通じて互いに地位を保障しあっているため,株主の利益を代表する立場の強力な者がいないこと,経営者と従業員が一体という日本的経営の理念からいくと株主は会社内ではよそ者であって力が弱いこと,あるいは自己資本比率が低いため金融機関の力に比べて株主の力が弱いこと,等があげられている。
(3)株主の利益を守るための法制度 経営者支配のもとにある大規模な株式会社では,大衆投資家である株主の利益が適切に守られないおそれがある。そこで,企業の所有と経営の分離を前提としながらも,株主の利益が適切に守られるようくふうをこらす必要があり,こうした議論はコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する議論と呼ばれることもある。商法とくに株式会社法がしばしば改正されてきたのは,そうした努力の反映である。
株主の利益を保護する方策として,株主総会の権限(決議事項の範囲)を拡大することは,必ずしも賢明な方策とはいえない。一般株主が,細かい経営問題に適切な判断を下すことは期待できないからである。そこで法は,株主総会の決議事項は法令・定款に定めた事項に限るとしつつ(230条ノ10),その決議事項については,株主に,自己の意見を表明する機会と判断を下すために必要な情報とが十分与えられることを,保障しようとしている。すなわち,一定数以上の株式を有する株主には,独自の議題・議案を株主総会に提案する権利が保障され(232条ノ2),株主総会に先立つ2週間前に,取締役は,総会で議決権を行使する資格のある全株主に対して,総会招集通知とともに,貸借対照表・損益計算書・営業報告書・利益処分案(計算書類),監査報告書等総会に関係する資料を送付せねばならず(283条2項),また,とくに株主数1000人以上の大会社にあっては,〈大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則〉に定められた内容の参考書類が,各議題・議案の説明のために添付されていなければならない(商法特例法21条の2)。一般株主は,総会場には出席せず,書面によって議決権を行使するのが通常なので,議決権を行使するための書面の賛否記載欄の様式等についても,法定されている(商法特例法21条の3)。また81年の商法改正前は,総会場では総会屋による一般株主の発言の妨害のため取締役による議案の説明等がなされないまま決議が成立する場合が多かったことにかんがみ,現在では,株主の質問に対する取締役・監査役の説明義務が明定され(237条ノ3),総会場における一般株主の質問権が保障されている。
株主総会において株主の意見が決議に公正に反映されたとしても,総会の決議事項は限られている。そこで他の局面でも,株主が取締役の業務執行等の会社の運営を監督・是正できるように,法は株主に次のような権利を認めている。たとえば,総会決議取消訴訟等の提起権(247,252条),新株発行無効・差止訴権(280条ノ10,280条ノ15),設立無効訴権(428条),累積投票請求権(256条ノ3),代表訴訟提起権(267,196,280条,280条ノ11-2項,294条ノ2-4項),取締役等の違法行為差止請求権(272条,430条2項),取締役会議事録等の閲覧請求権(260条ノ4-4項,263条2項,282条2項,430条2項)等は,議決権を行使できる株主でさえあればだれでも単独で行使できる権利(単独株主権)である。また総会招集権(237条),取締役等の解任請求権(257条3項,280条,426条2項),整理申立権(会社整理。381条1項),帳簿閲覧権,業務財産状況の検査申立権(293条ノ6,294条),解散請求権(406条ノ2)等は,株式総数の一定割合の株式を有する株主だけが行使できる少数株主権である。株主に損害を与えるような業務執行を行った取締役等は,代表訴訟を通じて厳格な損害賠償の民事責任を負わされるほか,重い刑事罰を負わされることもある(特別背任罪。486条)。
株主等大衆投資家の利益が適切に保護されるためには,公正な有価証券の発行市場・流通市場が整備されていることも必要である。つまり,投資家が増資や大株主からの証券の売出しにあたって株式を購入したり(発行市場における株式取得),既発行の上場株式を証券取引所における売買(流通市場)を通じて購入・売却したりする際に,発行会社の業績等の実態や発行会社等による株価操作の事実が隠ぺいされていると,証券取引を通じて損害を受けることになる。そこで証券取引法は,株主・社債権者のみならず,今後株式等を取得するかもしれない潜在的株主を含めた大衆投資家に対して,公正に上場会社等大規模な会社に関する情報が開示されるように,多くの規制をおいている。
(4)社会的な存在としての株式会社 株式会社の本来の目的は,事業活動によって利潤をあげ,それを利益配当として株主に分配することである。しかし,巨大な株式会社が従業員,顧客・消費者,寄付を求める社会事業団体等の要望を無視して利潤追求に徹すれば,社会の反発を招く。また他方では,社会的使命という美名のもとに,経営者の名誉欲が株主の利益を害する危険もある。株式会社が政治献金をすることは株主の利益に反するとして,株主から取締役を被告とする代表訴訟が提起されたことがあるが(八幡製鉄政治献金事件。1970年に最高裁大法廷は株主の請求を棄却),寄付等会社のなす無償供与をどこまで株主に開示すべきかは,企業秘密の問題ともからんで,商法改正の際にしばしば大きな問題となっている。
(5)企業集中 株式会社では,資本多数決の原理により株式の過半数を所有する者が経営を掌握することになるが,株式が広く分散すると,株主総会で多数を制するためには必ずしも過半数を所有する必要すらない。そこで,株式会社が他の会社の株式を所有する方法を積み重ねることにより,多くの会社が一つのグループに統合されうる。日本では,三菱・三井等の銀行・商社系のいわゆる六大企業集団と,新日鉄・日立等独立系大企業グループとが企業グループの主要なものである。企業グループは,情報交換,投資の協力など経済発展にとって有益な役割を果たしうる反面,市場独占等によって競争政策に対する弊害,あるいは,安定株主工作によって証券市場に対する弊害をもたらすこと等が指摘されている。
(6)小規模株式会社に関する問題 株式会社に関する法制度は,所有と経営が分離しているという理由から,他の種類の会社と比較して,複雑なものとなっている。しかし現在の日本では,小規模な企業が株式会社形態をとってはならないという規制はないので,相当零細な企業まで株式会社となっている。こうした小規模な株式会社は,通常,家族・親族等だけですべての株主・取締役・監査役の地位が占められていることから,同族会社とか閉鎖的株式会社とか呼ばれる。これらの株式会社は,商法による複雑な法規制を遵守できるような法律知識も,またそれができる資力もない。そこで,株券も発行せず株主総会・取締役会も開催しない等の例が多い。そのため,たとえば相続に関係して兄弟げんかが生じたような場合,株主総会が開かれていないことを理由に,相手方には取締役としての地位がないとして同族株主相互間で争われる訴訟,あるいは,会社が倒産したとき,取締役会を開催してこなかったのは職務上の重過失だから取締役は第三者(会社の債権者)に対する責任を免れない(266条ノ3-1項)として会社の債権者が取締役の個人責任を追及する訴訟(事実上,株主の有限責任を排除する結果となる)等が,頻発している。現在の商法にも,株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定款上定めうる(204条1項,204条ノ2~204条ノ5)とか,監査役に関する特則など,閉鎖的株式会社を念頭においた規定が皆無ではないが,多くの規定が閉鎖的株式会社の実態とは乖離(かいり)していることは明らかである。そこで,株式会社の資本金を最低1000万円とする規制(168条ノ4)をおき,零細企業が株式会社形態をとることにより生ずる不合理の防止が図られているが,現在存在している100万以上の小規模株式会社を,法制度上いかに取り扱うべきかという問題の抜本的解決には至っていない。
(1)設立 設立方法には,発起人(1人でもよい)が設立の際に発行する株式の総数を引き受ける発起設立(170条)と,発起人以外の株主を設立の際に募集する(実際には,株主の公募が行われることはまれで,通常発起人の縁故者に申込みさせる)募集設立(174条)とがある。いずれも,まず発起人が定款を作成して公証人の認証を受ける(166,167条)。その後,発起設立であれば発起人による払込取扱銀行に対する株金の払込み,発起人による取締役・監査役の選任が行われ(170条),取締役・監査役による設立手続の調査(173条ノ2)が行われた後,本店所在地で設立登記を行うことにより会社は成立する(57,188条)。定款に現物出資,財産引受けなどの変態設立事項を定めることもできるが(168条1項5号,6号),それには原則として裁判所の選任する検査役の調査を経なければならないため(173条),実際にはあまり利用されない。募集設立であれば,上記のほか,発起人以外の株主を募集し(174~179条),創立総会を招集して取締役・監査役の選任等を行う(180~187条)だけ制度が複雑になる。
(2)株式 株式は,細分化された均等な一単位の形をとる株式会社の社員としての地位で,株式の所有者が株主である。したがって株主は,その所有株式数に応じて利益配当請求権(293条)や株主総会における議決権(241条1項)をもつ。もっとも,あまりに少額の株主にも株主総会招集通知等を出すことは費用倒れとなり現実的でないので,単位株制度を採用した会社では,単位未満株主には議決権等の共益権は制限される(1981年商法改正付則15~21条)。また株式は,株券という有価証券に表章されて自由に譲渡できる。ことに株式が証券取引所に上場されている場合は,その譲渡・換金は容易である。定款で,株式譲渡につき取締役会の承認を要すると定めた場合等にのみ,株式の自由譲渡性は多少の制限を受ける。
(3)機関 株式会社の組織上に一定の地位を占め,その意思決定または行為が会社の意思または行為と認められるものを,株式会社の機関という。株式会社には,基本的事項に関する意思決定機関としての株主総会,業務執行に関する意思決定機関としての取締役会,執行・代表機関としての代表取締役,監査機関としての監査役が,法律上必要機関として要求されている。なお検査役は,法が定めた場合に臨時に選任される機関である。
(4)計算 株式会社においては,(a)会社財産のみを担保とする会社の債権者を保護する目的,(b)利益処分の権限をもつ株主に適切にその判断をなさせる目的,および,(c)投資家の適切な投資判断を可能とさせる目的から,その会計処理(計算)が合理的になされる必要性がとくに大きい。現在の商法では,公正な会計慣行を斟酌(しんしやく)した損益法に基づく計算方法が採用され,計算書類およびその付属明細書の記載方法に関しては,〈株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び付属明細書に関する規則〉が制定されている。そして,いわゆる大会社においては,定時株主総会前,計算書類およびその付属明細書について,会計監査人の監査を受けなければならないこととされている。なお大会社においては,各会計監査人および各監査役が,計算書類を法令・定款に従い会社の財産および損益の状況を正しく示しているものと認めたときは,株主総会の承認をまたず,計算書類は確定する(商法特例法16条1項)。
(5)資金の調達 株式会社は,銀行借入れにより資金を調達することもできるが,長期・巨額の資金を調達するために,新株または社債を発行することもある。新株発行にあたっては,授権資本の範囲で,取締役会が新株発行事項を決定する(280条ノ2-1項)。上場会社においては,時価発行による公募が増資方法として近年は一般的であるが,非上場会社においては,株主割当ての形で行われる。社債の募集も取締役会の決定により行われる(296条)。公募債については,社債権者保護のため社債管理会社がおかれる(297条)。転換社債・新株引受権付社債は,社債権者に対して株式を取得する権利を与える仕組みの社債である。
(6)解散・清算・合併 株式会社は,株主総会の決議による場合のほか,いくつかの場合に解散する(404条)。解散後は法律関係の後始末のために清算手続に入る(合併や破産による場合を除く。417条)。合併は,二つ以上の会社のうちの一つが存続し残りの消滅会社を吸収する吸収合併と,すべての会社が解散し同時に一つの会社が設立される新設合併とがあるが,いずれの場合も,存続会社または新設会社は,消滅会社の株主関係をも含めて消滅会社の権利義務を包括的に承継する(408条以下)。
→会社
執筆者:江頭 憲治郎
株式会社は現代の代表的な企業形態として,さまざまの特徴をもつが,その根底には法人格をもつ企業,多くの個人資本を結合した共同企業,という基本的性格が認められる。株式会社をアメリカで〈コーポレーションcorporation〉というのは前者の性格を,イギリスで〈ジョイントストック・カンパニーjoint-stock company〉という場合は後者の性格を強調した用語である。株式会社の起源をめぐる学説も,これら二つの性格にかかわることが多い。株式会社も他の経済制度と同じように経済発展の産物であり,それが制度的に完成するのも,経済的に重要な役割を演ずるようになるのも,ともに工業化が進行する19世紀になってからのことである。
イギリスについていえば,株式会社の設立が自由化され特許主義から準則主義に移るのは1844年(会社登記法),証券市場の発展と相まって株主有限責任の原則が確立し,社名のあとに〈カンパニー・リミテッド,Co.,Ltd.〉の表示を強制されるようになるのは55年(有限責任法),それらの経験に基づいて最初の近代的株式会社法が成立するのは62年である。そして資本を一般に公募する本来の意味の株式会社が,鉄道や銀行業でなく,一般産業界に根を下ろすのは19世紀の最後の四半世紀に入ってからのことである。
共同出資による法人企業という意味での会社企業は,近世の西ヨーロッパにみられ,それが最も重要な役割を果たした分野はアジア,アフリカ,アメリカとの間の遠距離貿易であった。鉱山業その他多額の資本を要する若干の産業分野はあったが,当時の工業が家内工業か問屋制家内工業であったように,会社形態をとるほど多額の固定資本を要する事業分野はきわめてまれであった。近世の西ヨーロッパでは海外貿易は特定の商人団体,つまり特許会社chartered companyによって営まれた。商人団体の公認と貿易統制権は国王の大権に属していたので,貿易商人たちはしばしば国王に対する財政的貢献と引換えに,法人格と貿易独占権を獲得した。法人格を得た特許会社は,(1)公的名称(商号)の付与,(2)共同印章の使用,(3)永続性(メンバー個人の生命から独立して永続する団体),(4)訴訟の当事者たりうる権利(法廷に訴え,訴えられる権利)等の特権,を認められた。イギリスの場合,特許会社は基本的には,レギュレーテッド・カンパニーregulated company(制規組合または制規会社)とジョイントストック・カンパニー(株式会社または合本制会社または合本制組合)に分かれる。前者は各自の資本と各自のリスクにおいて貿易を営む貿易商人のギルド的団体で,16世紀の冒険商人組合merchant adventureres companyがその一例である。後者はメンバーが拠出した資本を結合し,永続的な一企業として貿易を営み損益を分配する,いわば先駆的な株式会社であって,最も古いのは1555年に特許状を下付されたロシア会社(モスコー会社Muscovy Companyともいう)であり,最も重要であったのは1600年に設立され,一時,日本(平戸)にも商館をおいたイギリス東インド会社である。ヨーロッパ大陸ではオランダ東インド会社(1602設立),フランス東インド会社(1664設立)がよく知られている。
産業革命以前のイギリスでは,個人企業かパートナーシップ(〈会社〉の項の[西洋]の章参照)が,数においても所有する資産額においても,最も重要な企業形態であった。しかし会社企業の数は17世紀の間にしだいに増加し,世紀末に最初の会社ブームがおこって,1689年の会社数11社が,95年には約100社を数えた。この時期の会社の特徴は,大部分が国内事業を目的としたこと(1694年に設立されたイングランド銀行は最も重要)と,国王または議会の認可を得ず,ただ定款のみに基づいて設立された会社(法的には大きなパートナーシップにすぎない)が多かったことである。また会社の増資が,かつては既存の株主に対する追徴(コール)の形をとったのが,新株の発行によるようになったこと,株式額面が等額化したこと(たとえば東インド会社ではふつう50ポンド)は,会社設立ブームと相まって株式市場の発達を促した。株式仲買人(ストック・ブローカー)の登場や商業紙が主要な株式の相場を掲載するようになったことが,そのことを示している。しかし,このような変化は他方で投機的株式取引を助長し,弊害をもたらしはじめたので,政府は取締りに乗り出さざるをえなくなる。
1718-20年,パリもロンドンもアムステルダムも空前の株式ブームにわいた。このブームとその崩壊はともにパリから始まったが,フランスではジョン・ローのミシシッピ泡沫事件(1720),イギリスでは南海泡沫事件(1720)という二つのドラマティックな事件をひきおこした。ミシシッピ川流域との貿易を独占するジョン・ロー設立の特権的貿易会社の株がパリで投機の渦中にあったとき,イギリスでは中南米沿岸と西アフリカで貿易および開発の特権を与えられた南海会社(1711設立)の株が急上昇を続け,20年6月のピークには額面100ポンドの株が1050ポンドにも跳ね上がった。このような株式ブームの波に乗って,多数の泡沫会社が設立され,譲渡自由な株式が大量に発行された。イギリス議会は泡沫会社禁止法(Bubble Act,1720)を制定して,国王の特許状または議会の承認を得ていない会社が株式を発行することを禁止した。これによって多数の不法会社が消滅し,パリにおけるブームの崩壊と相まって,投機熱は急激に冷え込み,南海会社の株も20年末には120ポンドに暴落した。
泡沫会社禁止法はしばらくの間は厳格に適用されたが,その後しだいに緩和され,さまざまの便法が黙認されるようになった。信託証書を利用した非公認会社や定款で持分の譲渡が認められた会社は,現実には大した不便はなかったようである。18世紀半ば以降は,このような法人格をもたない非公認会社の時代であった。当時の会社企業についてアダム・スミスは《国富論》(1776)で次のような見解を示している。まず第1に,他人の貨幣を管理する会社の重役は,自己の貨幣に対するほどの慎重さを欠くから,会社企業は個人企業やパートナーシップのような資本の所有と経営が結合した企業形態に比べて経営能率が低い。第2に,会社企業を代表していた貿易会社について,貿易会社は新貿易の開拓のために多大の犠牲を払っているので,国家がそれに〈ある一定期間の独占〉を認めることは,必ずしも不当ではないが,〈永久独占〉を認めることは不当である。第3に,会社企業に適した事業の条件として,独占権なしに経営が可能であること,事業内容が日常的・規則的であること,一般の商工業よりも社会的により有用であること,個人やパートナーシップでは集められないほど多額の資本金を必要とすること,の諸点をあげ,それらに適格な事業の例として,銀行,保険,水道および運河の4種をあげている。
産業革命を契機として,個人企業やパートナーシップでは調達しえない多額の資本を必要とする事業が増えてくると,多額の資本を集め,それを合理的に運営するには,株式会社が最も有効かつ適切な企業形態であるという認識が広まってきた。同時に他方では,安全かつ有利に資産の運用を求める投資階級が成長してきた。このような事情を反映して,産業革命以降は,(1)まず株式会社設立の自由化と株主有限責任制の確立がみられた。さらに19世紀末期からは,株式市場の発達と相まって,(2)株式会社相互の結合による巨大企業の形成(企業集中)が進行した。
会社法の自由化をリードしたのはフランスである。イギリスでは各パートナーが連帯無限責任を負う共同企業(パートナーシップ)が普及していたのに対して,フランスでは有限責任の投資家が参加した共同企業(コマンディット)が普及した。したがって1807年のナポレオン商法典によって認められた3種の会社のうち,〈ソシエテ・アノニムsociété anonyme(株式会社)〉は譲渡自由な株式の発行とともに,株主の有限責任が認められていた。もっとも,そのような会社の設立には政府の特別な認可が必要であり,登記によって設立が認められる,いわゆる準則主義に移るのは67年からである。ドイツ(プロイセン)の場合,株式会社法が制定されるのは1843年で,準則主義に移るのは70年であった。イギリスでは19世紀初期に運河・保険・醸造の業界で,1820年代に入ると南米の鉱山開発に関連して株式ブームがおこり,25年に泡沫会社禁止法が撤廃され,36年をピークとする第1次鉄道ブームを経て,44年に会社の設立は準則主義に移った。これによって煩雑な手続と多額の費用を要した議会の認可は不要となったが,会社債務に対する責任は依然として連帯無限責任であった。株主の有限責任が認められるのは,資本主義の黄金時代を迎えて自由放任主義が最高潮に達した55年(銀行業は1858年)で,株式会社法が集大成され,株式会社設立の自由と株主有限責任をめぐる長い論争に終止符が打たれるのは62年である。アメリカの場合,1800年には銀行・保険・運河・道路その他の事業分野に335ほどの会社があった。アメリカでは企業家の要請で会社法の制定は原則として各州の権限となり,11年ニューヨーク州が初めて製造工業を対象とした一般会社法を制定し,年限20年,資本金10万ドル以下の会社の設立を認めた。それから南北戦争の勃発までに12州がこれにならった。戦後,株式会社設立の自由化はさらに進展し,ことに75年にニュージャージー州が制定した自由な会社法は近代会社法の範とされ,20年以上も他の州に模倣された。
19世紀の鉄道は大資本の調達を通じて株式会社の発展を推進するとともに,証券市場,ブローカー,投資銀行(インベストメント・バンク)の成長を促進した。アメリカでは1900年になっても上場会社(ニューヨーク株式市場)の3/4は鉄道であり,鉄道は一方で巨大資本の調達方法を示したが,また他方では企業間の激しい自由競争の後,企業相互の結合による共存への道を切り開いた。こうした鉄道会社の長い経験に基づいて,世紀末期には長期不況と技術革新を背景に,一般産業界にも巨大会社が出現した。これらの会社は,税金対策や株主有限責任の恩恵を得るために株式会社形態をとった他の大多数の会社とは性格を異にする。巨大会社の出現は世紀末期に世界最大の工業国へ躍進したアメリカにおいて,とくに顕著であった。アメリカでは企業集中によって一挙に巨大会社を形成し,市場を支配する一つの方式としてトラストが導入され,1890年のシャーマン反トラスト法の制定まで続いた。次にとられた他の方式は持株会社によるもので,ニュージャージー州が1889年と93年に会社法を改正し,それを合法化して以来,他の州でも採用され,1897-1903年に大規模な企業合同運動をひきおこした。かくてアメリカでは20世紀初頭,製造工業・鉱業・交通・銀行・保険の各業界においては株式会社がすでに支配的な企業形態となっており,1930年にはアメリカの上位200社の資産総額は810億ドルで,全米会社資産の約半分を占め,他の30万社が残り半分を保有するというビッグ・ビジネスの時代に入っていたのである。
執筆者:荒井 政治
近代的株式会社制度に関する知識は,産業・技術の場合と同じく,幕末・維新期に多くの先覚者によって日本に紹介された。なかでも,渋沢栄一が執筆した《立会略則》と,福地源一郎が訳出した《会社弁》の2書は,1871年大蔵省によって発行され,多くの読者を獲得し,会社,とくに株式会社の知識の普及に大いに役立った。現実の制度の面では,1869年に政府の勧奨によって,三都や開港場に株式会社を念頭においた通商会社・為替会社が設けられた。これらは,出資金と預金の混同,確定資本金という考え方や出資者の有限責任制の欠如等の点で,株式会社としての基本的要件を欠いていた。72年に政府は国立銀行条例を制定して株式会社制度に基づく国立銀行の設立を企図し,これに基づいて79年までの間に153の国立銀行が全国各地に設立された。この国立銀行も株式譲渡の制限,株主有限責任制の欠如等株式会社としてなお不十分さを残したが,本来の株式会社に近い特徴を帯びた会社組織が全国各地に多くの出資者(華・士族層)を巻き込んで設立されたことの意義は大きかった。また,1878年に制定された株式取引所条例(1874年の株式取引条例は廃止)は,出資者の有限責任制を明確に規定し,翌年,華族を含む幅広い出資者を集めて設立された東京海上保険会社(現,東京海上火災保険)も有限責任制を採用した。このころから,日本の株式会社も近代的株式会社としての要件をいちおう備えたものとなった。しかし,この時期に族生した株式会社のなかには,有限責任制に便乗して投機的に設立された泡沫的会社が多く含まれており,これらは1881-85年の松方デフレ期に相次いで破綻(はたん)した。結局,日本で株式会社制度が近代産業の担い手として名実ともに定着するのは86-89年の企業勃興期で,この時期に鉄道,紡績を中心として銀行,電灯,海運の諸産業に株式会社が続々と設立され,89年末には会社数の過半を占めるに至った。
法制面では,93年に旧商法の一部が施行されて,会社が権利義務の主体として明確化されるとともに,会社の種類として合名会社,合資会社,株式会社の三つが規定され,株式会社における株主の有限責任制も法的に確立された。次いで99年の改正で,その設立が免許主義から準則主義に改められて,株式会社制度が法制的にも整備された。また旧商法は,株式会社について公称資本制を採用し,株式の分割払込みを認めたが,この制度は,銀行の株式担保金融と相まって,零細な資金の集中を可能ならしめ,日本における株式会社制度の発達を促進した。
第2次大戦前の日本では,株式会社制度は支配的資本である既成財閥のいわば外側で発達した。三井・三菱・住友等の既成総合財閥は,少なくとも1920年代までは株式会社制度の社会的資金集中機能を積極的には利用せず,銀行・商社・鉱山部門における傘下大企業の持株を封鎖的に所有しつつ,それらが必要とする事業資金を基本的には財閥内部で賄うという自己金融的蓄積を行った。これに対して,財閥支配の外側に位置した電力・鉄道・海運・紡績部門等の諸企業や財閥系以外の銀行,および30年代に既成財閥を激しく追い上げた日産・日窒・日曹・森・理研等の新興コンツェルンは,株式会社制度の社会的資金集中機能を積極的に利用した。しかし30年代以降,日本経済の軍事化・重化学工業化が進むのにともなって,既成財閥も傘下有力企業の株式を相次いで公開するとともに,本社自体を株式会社に改組してその株式の一部を公開したりした。そして第2次大戦後は,財閥解体措置によって本社は解体され,財閥本社や家族の持株はもちろん,傘下有力企業が所有する同系企業株も大衆に売却された。この結果,ほとんどすべての大企業や企業集団が株式会社制度の社会的資金集中機能をフルに利用するようになったのである。
→会社[歴史]
執筆者:山崎 広明
株式会社が,近代さらに現代の企業の所有形態として有効なものと認識され,広く普及するに至ったのには,次の三つの特徴が寄与している。その第1は出資者全員が有限責任であること,第2は株主総会,取締役会,監査役といった会社機関の分化がみられること,第3は資本が証券化されていること,である。以下この3点を中心に,近代的株式会社のもつ意義を説明しよう。
まず株式会社の出資者が全員有限責任である点は,無限責任の出資者のみからなる合名会社,両種の出資者からなる合資会社と大きく異なる。ただし有限会社の場合にも,出資者は全員有限責任である。会社債務に対し出資額の限度内で危険負担を行う有限責任は,無限責任に対し,はるかに危険負担の度合が低い。このゆえに,お互い見も知らない,きわめて多数の出資者が,株主として同一の企業の共同出資者となることができる。
会社機関は,株式会社においては,最高意思決定機関としての株主総会,執行機関としての取締役制(取締役会),評定機関としての監査機関に分かれる。この点,とりわけ執行機関の相対的自立は,持続的な経済単位としての企業の成立・存続にとって重要な意味をもっている。なぜなら,所有者-株主は近代的所有権の一変種としての株主権を保有しており,仮にそれぞれの株主が自由にその株主権を行使すれば,企業は自解せざるをえないからである。すなわち近代的所有権は,所有者が所有するものを,排他的に使用し,収益をあげ,処分する権利を保証している。個々の株主が株主権をそのように勝手に行使すれば,企業財産は分解してしまう。またそれを防ぐために,各株主が意見を交換して皆の利害が一致するような会社財産の使用方法を具体的に考えようとすると,多数の株主間の交渉は,時間・費用などの点で莫大なものとなってしまい,大企業では事実上不可能となる。このため,会社財産の使用に関する株主の権利は,株主の利害に即して行使されることを前提にして,取締役会に包括的に委任されるのである。
資本の証券化は,会社資本がなんらかの小口単位に分割され,譲渡可能な有価証券である株券に表現されることを意味している。このことによって,まず少額な貨幣蓄積しかもたず産業に参加する機会をもっていない人たちが,それぞれ可能な金額の範囲内で株券を買うことによって資本報酬を得る機会が与えられる。彼らの一人一人は仮に零細な出資額であっても,それらが多数,単一企業に集まると,その総額は少数の大資本家による資本蓄積でも供給できないような規模となる。
さらに資本の証券化は,出資者がみずからの意思と判断で株券を証券市場で売買することによって,いつでも投資を行い,またいつでも出資額を回収できる。このことは,合名・合資・有限会社が,それぞれによる多少の差異は別として,資本の譲渡に他の社員の承諾を必要とし,また出資分が譲渡可能な有価証券という客観的な媒体に処理されていないのと著しく異なるところである。
ところが株主が企業に出資した資本それ自体は自己資本となり,企業にとっては解散を顕著な例外とすれば,返済を必要としない資本とみなされる。したがってそれは,通常は,投下資本の回収期間が長期に及ぶ固定的設備や建物などの建設・購買にあてられる。すなわち株主資本は,投下資本価値が10~20年などの長期にわたって回収される固定資本となるのである。産業革命以降の工業化は,生産の機械化・量産化を基軸に,固定資本部分を著増させてきた。したがって資本の固定化が進み,資本の回収期間は長期化する。この間のギャップを,資本の証券化は埋めることができる。
しかも資本の証券化は,証券市場における株券の売買,株価の騰落といった動きと直接関係なしに,企業行動が展開されることを許容する。もし証券市場における動きが直接,企業資本の価値にはねかえってくれば,企業としての持続的な生産活動である企業活動を長期的観点に立って維持していくことはできない。しかし,企業,より正確にいえば企業家ないし経営者は,それを準外部的な動きとみなすことができる。他方株主も,企業内部の動きを準外部的要因とみて,投下資本に対する報酬としての配当,さらに資本利得の獲得に焦点をおいた投資・投機活動に専念するのである。
もちろん両者は,完全に無関係なものではない。配当水準,資本利益を与える株価上昇,資本損失の可能性を与える株価下落は,企業行動の成果を相当程度反映している。また資本調達のためには他企業なみの配当水準の維持が,企業経営者にとって重要な政策的配慮の一つである。この意味において両者の関係は,長期的・総合的・間接的であるが,短期的・個別具体的・直接的なものではない。
以上のようにして株式会社は,準則主義の採用,資本市場・証券市場の発達を制度的背景にしながら,全出資者有限責任,会社機関の分化,資本の証券化といった三大特徴を十分に生かすことによって,近代企業さらに現代企業の代表的な所有形態となった。
もっとも,現代の株式会社は,さらにかなりの変貌を示してきたともいえる。
その第1は,〈所有と経営の分離〉である。バーリAdolf A.BerleとミーンズGardiner Coit Meansの《近代株式会社と私有財産》(1932)が,当時アメリカ最大200の非金融会社の2/3は所有によらない支配,とりわけ専門経営者支配であることを実証分析を通して明らかにして以来,現代の大企業においては,所有と経営は分離しているという主張がしだいに強くなった。その後のR.J.ラーナーの調査は,1963年でアメリカ最大200の非金融会社の85%が経営者支配のもとにあることを明らかにした。同時にバーリとミーンズの調査以降,アメリカの大企業のなかでも超巨大企業から若干それより規模が小さい大企業にまで,資本と経営の分離が進行したことを明らかにしている。確かにこの間の企業の現実の動きをみてみると,資本家の企業経営の前面からの漸次的後退,専門経営者による実質的な支配の進展が顕著にみられる。資本家,とりわけその2代目,3代目が当然に優れた経営能力の保有者とは限らないというきわめて単純な事実を考えれば,経営の高度化,複雑化,専門化が進む現代企業を,株式所有の面からのみ実質的に支配することは不可能に近い。ましてラーナーの調査などにもみられるように,企業の成長にともなう規模の著しい増大のもとでは,どんな資本家といえども,その出資額が全体に占める割合は,きわめて小さいものにならざるをえないゆえに,いっそうこのことは明確になる。以上の諸点は,日本の大企業にもほぼ同じようにみられる。
第2に,こうしたことの帰結として,最高意思決定機関としての株主総会は,今日,多くの企業において有名無実化している。白紙委任状を握る専門経営者層に分散している個々の株主が,株主総会で投票数で対抗することは不可能に近い。また株主の大多数は,単に資本報酬としての配当を得るだけの,あるいは資本利得の獲得のみを目的とするだけの,投資株主あるいは投機株主となっており,企業の経営に積極的に参加する意思を当初からもっていない。こうして法的には最高の意思決定機関としての株主総会が,わずか数十分で終わるといった例が少なくない。そして株主の収益権,処分権さえも,実質的には専門経営者層の政策によって大きく制約され,株主の大部分は受動的にこれを受け入れるといった状況が生まれている。
第3に,大企業中心にみられた株式分散の急速な進行に大きな変化が現れている。それは,個人(大衆)株主の持株比率の低下と,機関株主の持株比率の上昇(株主法人化現象),それにともなう株式再集中化の現象である。個人株主の持株比率の低下は,上記第2の状況から当然想定されうるはずである。とくにこの点は,日本において激しくみられる。持株集中排除,財閥解体などによって株式が一般に公開された第2次大戦後,個人の持株比率は高くなった。たとえば1961年度で全上場会社の個人持株比率は61.3%であった。しかし,その後一貫して低下し,現在では30%を下回るまでになった。これに対し,企業グループ間の株式持合いの活発化などもあって,金融機関,事業法人などの持株比率は上昇している(〈株主〉の項参照)。他方アメリカの機関投資家のおもなものは,私的非保険年金,普通信託基金,投資信託,財団生命保険といったものであり,日本と若干性格を異にする。
第4として,資金市場の準内部化といった現象がしだいに顕著になっている。もともと近代株式会社は,広く資金市場から多数の資本拠出を吸収することによって巨額の長期資本を株式資本として調達することに,その基本的特徴の一つがある。ところが現代の大企業は,固定資産への投資を,企業内部で形成・蓄積した内部資金すなわち減価償却積立金と内部留保積立金によってまかなう傾向が強まっている。こういった状況が非常に明確なアメリカの非金融会社についてみると,粗工場・設備投資総額に対して上記内部資金が占める比率は,1900-14年ですでに87.1%に達し,19-29年には107.8%と内部資金のほうが上回るようになった。さらに36-40年で92.2%,46-53年で109.9%といった状況である。こうした事実は,経営者支配のもとでは,自己資本としての株式資本さえもが,社債や金融機関からの借入金と同じ〈外部資金〉とみなされ,外的制約を受けやすいものとして忌避される傾向があることを示している。そして専門経営者層は,固定資産といった企業の長期的・基本的構造を左右するような部門への投資資金として,裁量度の高い内部資金を選好するのである。したがって,資金市場一般の動きからの影響を直接受けない形で,企業における設備投資がかなり行われることになる。これを資金市場の準内部化という。ここにも,株主-所有者の所有を基礎にした株式会社と異なる性格が生まれる。もちろんそのことは,直ちに企業における設備投資などが経済合理的に行われなくなることを意味していない。しかし市場利子率の上下に短期に敏感に反応して設備投資がなされる程度は,それだけ弱まらざるをえない。また経営者の効用関数いかんによっては,非経済的な分野への長期投資,たとえば福利厚生施設への投資,地域社会への公共施設寄付などがかなり行われる可能性がある。それらは投資時点で経済的採算があうかどうか,はっきりしないが,あえて今日多くの企業において行われている。また環境汚染防除の設備投資も,現代の多くの企業では無視しがたいウェイトを占めるに至っている。
日本の企業は,第2次大戦後,証券市場が戦後の混乱で十分成長しきれないなかで,高度成長を始めたこともあって,固定的設備・工場への設備資金を金融機関からの借入れに大幅に依存して資金調達を行った。いわゆる間接金融方式(直接金融・間接金融)といわれるものである。これは,日本の株式会社における資本構成を悪化させ,自己資本比率20~30%の大企業が続出した。しかし,1973年のオイル・ショック以降の厳しい景気後退のなかで,多くの企業は,成長機会が相対的に小さくなったこともあって,借入れを減らし,自己資本の拡充に努めるに至った。そのことも含めて,日本の企業でも,設備投資を内部資金プラス株式資金,とりわけ前者でまかなうという傾向がしだいに強くなってきている。
執筆者:岡本 康雄
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複数の社員(株主)が,株式による出資額を限度とする責任(有限責任)をとる企業形態をいう。株式とは,資本を少額で均等の金額に分けたもので,通常は証券の形をとる。複数の社員による出資や有限責任という制度は,すでに中世末以来ヨーロッパで発達した合名会社や合資会社で採用されていた。ただし株式会社という形態が初めて採用されたのは1602年(オランダ東インド会社)。少額で有限責任かつ譲渡が容易な証券という形態をとっているため,多数の出資者からの投資を期待できる。そのため,鉄道業や装置産業(化学工業,機械工業)など,巨額の資本を必要とする産業における企業設立に適しており,これら産業が発達した19世紀後半に急速に普及した。
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…17世紀初頭に設立されたオランダおよびイギリスの東インド会社も同様な独占会社であるが,会社の永続性,社員の有限責任などの原理を確立し,株式によって広い範囲から資本を調達した。以上のようにコンメンダ以下の多様な私的企業組織と独占的な商人団体が,近代における株式会社成立の前提であると考えられている。株式会社[発達史]カンパニー制度【清水 広一郎】
[日本]
江戸時代にも同族的な共同企業(三井など),同業者相互の一時的な共同企業(組合商内・乗合商内),株仲間を基礎にした一時的な組合企業が存在したが,それらは概して機能資本家相互の無限責任的な出資によっており,有限責任制の欠如を共通の特徴としていた。…
…とくに1600年に成立する東インド会社は合本制会社の典型となった。制規会社の場合,近代の株式会社の諸特徴のうち,(1)個々の商人の寿命をこえて存続しうる永続性など,法人的性格は認められるが,(2)資本の合同が認められないのに対し,合本制会社では(2)の要素も加わる(このため,株式会社の訳語もしばしば与えられる)。しかし,初期の東インド会社では,なお当座的性格が強く残っていた。…
…したがって企業会計は,それを自己完結的な手段体系として相対化するなら,複式簿記機構の形式合理性を貫徹した資本利益計算の計算構造として特徴づけられるであろう。そのことは,株式会社会計において最も典型的に観察されるところである。 企業利益は一般に,相互に関連する二つの方法によって期間的に算定されている。…
… そのような変化のなかにあって,企業それ自体の立場からする資金管理の観点がしだいに強調されるようになってきたことは,注目しておかなければならない。この観点が強調されるようになったのは,株式会社形態の企業が比重を高めるようになり,しかも高度に発達した株式会社にあっては企業の支配構造が変化したためであると考えられる。というのは,株式会社は,その資本主としての株主の有限責任が保証された企業であるため,会社の保有財産は株主の私有財産から明確に区別されるとともに,権利・義務の主体としての法人格が株主の人格とは別個に認められる企業であるので,必然的に企業それ自体の立場が強く意識されることになる。…
※「株式会社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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