東京都に存する23区が地方自治法上〈特別区〉と称される。特別区は1975年4月以来直接公選となった区長と区議会の下に〈市〉に準ずる権能をもっているが,法的性格は〈特別地方公共団体〉であり,都と特別区の関係には都道府県と市町村とのそれと異なるものがある。1943年の東京都制施行前に東京市には,35の法人区がおかれ区会も設けられていた。これは東京市と府の併合による都制施行後も残されたが,敗戦後の46年の東京都制一部改正と47年の地方自治法施行により,35区は22区に再編(1947年10月に板橋区から練馬区が独立して23区)され〈特別区〉となり,原則として〈市〉に関する規定が適用された。
しかし,地方自治法は都が法令および条例,規則に基づき23区の存する区域において,市としての権能をもつことを規定しており,都は大都市行政の一体性を理由に,区に〈市〉に見合った事務事業,人事,税財政権限を移管しなかった。この結果,特別区と都との間に区自治権をめぐる紛争が続いた。52年,政府は折からの戦後民主化見直し状況の中で地方自治法を改め,特別区を都の内部的構成団体と位置づけ区長公選を廃止した。区長は区議会が都知事の同意を得て選任する方式に改められ,区の事務は法に列挙されたもの以外に及ばず,他はすべて都の事務となった。同時に,区への都職員配属制度が導入され,人事権のない区長の下で都職員が働くことになり,財政面でも都区財政調整が制度化された。この改革は従来から都が主張していた大都市行政の総合性・一体性を理由とするが,1960年代の高度成長による東京への人口集中は,特別区部の都市環境を一変させた。府県と市との権能を併せもつ都に区生活環境の整備はしだいに難しくなっていった。加えて,区議会は当初,区長公選回復運動を展開したがしだいに区長選任をめぐる政治的混乱に陥り,区長の空席が各区に続出した。このような中で,60年代後半に区自治権の確立を求める区民の運動が起きた。具体的には区議会の議決に先だち,区長候補者を区民投票で決めるための条例制定運動(区長準公選運動)がそれである。練馬区に始まった運動は各区に波及し,72年7月品川区で条例制定に結びついた。政府はこのような状況下の74年6月,地方自治法を改正(1975年4月施行)し,区長直接公選を法定して権限面でも区を市並みの自治体とした。現在,特別区は区長人事権の下に原則として市と同様の事務を処理し,また人事委員会や保健所の設置については一般市以上の権能をもつが,上下水道,清掃,消防事務は都の事務である。税財政面では,市税相当分のうち市民税法人分,固定資産税など7種の税が都税として賦課徴収されており(地方税法734,735条),このうち市民税法人分,固定資産税,特別土地保有税の3税収入の一定割合が,都区財政調整交付金として特別区に交付される。都と特別区,特別区相互間の連絡調整を図るための諸規定が置かれるなど(地方自治法282条,282条の2),都と特別区の一体性は依然として強い。
→都制
執筆者:新藤 宗幸
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東京都の区をいう。現在23区が置かれている。法人格を有し、特別地方公共団体の一種であるが、市に準ずる扱いを受ける。しかし、都における大都市行政を確保する観点から、市的権能はある程度制限されている。特別区の議会の議員定数は56人を上限とする。都と特別区および特別区相互の連絡調整を図るため都区協議会が置かれる。1947年(昭和22)の地方自治法制定時、区長は公選制であったが、1952年、都知事の同意を得て区議会が選任する制度に改正された。しかし、1974年の改正により、ふたたび公選制に戻り、これとともに、都から特別区への事務委譲、いわゆる都配属職員制度の廃止による特別区の人事権の確立、および特別区の財政の充実など、特別区の自治権の強化・拡充のための措置が講じられた。なお、政令指定都市に置かれる区は行政区という。これは市長の事務執行を分担するにすぎず、独立の自治体ではない。
[阿部泰隆]
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…だが,これは公選の議会をもち,自治権を行使している完全自治体であり,〈区〉という日本での一般的訳語は,必ずしも正確でない。ところで,以上は,大都市市域内の区画としての区の例であるが,アメリカでは中心市を含む大都市圏全体の中に,特定の行政目的を遂行する特別区special districtが多数設置されている。これは州法に基づき設けられ,港湾施設,ごみ処理,交通,公園,上下水道,洪水調節などの行政機能をもつ。…
…現行の法制度上では地方自治法の定める東京23特別区および政令指定都市の行政区の長を意味する。日本の地方制度に区長という職が登場したのは明治初期のことである。…
…東京都には政治,行政,経済などの中枢管理機能が集中しており,この都市構造の特異性に対応して一般の府県とは異なる規定が法令に設けられている。主たる相違点は,第1に,都下市町村に対しては府県と同様に広域的普通地方公共団体としての権能をもつが,23特別区の存する区域については市としての権能をもっていることである。第2に,警察行政が府県と異なっている。…
※「特別区」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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