「ちていのき」ともいう。平安中期の文人慶滋保胤(よししげのやすたね)が新築した自邸に寄せて心境を記した漢文随筆。982年(天元5)成立。『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』巻12に収められている。白居易(はくきょい)(楽天)の『池上篇(へん)』や兼明親王(かねあきらしんのう)の『池亭記』に触発されたところがあり、他方鴨長明(かものちょうめい)の『方丈記(ほうじょうき)』に影響を与えている。右京の荒廃と左京の過密とを批判的な筆致で叙述した前半は、平安京の変遷を知る貴重な史料である。後半部に「職は柱下(ちゅうか)(内記の唐(とう)名)に在りといへども、心は山中に住むがごとし」とあり、作者は仕官と隠遁(いんとん)との両立を志した。新邸は心の隠遁を遂げたいとする作者の願望を十分に満たすものだとしている。作者の生活上の理想とともに理想の住居が論じられ、これが前半の批判的な筆致を生んでいる。
[八重樫直比古]
『柿村重松著『本朝文粋註釈 下巻』(1968・冨山房)』▽『小島憲之校注『本朝文粋(抄)』(『日本古典文学大系 69』所収・1964・岩波書店)』▽『金子彦二郎著『平安時代文学と白氏文集 第一巻』(1977・藝林舎)』▽『大曽根章介「『池亭記』論」(山岸徳平編『日本漢文学史論考』所収・1974・岩波書店)』
慶滋保胤(よししげのやすたね)の漢文随筆。982年(天元5)成立。平安京の西京の荒廃,東京の家屋の過密状況の中で,50歳近い作者が小宅を得て,小山を作り小池を掘り,書庫,小堂をかまえて読書や念仏に明け暮れ,閑雅な晩年を送ったことを述べる。源通親の《久我草堂記(こがそうどうき)》や鴨長明の《方丈記》に影響を与えた。なお,同名の漢文随筆が前中書王兼明(かねあきら)親王にもあり,959年(天徳3)成立。曲池のほとりの亭で悠々自適の生活を送ろうとする心境を語ったものである。ともに《白氏文集》の〈池上篇〉を原拠とする。林泉池亭を営む思想は道教の神仙思想からくる。ともに《本朝文粋》所収。
執筆者:川口 久雄
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…963年(応和3)の《善秀才宅詩合(ぜんしゆうさいたくしあわせ)》や969年(安和2)の《粟田左府尚歯会(あわたさふしようしかい)》に参加して詩を詠み,具平親王邸の詩会に出席して源順や橘正通らと交際して互いに詩才を競った。982年(天元5)六条に新しく池亭を築いた彼は《池亭記(ちていき)》を執筆した。前半で西京の荒廃と都の住居の構成について述べ,後半で池亭の規模と四季の景観及び自己の閑適生活をとおして理想の住居論を展開しているが,腐敗した現実の政治を批判し,真摯な生活態度を綴ったこの文章は,後世鴨長明の《方丈記》に大きな影響を与えた。…
※「池亭記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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