[1] 〘自カ五(四)〙
[一]
物事が底についていない
状態、固着しない状態にある。
① 物が液体の表面にある。また、水底、地面などから離れて、水中、空中にある。うかぶ。
※
古事記(712)下・歌謡「
瑞玉盞(みづたまうき)に 宇岐
(ウキ)し脂
(あぶら)」
※大鏡(12C前)二「雲のうきてただよふを御覧じて」
② ある物事に動いてさだまらない状態が現われる。
助動詞「たり」の
連体形を伴う場合が多い。
(イ) 気持が落ち着かない、不安定である状態の場合。→
ういた(浮)。
※古今(905‐914)恋二・五九二「たぎつ瀬に根ざしとどめぬうき草のうきたる恋も我はするかな〈
壬生忠岑〉」
※源氏(1001‐14頃)葵「おきふし思し煩ふけにや、御心ちもうきたるやうに思されて」
(ロ) 生活の基盤が弱くなり、経済的に頼りない状態にある場合。
※源氏(1001‐14頃)若紫「むつましかるべき人にもたちおくれ侍りにければ、あやしううきたるやうにて年月をこそ重ね侍れ」
(ハ) 気持などが、うわついていてかるはずみである、うわきである場合。
※
万葉(8C後)四・七一一「鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて浮
(うき)たる心吾が思はなくに」
(ニ) 根拠がない、いいかげんで、不確実である場合。
※後撰(951‐953頃)雑二・一一四二「あま雲のうきたることと聞きしかど猶ぞ心は空になりにし〈よみ人しらず〉」
※
更級日記(1059頃)「『空の光を念じ申すべきにこそは』など、うきておぼゆ」
(ホ) 気持がうきうきして陽気になる場合。
※
日葡辞書(1603‐04)「ココロノ vyta
(ウイタ) ヒト」
(ヘ) ((イ)から転じて) 寄席などで、客が終わりまでいないで中途で帰る。
③ 物が基盤、基礎となるものに、しっかり固着しない状態になる。
(イ) 土台、釘、歯などがゆるんでぐらぐらする。
※日葡辞書(1603‐04)「ハガ vqu(ウク)〈訳〉歯が揺れる」
(ロ) おしろいなどが膚によくつかない。化粧ののりがわるい。
(ハ) ふわついて不安定になる。水泳で疲れてからだがうまく水に乗らなくなったり、競走で疲れて重心があがって、足が地につかないような状態になることもいう。
※
曾我物語(南北朝頃)一「大力も、はねられて、足のたてどのうく所を、すてて足をとりて見よ」
(ニ) ある集団や社会の中で、定着しないで、遊離する。うきあがる。
※近代日本の思想文化(1953)〈唐木順三〉「ハイカラなもの、浮いたものになってしまったのも、それが知識階級専門のものとなったことの結果であらう」
④ 下地から離れて上にあがっているように見える。また、そう感じる。
(イ) 織物や彫刻などで、模様が上に出ているように見える。文字や図柄が際立って見える。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「紅梅のいと紋うきたるえび染の御こうちぎ」
(ロ) 血管や骨などが皮膚からうきあがっているように見える。
※
花子(1910)〈
森鴎外〉「学生は挨拶をして、
ロダンの出した腱の一本一本浮いてゐる右の手を握った」
[二] 物事が奥底の方から表面に出てくる。また、ある基準より上の状態にいく。
① 水中から水面の方へ出てくる。うきあがる。うきいず。⇔
沈む。
② 物事が表面にあらわれる。見えなかったものが、はっきりみえるようになる。
(イ) 物事が外面に現われる。
※蜻蛉(974頃)中「
うぐひすの声などをきくままに、涙のうかぬ時なし」
(ロ) まわりのものから区別されて、物がよくみえるようになる。
※
風立ちぬ(1936‐38)〈
堀辰雄〉冬「暗がりの中にそれだけがほの白く浮いてゐる
彼女の寝顔をぢっと見守った」
③ 意識に出てくる。思い起こされる。
※
四河入海(17C前)九「君にひかれて、詩興が我もういてあるぞ」
④ 金銭や時間、点数などに余りが出る。余裕ができる。金銭、点数などが、ある基準より多くなる。
※二人女房(1891‐92)〈
尾崎紅葉〉下「六円では小遣も浮
(ウ)かぬ」