特定秘密保護法(読み)トクテイヒミツホゴホウ

デジタル大辞泉 「特定秘密保護法」の意味・読み・例文・類語

とくていひみつほご‐ほう〔‐ハフ〕【特定秘密保護法】

《「特定秘密の保護に関する法律」の略称》国の安全保障に関して特に秘匿する必要がある情報の漏洩を防止するために、特定秘密とする情報の指定・提供・取扱者の制限・適性評価などについて定めた法律。平成25年(2013)12月公布、平成26年(2014)12月施行特定秘密法

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「特定秘密保護法」の意味・わかりやすい解説

特定秘密保護法
とくていひみつほごほう

日本の安全保障に関する重要情報を「特定秘密」に指定して厳格に管理し、漏洩(ろうえい)した者に厳罰を科す法律。正式名称は「特定秘密の保護に関する法律」(平成25年法律第108号)で、「秘密保護法」などともよばれる。2013年(平成25)12月に成立し、2014年10月に運用基準が設けられ、同年12月に施行された。特定秘密となるのは「防衛(21項目)」「外交(17項目)」「スパイ活動防止(10項目)」「テロ防止(9項目)」の計4分野57項目で、自衛隊の暗号、潜水艦の潜水可能深度、アメリカ・イギリス・フランス・オーストラリア・インドなど他国軍の情報、北朝鮮の拉致(らち)関連情報など607件(2020年6月末時点)、特定秘密が記録された文書は約48万5000件に及ぶ。特定秘密の指定は国民の知る権利を侵害するおそれがあるため、運用基準には「知る権利の尊重」が記された。秘密指定の妥当性などを年1回、定期的にチェックする。監視は衆参両院の「情報監視審査会」、内閣官房の「内閣保全監視委員会」、内閣府の「情報保全監察室」や「独立公文書管理監」があたるが、監視機関の是正要求に強制力はない。

 2010年に尖閣(せんかく)諸島沖で中国船籍漁船が海上保安庁巡視船に衝突した映像が流出したことをきっかけに、政府の有識者会議が2011年に「秘密保全法制を早急に整備すべきである」との報告書をまとめ、第二次安倍晋三(あべしんぞう)政権下で法制化された。秘密指定は「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」について、関連省庁の長(大臣など)が行う。特定秘密は5年ごとに更新し、原則30年で指定を解除する。ただし、内閣が承認すれば30年を超えて60年まで指定を続けることもできる。また、暗号や人的情報源等の情報は60年を超えて指定し続けることが可能である。指定解除後は国立公文書館で保存されるが、30年以下の情報の一部は廃棄されるものもあり、実際には永久に非公開の情報もあるとみられる。特定秘密を扱う公務員防衛産業などに従事する社員については、秘密を漏らすおそれがないかを「適正評価」で審査する。スパイ活動やテロとの関係のほか、国籍、犯罪歴、薬物乱用とその影響、精神疾患、酒癖、借金など家計の経済状況について、必要に応じて家族や同居人まで調査する。本法施行以前は、国家公務員の守秘義務違反に対する罰則は最高で懲役1年、防衛秘密漏洩で同5年であったが、本法施行後は特定秘密を故意に漏洩すると最高で懲役10年または1000万円の罰金などが科され、漏洩をそそのかしたり共謀したりした者には最高5年の懲役刑が科される。なお外交や安全保障に関する秘密(特別管理秘密)を扱う国家公務員については、2009年4月から「秘密取扱者適格性確認制度」があったが、本法施行で適正評価の対象が民間人まで広がった。

 日本政府は特定秘密保護法が必要な理由として、外交・安全保障政策を司(つかさど)る国家安全保障会議(日本版NSC)の運用に欠かせないことをあげ、とくに安全保障協力やテロ防止などで外国と円滑に情報交換するのに不可欠としている。一方、野党などは特定秘密の指定範囲や基準があいまいで、時々の政権の裁量や恣意(しい)的運用の余地があると批判。取材・報道の自由との線引きもあいまいで、国民の知る権利や人権が阻害される懸念があると指摘している。また、安全保障上の秘密保護と知る権利の両立を目ざす国際的ガイドラインであるツワネ原則に照らして、特定秘密保護法は保護規制が強すぎるという批判もある。

[編集部 2020年12月11日]

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百科事典マイペディア 「特定秘密保護法」の意味・わかりやすい解説

特定秘密保護法【とくていひみつほごほう】

正式には特定秘密の保護に関する法律。秘密保護法と通称される。2013年10月第二次安倍政権が閣議決定し,12月成立・公布。公布から1年以内に施行とされ,2014年12月施行された。日本の安全保障に関する情報のうち〈特に秘匿することが必要であるもの〉を行政機関が〈特定秘密〉に指定し〈特定秘密の取扱いの業務を行う者〉に対する〈適正評価の実施〉,〈特定秘密の提供〉が可能な場合の規定,〈特定秘密の漏えい等に対する罰則〉等を規定する。特定秘密の対象となりうる情報としては〈防衛に関する事項〉〈外交に関する事項〉〈外交の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止に関する事項〉〈テロ活動防止に関する事項〉とされている。〈適正評価の実施〉において〈特定秘密の取扱いの業務を行うことができる者〉とは,〈適正評価により特定秘密を漏らすおそれがないと認められた職員等〉と限定される。〈漏えいと取得行為に対する罰則〉に関しては,〈特定秘密を取り扱うことを業務とする者〉と〈公益上の必要により特定秘密の提供を受け,これを知得した者による漏えいだけでなく,特定の〈取得行為〉およびその未遂,共謀,教唆(きょうさ),煽動(せんどう)をも処罰対象とする〉と規定している。同法では,チェック体制として〈内閣保全監視委員会〉(委員長・上川陽子法相),検事出身者による〈独立公文書管理監〉,その事務局に〈情報保全監察室〉があり,政府の特定秘密の指定や解除が適切かをチェックする国会の監視機関〈情報監視審査会〉がある。国会の情報監視審査会は,政府の外に置かれ,国民の代表の立場で常に監視する唯一の機関。2014年12月の施行を受け,2015年3月に第1回審査会が開かれた。国会の情報監視審査会の役割は重要で,同法では〈取材の自由に充分に配慮しなければならない〉と付記されているが,特定秘密の内容が曖昧で,行政府が恣意的に指定しうる可能性が高く,また処罰対象となる取得行為についても,権力の恣意性への不安は払拭されていない。しかも秘密指定の有効期間は5年とされているが5年の延長が可能で,さらに通算30年以上になるときに時の内閣の承認を求める規定があるので,内閣が公開を承認しなければ永遠に秘密にしておくことが可能である。このため憲法に保障されている言論表現の自由はもとより民主国家の原則である〈国民の知る権利〉にも抵触するおそれがあり,新聞・放送・出版などの言論界・ジャーナリズムからは強い批判が出され,法曹界からも懸念が表明されている。
→関連項目安倍晋三内閣国家安全保障局防衛秘密保護法

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