翻訳|pancreatitis
膵臓に炎症を伴う疾患。膵臓炎ということもある。1963年,マルセイユにおいて膵炎シンポジウムが開催され,膵炎は,(1)急性膵炎,(2)再発性急性膵炎,(3)慢性再発性膵炎,(4)慢性膵炎に分類するとの統一見解が出された。急性膵炎(上記(1)(2))が膵臓の一過性の急性反応と定義されるのに対し,慢性膵炎((3)(4))は炎症を起こす原因や因子をとり除いても,膵臓の形態的,機能的な障害が不可逆的であったり,あるいは進行するものとみなされている。しかし臨床上では慢性再発性膵炎が急に悪化したときも急性膵炎と同等に扱われることが多い。その後,日本において膵炎診断基準の改定が行われ,1995年に日本膵臓学会より新たに診断基準が作成され,診断根拠が明確になった。
急激に発病し,上腹部の激痛,悪心・嘔吐などを伴う。比較的軽症で終わるものから,頻脈,顔面蒼白,冷汗,血圧下降などのショック症状を呈し肝臓や腎臓の障害を続発して,ついには死亡する重症例もある。病理学的には浮腫性膵炎,出血性膵炎,壊死性膵炎にわけられるが,浮腫性膵炎は軽症であり,壊死性膵炎は重症型に属し死亡率が高い。原因は胆石やアルコールによるもののほか,副甲状腺機能亢進症,家族性高脂血症に伴う膵炎や,術後膵炎,薬物性膵炎(降圧・利尿剤,抗腫瘍剤,抗生物質,ホルモン剤)などが知られている。また特発性膵炎といわれる原因不明のものもあり,胆石やアルコールによる膵炎とともに急性膵炎の大多数を占めている。急性膵炎は,このような膵臓に障害を与える原因によって膵臓の防御機構が打ちやぶられ,膵臓の実質細胞から膵臓酵素(トリプシン,エラスターゼ,ホスホリパーゼA2やリパーゼなど)の活性化がおこり,間質浮腫を生じ,さらには自己消化によって膵出血,膵壊死へと進展していくと考えられている。したがって膵臓に負担を与えるような検査法は急性膵炎では禁忌とされる。このため,診断は血清,尿アミラーゼ,白血球増加や画像診断などが参考とされる。急性膵炎重症度判定基準が厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班より出されており,これに従って適切な処置が望まれる。治療法としては,膵臓の安静をはかることが原則であり,発症初期には絶飲食として膵臓の外分泌を抑えるとともにゾンデによる胃液吸引もなされる。また,ソマトスタチン(サンドスタチン)も使用される。併せて,腹痛の対策,ショックの治療,抗酵素療法,二次感染の予防といった内科的治療が行われる。重要なことは,同じような症状を呈し外科的治療を至急に要する穿孔(せんこう)性腹膜炎やイレウス(腸閉塞)といった急性腹症との鑑別であるが,US,CTなどの画像診断が有用である。
腹痛が最も重要な症状であり,心窩部(しんかぶ)(みぞおち)から背部へ放散する持続的な疼痛が特徴的である。そのほかに,糖尿病や消化吸収障害による便通異常などもみられるが,日本では欧米などでみられるような脂肪便をきたすほどの例は少ない。原因としては飲酒が最も重視されており,エタノールとして毎日120ml以上,日本酒に換算して連日3~4合以上を10年以上飲みつづけると,他臓器の障害とともに膵臓に不可逆性の障害を生じる危険性があると考えられている。ただ,大酒家のすべてがアルコール性慢性膵炎となるわけではなく,その発生には先天的要素も少なからず関与しているものと思われる。アルコール以外の病因としては,胆石症をはじめとした急性膵炎のそれと同様のものが知られているが,急性膵炎自体も日本では慢性膵炎の病因中の20%前後を占めるものとみなされている。慢性膵炎の診断基準(案)としては,(1)USにおいて,音響陰影を伴う膵内の高エコー像(膵石エコー)が描出される,(2)CTにおいて,膵内の石灰化が描出される,(3)内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)において,膵に不均等に分布する,不均一な分枝膵管の不規則な拡張,または,主膵管が膵石・非陽性膵石・タンパク栓などで閉塞または狭窄しているときは,乳頭側の主膵管あるいは分枝膵管の不規則な拡張を認める,(4)セクレチン試験において,重炭酸塩濃度の低下に加えて,膵酵素分泌量と膵液量の両者あるいはいずれか一方の減少が存在する,(5)生検膵組織,切除膵組織などにおいて,膵実質の減少,線維化が全体に散在する,などである。急に悪化したときの治療は急性膵炎に準ずる。慢性膵炎は不可逆的な疾患であるといわれるが,臨床的には軽快する場合もあり総合的な内科的治療が大切である。生活面では食事療法とともに過労を避けるなどの注意が必要である。ただし厳重すぎていたずらに社会復帰を遅らすことも問題がある。
執筆者:中沢 三郎+梶川 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
膵臓の炎症性病変で、膵臓炎ともいい、急性膵炎と慢性膵炎に分けられる。慢性膵炎は、別項目(慢性膵炎)で解説してあるので、ここでは急性膵炎について述べる。
[中山和道]
膵臓の急性の炎症で、ほかの隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼしうる。膵液中には強烈な消化酵素が豊富に含まれており、何らかの理由で消化酵素が膵臓内で活性化すると膵臓自身が溶けてしまい、消化酵素が血中に逸脱し全身に散布される。このように、膵臓の自己消化を契機に発症する急性の炎症である。軽度の腹痛を訴えるだけの軽症から、短時間で多臓器不全に陥る重症まである。成因でもっとも多いのはアルコール多飲で、特発性(原因不明)、胆石症がこれに次ぐ。逆行性膵管造影検査、膵損傷、薬物性などにもみられる。
症状としては、大多数は突然発症し、上腹部痛を伴い背中に放散する。腹痛は持続性で背中を丸めてエビ型姿勢をとるといくらか軽快する。悪心(おしん)、嘔吐(おうと)がみられ、腹部膨満感もしばしば出現する。圧痛は、初期は軽度で、病変が進行すると抵抗、反跳痛がみられるようになる。発熱をきたすが、38℃を超えることは少なく、高熱を呈するときは胆道感染症を疑う。重症になってくると、腸閉塞症状、さらに血圧下降、頻脈、冷汗などのショック症状を呈してくる。血性滲出(しんしゅつ)液が皮下組織に移動すると、へその周囲(カレン徴候)や側腹部に皮膚溢血(いっけつ)班(グレイ・ターナー徴候)をみることがある。
検査成績では、血清アミラーゼは発症後1~2日で最高値に達し、遅れて尿アミラーゼの高値が持続する。白血球増加を伴う。胆石性急性膵炎では、しばしば閉塞性黄疸(おうだん)をきたし、それ以外の急性膵炎でも炎症が胆道におよぶため軽度の黄疸を呈することがある。重症例では低カルシウム血症や血液濃縮を示し、腎障害を合併するため、血清中尿窒素や尿中クレアチニンの上昇をみることがある。X(エックス)線検査では局所的な腸閉塞による腸管ガス像が出現する。超音波検査は、最初に行われるべき検査の一つでありCT(computed tomography)は消化管ガスや腹壁・腹腔内の脂肪組織の影響を受けることなく、客観的な局所画像を描出することが可能である。膵腫大、膵周囲の炎症性変化、液体貯留、膵実質densityの不均一化などがみられる。
治療としては、膵臓の局所の病変でありながら、比較的早期に全身の重要臓器に多彩な障害を伴うことから全身管理に注意しながら保存的療法を行う。出血性や壊死性の重症膵炎では、ショックや腎不全が出現しやすく死亡率は高い。絶食させて炎症に伴う循環血漿(けっしょう)量の低下を補うために十分な補液を行う。鎮痛薬は持続的な激しい疼痛(とうつう)のコントロールに重要であり、重症例には膵移行性の高い広域スペクトラムの抗菌薬の予防投与が必要である。また、タンパク分解酵素阻害薬の投与も行われている。膵膿瘍に対しては経皮的または外科的ドレナージ術が、感染性膵壊死には開腹による膵壊死部摘出術が行われる。重症例は高次医療施設への搬送が望まれる。
[中山和道]
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出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…このようなわけで,膵臓はあまり注目されなかった臓器であり,外国の教科書にもsilent organ(沈黙の臓器)と書かれており,平素は,その存在が気づかれずにいる臓器である。しかし近年,膵臓の病気が注目されてきているが,これは,診断法の進歩によりそれと診断される例が多くなり,また実際に,急性膵炎,慢性膵炎,膵癌など膵臓の病気が増加しているからである。
[位置と形]
ヒトの膵臓は腹部の深部に位置し,第1,2腰椎の前,胃の後方にあり,腹部の血管系と密接にかかわりあっている腹膜後臓器である。…
※「膵炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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