翻訳|nephritis
腎臓に起こった炎症性病変をさし,腎臓炎ともいう。1827年ブライトRichard Bright(1789-1858)は,タンパク尿と浮腫を腎臓の組織異常と関連づけて,ブライト病を記載し,泌尿器科的疾患とは異なった腎臓疾患があることを明らかにした。以降,ブライト病についての病理学的研究が進められ,79年には糸球体腎炎が,1905年にはネフローゼが記載された。そこで,14年フォルハルトF.Volhardらは,これらの疾患を整理・分類して,ブライト病を,尿細管の上皮の変性を主体としたネフローゼnephrose,糸球体の炎症性病変を主体とした腎炎,腎臓の動脈硬化を主体とする腎硬化scleroseの3型に分けた。これが現在の腎臓病学の基礎となったが,その後の研究によってフォルハルトらの分類には矛盾や欠陥があることが明らかになり,さらに各種の分類が試みられている。現在,単に腎炎というときには急性または慢性の糸球体腎炎glomerulonephritisをさすが,とくに慢性糸球体腎炎についての分類は,いまだ十分確立されたものではなく,今後病因が明らかにされるにつれて再編成されることも考えられている。
単に急性腎炎ともいう。両側の腎臓の糸球体に起こる急性の非化膿性の炎症性病変で,溶連菌感染後に起こるものとそれ以外のものに大別される。溶連菌以外のものとしては,ブドウ球菌,肺炎双球菌,各種のウイルスなどの感染があるが,溶連菌によるものの場合が急性糸球体腎炎の多数を占める。病気の発生には免疫反応が関与しており,各種の感染によってつくられた抗原抗体複合体が糸球体に沈着して,炎症が起こると考えられている。
(1)症状 主として咽頭炎,扁桃炎などの上気道感染症,猩紅(しようこう)熱,中耳炎など,先行する感染から1~4週間後に,浮腫,血尿,タンパク尿,高血圧,体重増加,乏尿などの症状を伴って発症する。あらゆる年齢にみられるが,8~14歳の学齢期の児童に最も多くみられ,以降年齢が高くなるにしたがって減少する。性別では男に多く,季節的には冬に多発する傾向がある。血尿はコーヒー様のものから,顕微鏡で見なければわからないものまであり,またタンパク尿も高度のものから,比較的早く消失するものまである。成人や老人などでは,このような尿症状以外ほとんど無症状のこともある。浮腫は一般にそれほど高度ではなく,また高血圧や乏尿も一過性のことが多い。
(2)診断と治療 診断は症状と,腎機能検査(糸球体ろ過量の低下),血液検査(好酸球増加,赤沈の促進),血清学的検査(血清ASLO価上昇,補体価の低下),眼底検査などの検査結果によるが,典型的な症状がそろえば比較的容易である。しかし,成人や老人など典型的な症状がないときには,慢性腎炎の急性の悪化,急速進行性糸球体腎炎など類似の症状を示す他の疾患と区別しにくい。
治療としては,安静(とくに発症後1~2週間),食事療法(食塩とタンパク質の制限など),感染巣の再燃を防ぐための抗生物質の投与などを中心とした薬物療法が行われるが,これらはすべて対症療法であり,特別の治療法はない。治癒率は児童では90%以上,成人では60~75%とされ,多くの場合,比較的短期間に治癒するが,6ヵ月以上過ぎてもタンパク尿や血尿が残って慢性腎炎に移行したり,まれに心不全,急性腎不全などによって急性期に死亡することもある。
なお,急性糸球体腎炎には,上記の溶連菌感染症あるいはそれ以外の感染症によるもののほか,種々の原因によって急激に発症し,数週間から数ヵ月で重症の腎不全に陥る急速進行性糸球体腎炎rapidly progressive glomerulonephritis(RPGN)などが含まれる。
慢性腎炎ともいわれ,糸球体腎炎のうち,急性糸球体腎炎を除き,慢性に経過するものの総称である。急性糸球体腎炎が慢性化したものをはじめ,さまざまの原因によるものが含まれると考えられており,今後,原因が明らかにされるにつれて,さらに再分類されると考えられている。一般に症状は慢性化した尿症状(タンパク尿,顕微鏡的血尿など)が中心であり,高血圧,動脈硬化,ネフローゼ症候群による症状など,病型により種々の症状を示す。尿症状以外に自覚症状のない場合を無症候性タンパク尿というが,一方で,腎排出機能の低下による腎不全の進行,腎硬化性腎炎などによって,予後不良となるものもある。治療は,病気を悪化させる腎外性進行因子の排除と食事療法による。
→腎不全
執筆者:菊池 祥之
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腎臓の炎症のことで、おもに腎臓の実質である糸球体が細菌感染によって侵され、腎機能が障害される。現在では糸球体腎炎と同義に使われる場合が多い。主として溶連菌が体内のどこかに感染し、その毒素に対するアレルギー現象として発症する。浮腫(ふしゅ)、血圧上昇、血尿、タンパク尿がみられ、急性と慢性に大別される。
なお、間質性腎炎は腎実質の炎症である糸球体腎炎に対してよばれたもので、種々の病因によっておこる腎間質を中心とした非特異的反応状態をいい、急性と慢性がある。
[加藤暎一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…すなわち身体のどこかに限局した慢性の炎症性病巣(これを原病巣focusという。たとえば慢性扁桃炎など)があり,それ自体はほとんど無症状か,もしくはときに軽い症状を呈するといった程度にすぎないのに,病巣から離れた各種臓器(たとえば腎臓)に障害,すなわち二次的疾患(たとえば腎炎)を起こすことをいう。 原病巣として最もよく知られているのが扁桃,次いで歯牙関係疾患であり,それぞれ60%,30%を占めるという。…
※「腎炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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