家庭医学館 「腎下垂/遊走腎」の解説
じんかすいゆうそうじん【腎下垂/遊走腎 Nephroptosis / Movable Kidney】
腎臓(じんぞう)は、呼吸の動きに合わせて上下に移動します。
腎臓が、立ったときに、こうした自然な生理的な呼吸性の動きをこえて下がる状態を、腎下垂または遊走腎といいます。
健康な人でも、立つと、寝ているときよりも4~5cm腎臓が下がりますが、腎下垂では10cmくらい下がってしまいます。
腎臓のまわりにあって、これを支えている脂肪組織の発育が悪かったり、腎臓への血管が異常に長かったりするとおこります。
やせた女性に多くみられ、右の腎臓だけにみられることが多く、ほかの内臓下垂(胃腸など)をともなうことも少なくありません。
[症状]
無症状のこともありますが、長い時間、立っていたりすると、腎臓から下にのびている尿管が屈曲し、尿が流れなくなって、わき腹の鈍痛や腰痛(ようつう)がおこります。
また、腎血管がねじれるために、自律神経(じりつしんけい)系の消化器症状(むかつき、嘔吐(おうと)、食欲不振など)を訴えたり、血尿(けつにょう)、たんぱく尿、高血圧をともなうこともあります。
しかし、腎臓の機能が悪くなることは、ほとんどありません。
[検査と診断]
寝た姿勢と、立った姿勢で、わき腹を触れ、腎臓の位置を確かめることによって、診断がつきます。
立った姿勢で、造影剤を静脈に注射して腎盂(じんう)などをX線撮影(静脈性腎盂造影(じょうみゃくせいじんうぞうえい))すると、腎臓の下垂がはっきりみられ、診断は確実になります。
[治療]
長い間立っていて腰がだるくなってきたら、まず横になることです。やせている人は、体重が増えるような食事療法や、筋力をつける運動をするとよいでしょう。
また、症状が強い場合には、腎臓が下がらないように腹帯を巻きます。横になり、腎臓が正常の位置にあるときに、下腹部のほうから上腹部にかけて巻き上げます。
血尿、たんぱく尿などの症状が強い場合は、手術で腎臓を固定させることも行なわれます。
しかし、固定しても、ほかの臓器の下垂は残るので、完全に自覚症状が改善するとはかぎりません。また、再発することもあり、最近では、固定術は、あまり行なわれていません。