企業などが不特定多数の顧客らとの契約に用いるため、あらかじめ定式化した契約条項。個別に契約内容を詰める手間を省き、画一的な事務処理による取引の迅速化や費用軽減の目的がある。インターネット通販や銀行、保険、運送などさまざまな分野で用いられる。例えば運送業では/(1)/荷物をなくした際、顧客に支払う損害賠償額/(2)/天変地異で荷物が破損した場合の対応―などが定められている。
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大量の契約を画一的・定型的に締結し,処理することを目的として企業があらかじめ定めておく契約条項のことで,普通取引約款,普通契約条款などともよばれる。約款は,保険や運送など営業の性質上多数の顧客との定型的取引を前提として成り立つ取引分野において発生したものであり,その例としては(普通)保険約款や船荷証券に印刷された運送約款などを挙げることができる。当初は企業間取引において使用されていたものであるが,約款を使用した契約処理がもたらす企業経営合理化上の利点が上記のような取引分野にかぎらず認められるため,今日では約款を使用する取引分野が飛躍的に増加し,しかも企業間取引のみでなく,消費者を相手方とする取引分野でも約款が広く使用されるに至っている。
このような約款の本質については,企業により一方的に作成された契約条項たる約款に顧客がなにゆえに拘束されるかという法律問題と結びつけて盛んに議論されてきたが,今日では約款が存在すれば当然に顧客を拘束するという意味での法規範性を有するものではなく,約款それ自体は法律上とくに意味をもたず,基本的には,個々の顧客は約款を契約の内容とすることに合意してはじめて拘束されるに至るという考え方が支配的になっている。もっとも,顧客は約款の個々の条項について個別に了解することまでは要求されるものではなく,さらに保険,運送,銀行など約款の使用が普遍的である取引分野では約款によるという商慣習が存在し,顧客がとくに異議をとどめないで契約すれば約款に拘束されると考えられているし,また大企業と消費者の間の契約に典型的にみられるように,顧客の側は企業の作成した約款を全体として受け入れたうえでその企業と契約を結ぶか否かの選択しかできないのが通例であるから,顧客の合意といっても形式的・擬制的なものにすぎないことは否定できない(この傾向に着目して,約款を使用した契約は,付合契約ともよばれる)。
このように,顧客側は約款に従わざるをえないことが通例である反面で,伝統的には契約自由の原則(私的自治の原則)に支えられて,免責約款(債務者が原則的には負担しなければならない責任を,とくに免除したり軽減する約款)に典型的なように,企業は顧客側に不利益な内容の契約条項を約款の中に盛り込むことが多く,ここから顧客,とくに消費者のために約款の妥当性を確保するための規制の必要性が盛んに叫ばれている。現在では,一定の不当な約款条項を法律により禁止する立法的規制(国際海上物品運送法など),約款の作成・変更について監督官庁の認可をうけることを要求するなどの行政的規制(保険業法,道路運送法など)のほか,約款を使用した契約をめぐる訴訟で,裁判所が公序良俗(民法90条)違反などの理由によって約款中の条項の効力を否定する司法的規制もときにより行われている。
執筆者:山下 友信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
保険、運送、銀行取引など多数の顧客ないし取引先と同一内容の契約を締結するに際し用いられる定型化された契約条項を普通契約約款という。通常、約款というときは普通契約約款をさすが、用語としては普通契約約款の各条項をさしたり、単に契約の条項の意味に用いたりすることもある(以下の説明では約款は普通契約約款の意味に用いる)。約款に基づいて締結される契約を付合(付従)契約という。
約款による契約は同内容の契約を大量に迅速かつ簡易に処理するのには便利であるが、他面、約款は契約の一方当事者たる企業などにより一方的に作成され、契約の相手方たる客にとっては、約款に定められた契約内容について個別的に交渉する余地はない。契約を締結しようとするときは約款による契約だけが可能であり、約款の条項を読んで理解したうえで契約することも少ない。このために契約の相手方にとっては予期しないような不利益を受けることがある。ことに免責条項や責任制限約款、解約条項や違約金条項などがそうである。そこで約款の内容に対する規制が必要となる。内容的にあまりに不合理な契約や約款の条項は公序良俗違反、信義則違反などとして無効としうるが、裁判所による規制は事後的なものである。そこで約款に対する行政庁の監督、法による契約内容の規制、標準約款の作成などによる約款に対するコントロールも多く行われている。
電気・ガスの供給規程、保険約款、運送約款などについては各業法ないし事業法により行政庁の認可事項としている。法による契約内容の規制も多く、割賦販売法、特定商取引法、宅地建物取引業法によるクーリング・オフ、契約内容を明らかにする書面の交付義務などはその一例である。標準約款はそれ自体約款ではなく、各業界あるいは行政庁が作成し、各事業者に示す約款のモデルである。行政指導として事実上の監督の機能を果たし、また業界の自主規制として働く。旅行、宿泊、宅配便等、生活面できわめて広範な領域で多様な約款による契約が行われるようになってきた今日、標準約款が約款の内容規制に果たす役割は大きい。約款による契約が付合契約といわれるように、たとえば乗車券を購入して電車に乗れば当然に運送約款による契約となる。約款によるとの合意があるといえない面があるので、約款の法的拘束力をどのように説明するかについて契約、慣習、自治法規などが説かれている。
[伊藤高義]
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