補償(読み)ほしょう

精選版 日本国語大辞典 「補償」の意味・読み・例文・類語

ほ‐しょう ‥シャウ【補償】

〘名〙
① 補いつぐなうこと。つぐなって埋め合わせること。償補
西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉五「他時勉強して補償(〈注〉ツグナヒ)し」
② 国や公共団体などが適法な行為によって特定の人に財産上の損害を与えた場合に、その損害をつぐなうこと。
※日本国憲法(1946)二九条「私用財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」
損害賠償として、財産上の損失を金銭で填補すること。
心理学で、欲求不満に陥ったとき、他の行動をすることによって、その不満を補うこと。代償。

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デジタル大辞泉 「補償」の意味・読み・例文・類語

ほ‐しょう〔‐シヤウ〕【補償】

[名](スル)
損失を補って、つぐなうこと。特に、損害賠償として、財産や健康上の損失を金銭でつぐなうこと。「労働災害補償する」「公害補償裁判」「補償金」
心理学で、身体的・精神的な原因によって劣等感をもつとき、それを補おうとする心の働き。アドラー用語。→防衛機制
[類語]賠償弁償代償報償償う損料見返り

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改訂新版 世界大百科事典 「補償」の意味・わかりやすい解説

補償 (ほしょう)

人に損害が生じたとき,だれかが金銭でその損害を埋め合わせることを広く補償と称しており,不法行為による損害賠償を含めていう場合もあるが,多くは除外して補償と呼ぶ。その場合にもいろいろの用法がある。まず,天災その他の偶発事故によって財産上の損害をこうむるとき,国などから支払われる災害補償がある。さらにそのなかには,タバコ栽培などで損害を受けた者に支払われることになっていた,旧〈たばこ専売法〉24条に基づく農業災害補償(なお,現行のたばこ事業法(1984)6条,および附則5条参照)もあれば,労働者や公務員が業務上の原因で傷害,疾病,死亡といった事態におちいった場合に支払われる療養のための費用や遺族に対する扶助料も含まれる。さらに,災害救助のために支出した費用をあとで償う場合にも補償という言葉を用いることもあるが,これは,職務上浪費させた費用を償う〈弁償〉とも類似しているので,これを広く弁償という概念に入れる人もいる。しかし,補償をもっとも一般的に用いるのは,財産権を公共のために用いる(公用負担)とき支払われる損失補償をさす場合である。かかる場合には,憲法29条3項に基づいて正当な補償が支払われなければならぬ。さらに抑留または拘禁をうけたものが無罪になったとき支払われる刑事補償も補償のなかに含められる。

 このようにいろいろの種類の補償があるが,その根拠は,ある特定の人だけが,自分の責任ではないのに損害を受け,それを自分の負担で埋め合わせることになると,私有財産制を敷いている社会では人々の生存が危うくなる場合も生じうるので,その負担を社会に分散させようとするところに由来するといわれている。しかし,補償金を支える基金にも限度があるので,個々の法令でその補償の支給条件を規定しているのが通例である。
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補償 (ほしょう)
compensation

人間の適応のための心的機制の一つ。もともとA.アードラーによって特に重視された概念である。アードラーは人間がすべて劣等感コンプレクスをもっていると考えるが,それを克服する上で,補償の心理機制が働くと主張した。その際,劣等な部分そのものを克服する型と,劣等な部分をそれと対照的な価値を実現することによって克服する型とがある。たとえば,病弱を克服してスポーツマンとなるのが前者であり,病弱を学問に専念することによって補償するのは後者の型である。いずれも,過補償という危険が存在している。一方ユングは,人間の無意識が意識の一面性をつねに補償する傾向をもつことに注目した。たとえば,意識の態度が外(内)向的な人は,無意識的には内(外)向的であるという。このような意識と無意識の補償作用によって,人間の心は全体的な調和と均衡を保っていると,ユングは考えている。
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普及版 字通 「補償」の読み・字形・画数・意味

【補償】ほしよう

損失を補塡する。

字通「補」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「補償」の意味・わかりやすい解説

補償
ほしょう

補償作用」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の補償の言及

【計測】より

… またセンサーの特性が測定量以外の,例えば周囲温度の影響を受けるとき,その影響を打ち消した測定値を得るのにも何回かの,あるいは何種類かの測定を行う必要がある。この周囲温度のように測定量以外の,影響を受けたくない物理量の影響を消すことを補償compensationという。周囲温度の影響を打ち消すときは温度補償という。…

※「補償」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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