法の下の平等(読み)ホウノモトノビョウドウ

デジタル大辞泉 「法の下の平等」の意味・読み・例文・類語

ほうのもと‐の‐びょうどう〔ハフのもと‐ビヤウドウ〕【法の下の平等】

国民平等権を保障し、国家が国民を不合理に差別してはならないとする、憲法の基本理念の一。日本国憲法第14条規定される。自由権社会権などとともに基本的人権を構成する重要な権利の一。
[補説]国政選挙で議員一人あたりの有権者数が選挙区によって異なるため一票の価値に差が生じるのは法の下の平等に反するとして、繰り返し訴訟が提起されている(→一票の格差定数不均衡)。出生後に認知された子の国籍取得要件として、父母が結婚し嫡出子身分を取得すること定めていた国籍法は、最高裁判所違憲判決を受けて平成20年(2008)に改正されている。婚外子法定相続分婚内子の二分の一と定めた民法の規定についても、憲法が定める法の下の平等に反するとして最高裁判所が違憲判決を下している。

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改訂新版 世界大百科事典 「法の下の平等」の意味・わかりやすい解説

法の下の平等 (ほうのもとのびょうどう)

すべて人は法律上平等に取り扱われなければならないという,近代憲法の基本原則の一つ。法の前の平等ともいう。これを権利として表現したのが平等権である。平等思想はすでに古代ギリシアにみられ,アリストテレスは正義の理念と結びつけて平等の本質を説いている。しかし,近代の平等思想は,すべての人はひとしく神の子であり,神から等距離にあるという,キリスト教の本質に属する絶対的平等観カルバン派によって世俗化され,自由と並んで封建的身分制度に対する抗争の原理として主張されるようになったものである。さらに国民主権に基礎づけられた近代民主主義思想も平等価値の実現と普及に多大の影響を与えた。アメリカの独立宣言は,〈すべての人間は平等に造られている〉と述べ,フランス人権宣言は,〈人は自由かつ権利において平等なものとして出生し,かつ生存する。社会的差別は共同の利益のうえにのみ設けることができる〉(1条)と宣言し,それ以来平等原則は人権宣言にとって欠くことのできないものとなった。

 日本では,明治維新の変革により封建時代の階級身分制は廃止され,四民平等となった。〈天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず〉(福沢諭吉)と説かれ,平等の原理は徐々に社会のなかへ浸透しはじめた。しかし現実の社会関係においては,被差別部落問題のように差別の実態に大きな変化のない領域もあった。明治憲法は公務就任の機会の平等(19条)を保障するにとどまり,この憲法の下で政治的特権を伴う華族の制度が維持せられ,男女の不平等は当然のこととされた。

 日本国憲法は平等の強化を図り,〈すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない〉(14条1項)と一般的平等原則について定めるほか,具体的に貴族制度の否認(14条2項),普通平等選挙(15条3項,44条),家族生活における両性の本質的平等(24条),〈ひとしく教育を受ける権利〉(26条)について規定する。〈法の下の平等〉はつくられた法を平等に適用することであって,もっぱら行政権と司法権を拘束する原理だという説がある。しかし差別を内容とする不平等な法が定立されるならば平等は実現されないので,〈法の下の平等〉は法内容の平等をも要請する〈権利における平等〉または〈法律の平等〉を意味し,したがって立法権をも拘束するものと解すべきである。

 ところで平等とは法的に人を区別・分類または差別して異なる取扱いをしないことである。しかし人の生れながらの条件(人種・性別)や自己の意思で定まる条件(教育・財産)はさまざまであり,条件のちがいをまったく無視した絶対的平等は社会秩序を混乱させる。そこで〈法の下の平等〉はあらゆる分類・差別を無条件に禁止するのではなく,〈等しいものは等しく,異なるものは異なるように〉という相対的平等を要請すると解され,そして異なるものの法的取扱いにおいては,その比率の均等が求められた。しかし各人の具体的事情は千差万別であるから,厳格な比率の均等は無限の微妙な差別を内容とする法的取扱いを要求することになり,法秩序の破壊につながる。そこで比率の均等を考える基礎となり,平等原則適合性を判断する基準が探究せられ,合理性,恣意の排除,正義の理念などがあげられるようになった。つまり,正義の観念に反するような不合理な差別のみが平等原則違反となる。ただ,この基準は明確性を欠くため,かつてアメリカで人種差別正当化に用いられた〈分離すれども平等にseparate but equal〉の法理が示すように,あらゆる差別的取扱いを合理的なものと合憲判断するおそれがある。したがって,とくに憲法のかかげる人種,信条,性別,社会的身分および門地による差別は,たんなる合理性の基準によって判断されるべきではなく,差別を正当化する重大な理由がないかぎり違憲となるといわれる。平等は国や地方公共団体などの公権力が国民を法的に取り扱う際に守るべき原則であるが,私人間でもゆるやかな形では妥当するのであり,個人や団体の差別行為は公序良俗(民法90条)違反として無効となることがある。

 なお,国家が国際法上有する基本的な権利としての平等権については当該項目を参照されたい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「法の下の平等」の意味・わかりやすい解説

法の下の平等
ほうのもとのびょうどう
equality under the law

人は生まれながらにして平等であるという思想に基づき、封建的な身分制に由来する不平等を廃止するという原則をさす。アメリカ独立宣言、フランスの人権宣言が人間の自由とともに平等を宣言し、法の下の平等は近代憲法の基本原則の一つとなった。「法の前の平等」égalité devant la loi(フランス語)ともいう。しかし、すべての人をあらゆる面で平等に扱うことは実際上不可能であるし、また合理的ではない。そこで、どんな不平等を認め、どのような不平等を排斥するかが問題となるが、それは社会や文化によって異なる。したがって、ほとんどの国の憲法が等しく平等を理念として掲げているが、その内容は同じではない。

 日本の場合、明治憲法(大日本帝国憲法)では日本臣民の平等な公務就任権を保障するだけであったが、日本国憲法では一般的に「法の下の平等」を宣言し(14条)、さらに華族制度の廃止と両性の本質的平等を定めた。この趣旨を受けて、国家公務員法、地方公務員法、教育基本法などに差別待遇の禁止が規定されている。しかし、合理的な差別まで禁止する趣旨ではないから、たとえば労働時間など労働条件については女子を優遇すること(労働基準法64条の2~68条)などが定められている。

 法の下の平等に反するとして争われた大きな裁判事件には、尊属殺人を普通殺人より重く罰する刑法第200条(1995年削除)の規定を違憲と主張するもの(尊属殺重罰規定違憲訴訟)、および衆参両議院について各選挙区(参議院はかつての地方区)の議員定数の当該選挙区における選挙人数に対する割合が最大と最小の選挙区において格差がありすぎるから選挙権の平等に反すると主張するもの(議員定数不均衡訴訟)がある。前者の事件について最高裁判所は、当初は合憲と判示したが(1950)、のち変更して違憲とした(1973)。その後、1995年(平成7)の刑法一部改正によって尊属殺人に関する条文は削除された。後者について最高裁判所は、参議院地方区については合憲の姿勢を崩していないが、衆議院については1976年(昭和51)に旧定数配分規定全体を違憲とし、さらに85年には格差は当時の定数配分規定をも違憲であるとした(ただし選挙は無効としない)。このため、翌86年の総選挙直前に定数配分規定は改正された。

[池田政章]

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百科事典マイペディア 「法の下の平等」の意味・わかりやすい解説

法の下の平等【ほうのもとのびょうどう】

法の前の平等とも。法を実定法とみるか自然法とみるかで意味が異なる。実定法とみれば法の適用において差別しないこと,自然法とみれば立法(法内容)において差別してはならないことを意味する。日本国憲法(14条1項)は〈すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない〉と定める。判例・通説は前段で法内容の平等の原則を述べ後段はその例示と解し,合理的理由があれば法内容の差別を認めるが,合理的理由がなければどのような差別も認めないとする。少数説は後段においてだけ,立法の差別を認めない。
→関連項目平等権

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