国が企業活動によって生じた所得に対して課す税金で、景気動向によって税収が増減しやすい。2023年度の国の税収は69兆6110億円の見通しで、このうち法人税は14兆6620億円で約2割を占める。期間や対象を絞って税負担を軽減する措置が多数あり、企業が研究開発費の一部を納税額から差し引くことのできる「研究開発税制」は21年度の適用額が6527億円だった。
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法人所得を課税標準として、法人に課される税。アメリカでは所得税の一種として考えられており、法人所得税とよばれる。日本で法人税というときには法人税法に基づく国税の法人税をさすが、法人所得を直接または間接に課税標準として課税される税には、ほかにも道府県および市町村の法人住民税法人税割と道府県税である法人事業税があり、これらの税も広義の法人所得税の一つとして分類できる。地方税の法人住民税は国の法人税額を課税標準として課税するから、直接ではないが、法人所得に課税するものである。
日本の国税としての法人税は、1899年(明治32)に所得税法の規定により第一種の所得税として創設され、1940年(昭和15)に所得税から独立して法人税となったものである。当初は賦課課税方式であったが、1945年春の税制改正で資本金500万円以上の法人に申告納税方式が取り入れられ、1947年(昭和22)には全面的に申告納税方式に移行した。また、1950年のシャウプ勧告に基づく税制改正では青色申告の制度も取り入れられた。高度成長期の1970年度(昭和45)には国税総額に占める法人税の税収額は33.0%であり、所得税収の比率の31.2%を凌駕(りょうが)するほどであったが、近年においては所得税収のほうが法人税収をかなり上回るようになり、2005年度(平成17)においては、所得税収の比率が31.8%であるのに対し、法人税収の比率は27.1%にとどまっている。
[林 正寿]
法人所得税は先進諸国においてかなり重要な税源であるにもかかわらず、その課税の根拠については不明な点が多い。
まず、法人の性格について、従来から擬制説と実在説とが対立している。個人主義の伝統の強いアングロ・サクソン系の諸国においては、自然人のみを租税の真の負担者とみなし、法人は自然人である株主の利潤追求のための単なる手段にすぎないという法人擬制説の考え方が支配的であった。日本の現行の法人税制度の根幹はシャウプ勧告に基づいているが、そこでは明確に法人擬制説が採用されていた。これに対して法人実在説は、法人を株主の自然人とは別個の実在とみなす。その理由としてしばしば指摘される事実が、現代の大法人に一般的にみられる経営と所有の分離という現象である。
法人実在説を採用するならば、法人所得に対して課税するのは、個人に対して個人所得税を課税するのと同様に、法人に支払能力があるからである。この場合、支払能力は個人株主の支払能力とは異なる独自のものであり、さらに一歩進めて、個人所得税制度と同じく累進税率を適用することも正当化される。他方、法人擬制説を採用するならば、源泉徴収税と同じく法人所得税は個人所得税の前払いにしかすぎない。支払能力を有するのは、究極的には株主である自然人の納税者である。したがって、個人所得税制度との関係を回避して通ることはできない。
また、法人所得税課税の根拠は、利益説からも説明できる。すなわち、法人擬制説の場合には、個人株主が法人組織を通じて享受する利益に対して法人の段階で課税するのであるが、法人実在説においては、個人株主とは異なる実在としての法人が各種公共サービスの便益を得ているから、その対価として法人所得税を負担するのである。
1990年(平成2)4月1日以降開始の事業年度の所得に対する税率は一本化されて基本税率は37.5%、中小企業に対する軽減税率は28%となったが、以前にはたとえば留保分と配当分に対して別の税率が適用され、基本税率はそれぞれ40%と35%、軽減税率は29%と26%であった。経済のグローバル化に伴う国際市場での競争の熾烈(しれつ)化や長引く景気停滞のなかで、法人税負担の大小は企業の競争条件に影響を与える。そのため各国とも法人税率が大幅に引き下げられてきており、日本でも経済界の実質減税の要求もあり、1998年度税制改正では、内国法人である普通法人または人格のない社団等に課する各事業年度の所得に対する基本税率が34.5%に、普通法人のうち資本額もしくは出資金が1億円以下であるいわゆる中小法人にする軽減税率が25%に、さらに1999年4月1日からはそれぞれ30%と22%にまで引き下げられた。
法人税率の引下げは世界的傾向であり、OECD26か国の法人税最高税率の平均値は1986年の41%から、1991年35%、1995年33%、2000年32%と低下した。1986年から2000年までの期間中に最高税率をもっとも大幅に引下げたのはアイルランドであり51%から24%へ27ポイント、次いでスウェーデンが52%から28%へ24ポイントも引下げている。法人所得を課税標準とする税という広義の法人税には、地方住民税の法人税割も含まれる。標準税率は道府県民税が法人税額の5.0%、市町村民税が12.3%であるから、1999年以降の30%と22%に対応する法人所得に対する税率に換算すると基本税率の場合にはそれぞれ道府県民税は1.5%に、市町村民税は3.69%に、中小企業に対する軽減税率の場合にはそれぞれ1.1%と2.706%に対応する。地方税には地方自治を推進するために税率選択の裁量が与えられているが、法人所得税である法人住民税法人税割には制限税率として道府県民税に6%、市町村民税に14.7%が定められている。
法人税は原則として黒字法人のみが支払い、赤字法人には課税されないから、景気後退においては赤字法人が増加し、法人税収は大幅に低下する。また、赤字法人にまで転落しなくても、黒字法人の所得は激しく変動し、法人所得税は高い変動性にさらされる税収の不安定な税としての特徴を有する。法人税課税根拠と密接に関係するが、赤字法人も税収を財源として提供される各種インフラストラクチャーの便益を享受しているのは事実である。そのため赤字法人に対する一定額の租税支払いを求める圧力も強くあり、この傾向は、基本的には4業界(電気、ガス、生保、損保)を除いて、所得を課税標準として課税されていた道府県税である従来の事業税を一部外形課税化した制度変更にもみられる。なお、2003年度税制改正において資本金が1億円を超える法人を対象に、法人事業税への外形標準課税の導入が決定した(実施は2004年度から)。2008年度から適用する税率は、所得割は800万円超には2.9%、400万円超800万円以下には2.2%、400万円以下には1.5%である。外形課税標準の付加価値割には0.48%、資本割には0.2%の税率が適用され、外形課税される。
[林 正寿]
法人企業を納税義務者として,法人企業の所得(利潤)である課税標準に対して,通常は比例税率で課される税。現代の企業の多くは法人の形態をとっているから,企業に対する税の中心をなしている。とりわけ日本では法人税の重要性は高く,国税総額に占める割合は高度成長時代には所得税とほぼ同じ1/3くらいであり,年度によっては所得税を凌駕するほどであった。1997年度においては所得税の割合が35.1%であるのに対して24.3%と低下してきているが,他の先進諸国と比較するとまだその比率はきわめて高い。法人税率はときどき改定されるが,97年現在,普通法人および人格のない社団等については37.5%であるが,中小企業に対する税負担を軽減するため,資本金額ないし出資金額が1億円以下の普通法人,資本ないし出資を有しない普通法人および人格のない社団等の所得の金額のうち800万円以下の部分については,28%とされている。また公益法人等および協同組合等は,非営利法人であるため,税率は27%に軽減されている。
法人税は各国において租税体系のなかで根幹的地位を占める重要な税であるにもかかわらず,その課税の根拠についてはそれほど明らかではない。法人税の課税根拠との関係で生ずる最も面倒な問題は,法人の性格をどのように把握すべきかである。この点については,法人擬制説と法人実在説という対立する二つの考え方があり,世界各国においても,ときには法人擬制説の考え方を採用したり,ときには法人実在説の考え方を採用したりしており,振子のように揺れているのが現状である。最近は,このような問題は神学論争のようなもので客観的な解決は不可能として,法人の性格規定に関する議論を回避して,特定の政策目的に照らして,具体的な法人税制度を設定する傾向も生じている。
法人擬制説というのは,法人の本質を個人の株主の単なる集合とみなし,個人の株主こそが真の実在であり,したがって真の納税者であって,法人というのは個人の株主にとっての単なる利潤追求のための手段である組織にしかすぎないという考え方である。このような考え方は,個人主義の考え方の強いアングロ・サクソン系諸国で一般的に受け入れられてきた。この擬制説を採用するならば,個人の段階で課される所得税に加えて法人の段階で法人税を追加的に課税する理由は,明確ではない。法人の所得は株主に帰属するものとみなし,所得税を課するさいに個人の納税者の所得として他の所得とともに課税するならば,法人税の存在理由はなくなる。
法人擬制説の考え方を貫徹するならば,法人税を廃止して,法人所得を個人の株主の所得として所得税を課税するのが理論的帰結である。しかし,実際には法人の所得は個人の株主に完全に支払われるわけではないから,株主としても支払を受けていない単なる帰属所得に対して課税されることは,納税者の気持ちとして必ずしも納得がいかないという面もある。また,〈旧税は良税〉といわれるように,法人税は現代の諸国において租税体系のなかに確固とした地位を築いてしまったから,それを廃止することに対する抵抗も大きい。擬制説をとりながら法人税の存続を認めるためには,法人税を株主に対する所得税の一種の源泉徴収税と考えることが必要である。
いずれにしても,今日の各国における傾向は,法人税の存在を前提にしたうえで,所得税との調整を図ろうというものである。所得税制度の具体的内容によって調整方法は異なってくるが,多くの国においては,配当所得については所得の一部として所得税が課され,他方,留保所得については所得税を課されないという形態が一般的である。
法人所得の二重課税というのは,配当分について,法人税と所得税が二重に課される現象をさしている。やっかいなのは,法人税は基本的には比例税であり,他方,所得税は累進税であることである。したがって,形式的に法人税と所得税が同じ所得に二重に課されるからといって,法人税の存在が税負担をすべての株主に対して高めるとは限らない。高額所得者の株主にとっては,所得税を課されるよりは法人税を課されたほうが税負担が軽くなる。したがって,擬制説を採用するならば,法人税の存在は公平の原則との関係できわめて不合理な要素を持ち込む。
留保所得については所得税は課されないから,形式的には二重課税とはならない。しかし,株価の上昇から生ずる譲渡所得(キャピタル・ゲイン)は,直接的な関係ではなくても,留保所得と密接な関係があるとも考えられるから,その扱い方いかんでは二重課税を形成する。法人擬制説に基づいて,二重課税を回避するためには,株式の取引から生ずるキャピタル・ゲインに対して課税をしてはならないことになる。
法人税の存続を認めたうえで所得税との調整を図るためのさまざまな方法が提案されている。基本的な考え方は,法人所得を株主に帰属させ,所得税の課税対象とし,同時に法人税としてすでに支払った部分については,所得税の前払いとみなして,税額控除を認めるということであり,最近インピュテーション方式という名称でヨーロッパ各国で採用されてきている。日本の制度は,1988年改正で,配当軽課制度が廃止され,配当所得税額控除方式のみによって,二重課税を排除することになった。
法人実在説は,法人がその株主とは独立の担税力を有する存在であると主張する。したがって,法人税を法人所得に課することと,配当所得あるいはキャピタル・ゲインに対して個人の株主の段階で所得税を課することは二重課税とはならない。さらに,個人の場合に担税力に応じて累進税が正当化されるように,法人の担税力に応じて累進税率を法人税に適用することも可能であるとされる。
執筆者:林 正寿
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(浦野広明 立正大学教授・税理士 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
… 第2次大戦後の日本の税制は,1950年のシャウプ勧告にもとづく税制改革を出発点とする。シャウプ税制は,所得税と体系的に関連づけられた法人税,富裕税および相続税といった直接税を中心とし,補完税として酒税,専売益金といった間接税を配する理論的に首尾一貫した体系であった。ところが,戦後の税制の歴史はシャウプ税制の崩壊過程の歴史であるといわれるように,相次ぐ改正によりさまざまな問題点が生じてきた。…
※「法人税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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