日本大百科全書(ニッポニカ) 「生命の起源」の意味・わかりやすい解説
生命の起源
せいめいのきげん
生命のない物質から生物が生成すること。宗教的には古くから多くの説が唱えられたが、科学的には、パスツールによる微生物の自然発生の否定(1862)ののち、1920年代にオパーリンらによって段階的な生命起源の説がたてられた。すなわち、1922年、オパーリンは、生物出現以前から、地球上には多量の有機(炭素)化合物が存在し、それの化学変化により現在の生体構成物に類似した物質が生じ(化学進化)、それを基として最初の生物が形成された、とした。この説は彼自身により、1936年に『地球上における生命の起源』Возникновение жизни на земле/Vozniknovenie zhizni na zemleとして著された。化学進化については、宇宙における有機物の存在の天文学的発見や、実験室におけるモデル実験から、その過程が検討されている。また、生命発生の段階については、オパーリンは、コアセルベート説を提案し、原形質類似の有機高分子の複合体である液状粒子の進化・淘汰(とうた)から原始生物が生じた、としたが、まだ明らかではない。生命の発生は、化石研究から35億年以前と推定され、始原生物は有機物栄養の発酵性生物であり、光合成生物、呼吸生物はその進化で生じたと考えられている。
[石本 眞]
『オパーリン著、石本眞訳『物質▼生命▼理性』(1979・岩波書店)』▽『オパーリン他著『生命の起源への挑戦』(講談社・ブルーバックス)』