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「福島第一原発」の意味・わかりやすい解説
福島第一原発【ふくしまだいいちげんぱつ】
福島県双葉郡大熊町と双葉町にまたがる位置にある東京電力の原子力発電所。1〜6号機は1971年〜1979年の間に運転開始,7・8号機を計画中であった。1〜6号機は沸騰水型軽水炉。2011年3月11日,東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震による大津波(浸水高14m〜15m)をきっかけに,原発史上最悪の大事故(原子力過酷事故)の一つを起こした。INES国際原子力事象尺度で,最悪と言われたチェルノブイリ原発事故と同等のレベル7(暫定)である。放射性物質の放出は,37万TBq(テラベクレル)(経済産業省原子力安全・保安院)もしくは63万TBq(内閣府原子力安全委員会)と推定され,チェルノブイリ原発事故の1/10程度とされている。〔事故発生と直後の状況〕 津波の高さ,地震の震度・最大加速度とも設計値を大きく上回り,津波による全電源喪失がおこったことが大事故の直接の原因である。事故発生後の東京電力,原子力安全・保安院,原子力安全委員会等のアクシデントマネジメントに大きな不備があったことも明らかで,設計から事故発生後の対応まで,この原子力災害がまったくの人災であることが明らかになった。大津波による非常用電源も含めた原子炉の全電源喪失で,非常用炉心冷却装置や冷却水循環系が稼働せず,ブロックなしに設置されていた冷却用海水ポンプも津波で破壊されて最終ヒートシンク喪失状態となり,原子炉および使用済核燃料貯蔵プールが冷却不能に陥った。核燃料棒の加熱,原子炉内の水位低下,燃料被覆管溶融,炉心溶融,水素発生,格納容器圧力の上昇と,状態は一気に悪化,ベント(排気),大規模な水素爆発,圧力抑制プール爆発,冷却水漏れが連続して起こり,大量の放射性物質が,大気中に大量に漏洩された。さらに溜まり水,土壌,敷地内トレンチ,地下水,海水等に放出された。東京電力は,外部からの応援を得て,冷却のために大量の海水等の投入を続け,そのため大量かつ高濃度の放射性物質を含む汚染水が原子炉建屋周辺に溜まった。さらに津波と水素爆発による建屋などの瓦礫などからも高い放射線量が観測され,被曝の恐れがあるため,冷却装置の復旧作業はもとより原子炉そのものの状態の確認が阻まれているという状況が続いた。この間,東京電力は飽和状態となった大量の汚染水を海洋に流出させるという措置に踏み切っている。〔政府・東京電力の対応〕 政府は,2011年3月11日の事故発生の直後に原子力災害対策特別措置法に基づき原子力緊急事態宣言を出した。3月12日1号機の爆発を受けて半径20km以内の住民に避難指示,同14日3号機の水素爆発,2号機爆発,同15日4号機火災と連続するなか同15日半径30km以内の住民に屋内退避を指示した。4月11日,放射性物質の拡散状況を受けて,20km圏外の一部自治体を含めて計画的避難地域を設定,20km〜30kmの大半を緊急時避難準備区域とし,さらに4月22日,20km圏内を警戒区域として立ち入り禁止,事実上封鎖した。放射性物質の拡散によって,福島県をはじめ近隣都県では水道飲料水の汚染が相次ぎ,さらに農産物,原乳,水産物から放射性物資が検出され,厚生労働省は原子力安全委員会の提示した指標値を食品衛生法の暫定規制値とし,これを超えるものを出荷停止とした。また,日本産食品の輸入規制を適用した国は,韓国・中国・台湾をはじめ50ヵ国に上り,内外に様々な風評被害が生じた。5月24日,政府は内閣官房に事故調査・検証委員会を設置することを閣議決定,6月から検証作業に入った。また原子力安全委員会が安全基準の抜本的見直しに着手,その後2013年2月に任命された原子力規制委員会(環境省外局,2012年6月設置)に引き継がれ新規制基準の作成を進めた。東京電力は4月17日,事故を今後6〜9ヵ月以内で収束させるという工程表をはじめて発表した。第1段階は3ヵ月で確実に原子炉を冷却し放射性物質の放出を減少に向かわせ,第2段階は6〜9ヵ月で原子炉を100度未満の安定状態に保つ冷温停止にし,放射性物質の流出を大幅に抑える,というものである。さらに5月初めには原子炉格納容器を水で満たす水棺作業に着手すると発表した。大気や海洋への放射性物質の流出対策は,第1段階で高濃度放射能汚染水をためるタンクなどを確保,第2段階で原子炉建屋全体をテント状のシートで覆う計画を提示した。2011年5月12日,東京電力は1号機のメルトダウン(炉心溶融)を発表,溶融した燃料が原子炉圧力容器から格納容器に漏れ,格納容器も破損しているため1号機の汚染水放出は1万tに達し,工程表で提示した水棺方式での冷温停止は不可能となった。さらに2号機,3号機でもメルトダウンが起こったと推定され,1号機のメルトダウンはすでに3月11日の事故発生後数時間で起こったことをこの時点ではじめて発表した。5月17日,東京電力は冷却水循環注水方式による冷温停止をめざす工程表に修正すると発表,当初予定の9ヵ月以内の収束は可能とした。2011年12月,野田佳彦首相は,原子力災害対策本部で第2段階の冷温停止の条件が達成されたと確認,事実上の事故収束宣言を発表した。〔放射能大漏洩・拡散の状況〕 2011年11月に文科省は,福島第一原発事故で飛散した放射性セシウムについて18都県分の汚染マップをはじめて公表した。事故発生後の放射性プルーム(放射性雲)の流れが,西は群馬・長野県境,北は宮城北部・岩手南部でとどまったとの見方を示した。セシウムは飛散量も多く,セシウム137は半減期が30年と影響は長期にわたる。文科省は,セシウム134と137を合わせた1km2当たり1万Bqの蓄積量を超える地域を〈第一原発の事故で影響のあった範囲〉としている。そうした地域は13都県3万km2(日本の国土の8%)を超えた。放射性雲は四つのルートを流れたとされている。第1ルートは西に向かって,第一原発から時計回りに関東地方の広範囲に流れ,直後の雨や雪とともに地表に落ちた。特に栃木,群馬の北部で汚染が広がった。さらに第1ルートの一部は,群馬から南下し埼玉西部(秩父市周辺),長野東部(佐久市周辺),東京西部(奥多摩町周辺)を通り,丹沢山系のある神奈川西部(山北町周辺)で止まった。第2ルートは北西に向きを変え,福島県浪江町などで帯状に高濃度汚染をもたらした。第3ルートは北に向かい,宮城北部や岩手南部では降雨の影響で飛び地状の汚染が沈着した可能性が指摘されている。第4ルートは茨城沿岸から千葉北部(柏市周辺)を通り,気圧配置の関係で,都心の手前で東京湾を南下,東京と神奈川の深刻な汚染は,東京東部(葛飾区周辺)など一部とされている。さらに文部科学省は2012年3月,東日本で進めた約2200地点(第一原発から半径100km圏内)の土壌調査の報告書をまとめ公表した。文科省の報告書は,148万Bqを超える高濃度の地域をチェルノブイリと比較,それによると福島は原発から帯状に北西方向に延びる地域を中心に34地点で高濃度地域が確認され,最も離れていたのは浪江町の32.5kmである。3万Bqでのチェルノブイリとの比較では,最大は群馬・長野県境の約250km,この距離はチェルノブイリの際の7分の1ほどであるとしている。福島原発から放出されたストロンチウム90は,原発から4.9km地点で最高値が5700Bqとしている。2011年12月の事故収束宣言から1年4ヵ月後の2013年4月,東京電力は,福島第一原発内の地下貯水槽からストロンチウムなどを含む高濃度汚染水が大量に漏出したと発表して衝撃を与えた。漏れた量は推定約120t,放射能は約7100億Bqとしている。東京電力は海洋に流出はない,と説明したが,福島県は原因究明,再発防止策の徹底,環境の影響への徹底調査を求めた。2014年4月には約200tの高濃度汚染水が本来と違う建屋に誤って送水されていたことが判明,原子力規制委員会は東京電力に監視強化を指示した。佐藤雄平・福島県知事は,福島第一原発では原発事故から3年でトラブルが200回以上起こり,リスク管理がきわめてずさんと言っても過言ではないと厳しく指摘した。2015年2月にも,排水路の放射性物質濃度が通常の10倍以上という計測データを東京電力が公表していないという問題が発覚,依然として汚染水対策が充分とはいえない状態にあるとともに,東京電力の隠蔽体質が再び批判される事態となっている。福島第一原発事故の調査・検証は,政府事故調査・検証委員会とは別に国会が国会・事故調査・検証委員会を設置したほか,民間の委員会(民間事故調)も組織された。しかし,政府・国会の委員会調査報告は,事故発生当時の混乱状況,東京電力,国の状況把握の曖昧さ,事故当事者意識の欠如等々の壁に阻まれ,未曾有の過酷事故の全体像の解明となっているとは言い難い。→原子力安全委員会/原子力安全・保安院/放射線量/海洋汚染/土壌汚染/食品安全基本法
→関連項目アメリカ原子力委員会|アレバ|安定ヨウ素剤|飯舘[村]|飲料水水質ガイドライン|枝野幸男|エネルギー政策|大飯原発|大間原発|女川原発|外傷後ストレス障害|海洋投棄規制条約|柏崎刈羽原発|嘉田由紀子|上関原発|環境難民|関西電力[株]|菅直人|菅直人内閣|帰還困難区域|危機管理|九州電力[株]|計画停電|軽水炉|原子力|原子力委員会|原子力管理|原子力規制委員会|原子力規制庁|原子力基本法|原子力災害補償|原子力産業|原子力資料情報室|原子力損害賠償支援機構|原子力損害補完的補償条約|原子力発電|原子力保険|原発事故|原発事故調査委員会|国際原子力機関|国際放射線防護委員会|災害対策基本法|サルコジ|産業公害|自衛隊災害派遣|志賀原発|四国電力[株]|地震考古学|地震災害|地震予知|指定廃棄物|島根原発|貞観津波|常磐自動車道|新エネルギー|水質汚濁防止法|ストレステスト|SPEEDI|スリー・マイル・アイランド原発事故|制御棒|生物濃縮|セシウム|節電|太陽光発電|高木仁三郎|脱原発|津波|TPP|電気事業|電力システム改革|ドイツ|東海村臨界事故|東京電力[株]|東北電力[株]|泊原発|浪江小高原発|日本|発電|浜岡原発|反原発運動|東通原発|フランス|プルサーマル|放射性物質|放射性廃棄物|放射線防護|放射線モニター|放射能汚染|細野豪志|ホットスポット|美浜原発|無過失責任|メルケル|メルトダウン|山口仙二|ヨウ(沃)素|吉田昌郎|臨界状態
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