第2次大戦後の労働協約において,使用者に固有の権利・権限の行使を,労働組合の団結力によって抑止しようとする協議約款が普及するにつれて,この概念は登場してきた。労働者側には労働権があるのに対応して,使用者側には労働組合の拘束を受けずに独自に行使できる経営権がある,という主張が使用者側によってなされた。経営権の内容として主張されたおもな事項(専権事項)として,経営上の諸施策(企業の分合,生産計画等),人事権の行使(採用,異動,解雇等),企業施設の管理(労働組合の生産管理の排除等),団体交渉権の範囲の制限(生産計画,人事などは団体交渉事項とはなりえないなどの主張),などがみられる。しかし,現行実定法上はもとより,現在の判例・学説によっても,経営権は法律上の権利概念としては承認されていない。それは,いわば社会的経済的概念にとどまる。経営権は,法的には,使用者の所有権と労使の契約をめぐる法的諸機能に包含される。具体的には,使用者の所有権に基づく物的支配権(施設管理権),営業の自由,労働契約に基づく人事権(指揮命令権)などに分解して把握すべきものである。また,団体交渉の範囲を法律上一般的に限界づける法規定は存在せず,上記諸権利が使用者に認められる場合でも,その権利行使が〈労働関係に関連し,労働者の経済・生活条件の維持向上に関連する〉ときには団体交渉の対象とされ,使用者は交渉に応じなければならない。経営方針に関する協議約款も,経営権侵害であるがゆえに無効であるとはいえない。
執筆者:中嶋 士元也
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法律上、経営権という独立した権利は存在しない。第二次世界大戦後、労働組合が経営に介入を要求したとき、使用者側が労働者側の労働権に対照させて使い始めた用語で、その内容は、労働者側が団体交渉や争議行為によっても関与しえない経営の専権的決定領域といえる。経営学上では、経営権は経営者の対内的・対外的権限である。対内的経営権とは、経営内部の従業員を機能的に指揮、統率しうる権限であり、その典型は人事権である。対外的経営権とは、経営と相互作用する株主、労働組合、金融機関、政府、顧客、地域社会などの環境主体に対し、自己の経営の利害と自主性を主張し、経営の維持、発展を図る権限である。権限一般がそうであるように、権限の反面には責任が付随する。対外的経営権の責任は、社会的責任であり、経営権、とくに対外的経営権は、経営の社会性、公共性、公益性と不可分のものとなる。
[森本三男]
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