臨床試験(読み)リンショウシケン

百科事典マイペディア 「臨床試験」の意味・わかりやすい解説

臨床試験【りんしょうしけん】

新薬を開発するうえで,人間で有効性と安全性を調べる試験のこと。このうち,厚生省認可を得るために行う臨床試験のことを特に〈治験〉という。新薬ができるまでには,基礎研究→動物実験→臨床試験→厚生省・中央薬事審議会の承認審査→市販後調査という段階をたどり,臨床試験には,第I相(フェーズI)〜第III相(フェーズIII)の3段階がある。 第I相は少人数の健康な志願者(主に男性)を対象に,少しずつ被験薬(新薬の候補として臨床試験で使う薬)の量を増やし,安全性や体内で吸収・排出される時間などを調べる。第II相は被験薬の効果が期待できる患者を対象として,治療効果や副作用の程度などを調べる。第III相はより多くの患者に行い,効果の範囲や標準的な使い方を確定する。この場合,現在使っている薬(対照薬)と被験薬のグループに患者を分けて,効果を比較することが多い。対照薬がなければ有効成分のないプラセボ(偽薬,プラシーボともいう)と比較することもある。 こうしたグループ分けは無作為抽出で行い,患者が服用する薬の種類は,患者・医師ともにわからないようにすることが多い。これは,先入観をなくして客観的に薬効を調べるためで,患者・医師ともに治療で使っている薬をふせておくことから,二重盲検という。プラセボを服用した患者でも,それとは知らず本物の薬と信じて服用することで,ある程度の治療効果が出ることがある。これをプラセボ効果という。 治験は厚生省の定めた〈医薬品の臨床試験の実施の規準〉(GCP=Good Clinical Practices)にしたがって行われる。相次ぐ薬害などの反省から,1997年4月の薬事法改正にともない,GCPの内容も厳しくなった。たとえば,それまでは被験者の参加承認は口頭でよかったが,現在ではインフォームド・コンセントによる文書承諾を得なければならない。また,治験担当医の部下や製薬会社の社員らは,組織のしがらみで被験者になることを強要される可能性もあることから,これを防ぐため治験に参加できなくなった。 1つの新薬が市場に出るまでには,およそ15年の年月と150億円もの費用がかかるため,ほとんどの臨床試験は,それだけの研究開発力と資金力のある欧米や日本で行われている。現在は各国の規準によって,個別に実施されているが,今後は国際標準化機構(ICO)で臨床試験の規準を統一化して,研究成果を共有していく動きもある。1998年11月,厚生省はエイズ治療薬について外国での臨床試験データだけでも申請の受付け,承認を行う方針を発表した。→治験薬
→関連項目代替療法バイオエシックス

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「臨床試験」の意味・わかりやすい解説

臨床試験
りんしょうしけん
clinical trial

新しい薬剤や診断法、予防法、治療法などの有効性や安全性を科学的な方法で評価するための試験。「臨床研究(臨床現場でヒトを対象に行われるすべての研究)」の一つに位置づけられる。なお、臨床試験のうち、厚生労働省から薬剤や医療機器として承認を得ることを目的として行われるものは「治験」という。臨床試験は大きく「治験」と「医師(研究者)主導臨床試験」に分けられ、後者は医師(研究者)が主体となって行うもので、すでに承認されている薬を組み合わせたり、複数の治療方法を組み合わせたりして、より適切な治療法や診断法をみいだすことなどを目的に行われる。

[渡邊清高 2017年11月17日]

臨床試験の段階

臨床試験は大きく三つの段階(第Ⅰ~Ⅲ相)に分けられる。第Ⅰ相では安全性の確認や投与方法の決定、第Ⅱ相では有効性と安全性の確認、第Ⅲ相では従来の治療法(標準治療)と比較した有効性と安全性の総合評価を行う(市販後調査などの臨床試験を第Ⅳ相という場合もある)。段階を追うごとに、より多くの被検者(患者)が試験に参加する。

 臨床試験の結果、その効果と安全性が確認された治療法は新たに治療に取り入れられるようになり、また得られたデータは同じ病気の新しい治療法の開発に役だてられている。

[渡邊清高 2017年11月17日]

臨床試験への参加

患者が臨床試験に参加することは、新しい治療を受けられる可能性がある一方で、期待したほどの効果が得られなかったり、副作用が強く現れたりする場合もある。新しい治療は評価がまだ定まっていないため、参加を希望する際には、専門家から十分な説明を受け、十分納得したうえで同意し、参加する必要がある。

 臨床試験の専門家として、医師のほか臨床研究コーディネーター(治験コーディネーター)とよばれる専門の医療従事者が、研究全体のコーディネートを担っている。臨床研究コーディネーターは、臨床研究が円滑に行われるように、研究の全体像を把握し、被検者(患者)と医師や製薬企業との連絡・調整業務や、被検者の心身両面のサポートなどを担う存在であり、臨床経験の豊富な看護師や薬剤師がその役割を務めていることが多い。

 患者の臨床試験への参加は、こうした専門家からの十分な説明やサポートのもとに、患者自身の自由意思に基づいて決定されるものであり、同意した後であっても、治療が始まってからでも、参加を取りやめることができる。

 現在日本国内で行われている臨床試験の情報は、国立保健医療科学院が運営するウェブサイト「臨床研究情報ポータルサイト」などで検索することができる。

[渡邊清高 2017年11月17日]

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世界大百科事典(旧版)内の臨床試験の言及

【医薬品】より

… このほか特殊毒性検査に,発癌性試験(慢性毒性試験などで発癌性の疑われるものでは,ラットやマウスを用いて2年間または全生涯の連続投与試験),薬物依存性試験がある。(5)臨床試験 上記の特殊毒性試験までを非臨床試験という。ここまでの試験で〈作用性〉と〈毒性〉に関して科学的評価に耐えられる結果を得てパスした〈薬の候補者〉は,次にヒトつまり患者に対して〈疾病の治療に有効であるか〉〈安全であるか〉がテストされる。…

※「臨床試験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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