髪飾の一種。語源は定かでないが,髪刺(かみざし)からくるともいう。純粋に飾りとして用いられたのは,かなり後世のことである。古代においては,先のとがった1本の細い棒に呪力が宿ると信じられ,髪刺も,髪に1本の細い棒を挿すことによって魔を払うことができると考えられていた。一方,《日本書紀》や《万葉集》などにみえる挿頭(かざし)は,神事や朝廷の節会(せちえ)に公卿宮人の冠に花枝を挿すことが行われ,これが民間の祭事などにも流行し,一般の節会の習慣になっている。挿頭も語源としては髪刺と同じであると考えられる。しかし江戸時代の簪は宗教的な意味は含まず,純粋に髪飾として独自の発達をとげたといえる。
奈良時代に隋・唐時代の二またに分かれた簪が日本に伝わり,これを釵子(さいし)と呼んだ。遺品では法隆寺献納宝物に,聖徳太子が用いたと伝えられる銀製雲形釵子がある。また経塚などから,耳かきが頭部についた金銅製のものが発掘されているが,女性の髪に挿したというより貴族の男性の冠どめとして用いられたものと考えられる。江戸時代の髪飾としての簪は,材質・形状ともに多種多様になり,形の上で大別すると耳かき簪,松葉簪,玉簪,平打ち簪,花簪,変り形簪などがある。材質は金,銀,銅など金属製のもの,べっこう製,象牙製,木製,ガラス製などがある。江戸後期になると,髪形によって挿す位置が定まってくる。髷(まげ)を中心にして前挿し,後挿しといい,玉簪は丸髷の場合は後挿し,銀杏(いちよう)返しの場合は前挿しというように使われていた。平打ち簪は後挿し以外にはほとんど用いられていなかった。
→髪飾
執筆者:橋本 澄子
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… 朝服に用いられた冠は,平安朝になるとその形がしだいに整備され,額(ひたい),巾子(こじ),纓というように独立した形をとり,平安時代末の鳥羽天皇ころからはその地質も固くなり,ついにこんにち見られるような冠が成立した。すなわち額,縁(へり),巾子,簪(かんざし),上緒(あげお),纓,緌,懸緒(かけお)などからなっている。(1)額 冠の頂にあたる部分。…
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