文学的空想における異世界alternate(other)worldと数学の次元概念dimensionとを合成した造語で,正しくは高次元的に存在可能な別世界とでもいうべきもの。近代SF文学のテーマとして盛んにとり上げられて以来,広く一般の関心を呼ぶようにもなった。われわれの空間は縦・横・高さの三次元に存在していると考えられているが,これに時間が加わって四次元の世界が存在しうると想像されており,位相幾何学的にはさらに五次元,六次元,n次元といった空間も式にすることができる。すなわち,三次元空間の集合が四次元であり,四次元空間の集合が五次元となる。こうした想像上の高次元世界は,たとえば浦島太郎伝説のように古くから素朴な形で文学化されてきたが,数学的シチュエーションを本格的に問題とした作品が現れるのは最近のことで,ハインラインの短編《歪んだ家》(1941)などが代表作とされる。また四次元世界は,三次元空間の集合であるから,四次元的視点に立てば,われわれの世界に似た空間が無数に存在していることになる。これを〈パラレルワールドparallel world〉と呼び,ブラウンF.Brownの《発狂した宇宙》(1949)はそうした平行世界の望む部分へ旅行できる夢物語である。一方,現代SFではディックの《流れよ我が涙,と警官は言った》(1974)のように,不条理の世界に追い込まれた人間を扱う上で平行世界の理論を使ったものが流行している。また,歴史の分岐点で異なった方向へ進めば,平行世界の一つに出るだろうと想像するのが〈もう一つの歴史テーマ〉で,やはりディックの《高い城の男》(1962)は,第2次世界大戦において連合国軍が敗北し,日本とドイツにアメリカが占領されている世界を舞台にしたこのテーマの傑作として知られており,一般に歴史SFと呼ばれるものはこの設定による作品が多い。
執筆者:山野 浩一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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