特殊需要special procurementの略語。通常,1950年6月に勃発した朝鮮戦争に関連して発注された戦時の特殊な軍事需要(朝鮮特需)をいう。狭義には〈国連軍(主として在日米軍)が特需契約に基づいて調達する物資およびサービスの代金〉を呼び,広義には〈前記のほか日本に駐留する外国軍隊の消費(円セール)ならびに外国関係機関の支出に伴う受取り〉をも含む。このほか,52年以降のアメリカ本国での軍備拡大やアジア諸国への軍事援助に関連した日本への需要や,日本政府の防衛分担金支出のもたらす需要などが新特需と呼ばれたこともあるが,両者は必ずしも統計上区別されえない。国際収支統計上は,朝鮮戦争以後新しく発生した特殊需要であって,貿易外勘定に計上された外貨収入が一応特需に当たるであろう。
範囲があいまいなため,資料によって計数が不揃いであるが,日銀《貿易及び貿易外便覧》(1959年12月)によれば,特需収入は1950年の1.5億ドルから始まってピークは52年の8.2億ドルであり,50-53年の4ヵ年で24億ドルを記録し,その後は年間4億~5億ドル程度となった。ピーク時には輸出総額の3分の2,外国為替受取高の4割近くの割合を占めていた。これは当時の国際収支赤字を補塡(ほてん)したうえに大量の外貨蓄積を可能にし,ドッジ・ライン下の不況に沈んでいた日本経済の拡大の契機となったので,当時この特需は起死回生の〈神風〉とか〈天佑〉とかいわれた。またやはり範囲が不明確なため,いかなる分野に特需が向けられたかも確定しにくいが,特需契約高でみると,50-53年間に物資8.3億ドル,サービス4.7億ドルという数字があり,前半は過半が物資であり,後半は逆転している。物資ではほとんど毎年兵器が第1位を占めるのは当然であるが,トラック,自動車部品,石炭などが2位を占め,繊維製品や食料品が3位,家具や有刺鉄線,ドラム缶などが4位を占めている。一方サービスでは,戦車,艦艇などの軍事輸送関係修理や自動車修理などが上位を占めたが,のちには建設や電信電話,荷役,倉庫が上位にのぼり,機械,兵器,航空機等の修理も増大している。
特需は日本経済にとっては多分に偶然的な,外的な,特殊な需要であって,内的な,ないしは実力が当然に生み出した需要ではない。したがってそれは〈金へん景気〉〈糸へん景気〉などをもたらして日本経済拡大の契機にはなったが,休戦後需要が急速に減少すると特需によって持ち直していた経済はたちまち不況におちいり,日本経済の自立がなお主要な経済政策上の目的とされねばならない状況になった。この時期に続くいわゆる日米経済協力体制は,特需に代わるものである。1960年代には特需はごく少額となったが,65年以後のベトナム戦争拡大に伴うベトナム特需,とりわけ近隣諸国へのアメリカの支出が日本の輸出を伸張させた間接的な特需として効果は大きかった。
執筆者:林 健久
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アメリカ軍がアジアでの戦争遂行のため特別に生じた需要をいう。原則的には在日米軍の域外調達という契約で実現されたものをさす。第二次世界大戦後のアジア戦略において、兵器廠(しょう)としての日本工業の潜在能力を活用すべく、冷戦体制下のアメリカの必要から生まれた特需は、同時に日本独占資本の再編、とくに軍需産業の復活に決定的な役割を果たした。1950年(昭和25)後半から実質的に6年間続いた朝鮮特需の年平均契約高は2億7000万ドルといわれ、当時の日本の国際収支改善の重要なチャンスとなった。しかも、敗戦で膨大な遊休設備を持て余していた機械工業に需要をもたらし、独占復活の契機ともなった。1948年1月のロイヤル米陸軍長官の声明を受けて、東南アジア向けの軍用車両の修理生産開始(1948)、沖縄軍事基地建設の発注(1949)などの朝鮮特需は、日本の軍需産業復活の方向を決定づけた。50年7月マッカーサー元帥の指令による警察予備隊創設と相まって兵器生産復活が急がれ、翌51年9月の対日平和条約・日米安保条約に1か月先だって、GHQ(連合国最高司令部)は兵器製造を解禁、航空機工場など850工場を返還したが、戦争に従属する特需の発注は、日本独占の生産計画・設備資金計画を無視したため、操業停止工場も生まれた。そのため計画的・安定的な兵器需要に応じた日米相互防衛援助協定(MSA協定)が54年3月に結ばれ、防衛力増強の方向も確定的となった。同年7月のフランス軍のインドシナ敗北直後に開始されたアメリカのベトナム軍事援助を手始めにベトナム特需が始まった。65年のアメリカ地上軍の本格的投入を前提としたベトナム特需の最盛期(1966~68)には年間30億ドル以上といわれ、直接特需(航空機・艦艇修理)のほか間接特需(韓国、シンガポールなどベトナム参戦国家での現地生産)、アメリカ特需などがあったが、以後その規模も大型化・高度化し、日本経済の対米従属傾向をいっそう強めてゆくこととなった。
[加藤幸三郎]
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