国会議員が立案・提出して成立した法律。国会法では、衆参両院の委員長か、衆院では原則20人以上、参院では同10人以上の賛成を得た場合に議員が法案を提出できる。「動物愛護法」や「ドメスティックバイオレンス(DV)防止法」のように、政府が扱わなかった社会課題の解決を目指す内容が多い。関係団体からの要望を受け、超党派で法案を提出する例も珍しくない。
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議員の発議(発案ともいう)による立法。近代立憲主義においては、権力分立制のもとに議会が立法権を有するのが原則であるが、法律が制定改廃されるためには、法律案の発議、審議、議決の段階を経なければならない。発議権については、
(1)政府(内閣)のみに認められる
(2)議員のみに認められる
(3)政府および議員の両者に認められる
という3種の方式がある。君主権力の強い立憲君主制下にあっては(1)の方式も存在したが、現代議会制では(2)または(3)の方式が採用される。このうち議員にのみ発議権を認める(2)の方式は、厳格な権力分立制をとるアメリカのほか数か国が採用しているにすぎず、一般に議院内閣制を採用する諸国では、政府および議員の両者に発議権を認める。わが国では、大日本帝国憲法(明治憲法)下では明文の規定(38条)によって、法律の発議権が政府および両議院に認められていた。現行憲法(日本国憲法)では、発議権に関し明文の規定を欠き、議員のほかに内閣にも認められるか否かで学説が分かれる。これを認める立場は、憲法第72条により内閣に認められる議案提出権は、法律案を含み、また議院内閣制下にあっては国務大臣が議員を兼任することから、内閣の発議権を肯定し、否定説は、発議は立法の一部であり、第41条によって立法権が国会に属することから、明文の規定のない限り内閣の発議権は認められないとする。前者が多数説であり、内閣法第5条もこれを認め、また慣行もこれに従っている。
議員立法は、政府提案の立法と区別する意味で用いられる。実際には、国の重要法案の大部分は政府提出の法案である。議員立法には、国会の委員会が委員長をもって提出者とする法案提出権を有する場合(国会法50条の2)と、法定数の議員により発議する場合とがあり、後者を狭義の議員立法とよぶこともある。議員立法については、国民代表機関としての議会内部における自発的立法形式としてその重要性が認識されるが、一方で、議員が、その選挙区や特定利益団体保護のために発議する弊害もある。そのため、狭義の議員立法については、1955年(昭和30)国会法を改正して、その発議に、衆議院においては議員20名以上、参議院においては10名以上の賛成を必要とし、予算を伴う法律案の場合には、衆議院においては50名以上、参議院においては20名以上の賛成を要する(国会法56条1項)とした。この改正は、構成員に自由な発議権を認めることが合議制機関の原則とする立場から、また少数党の発議が制約される点からも批判がある。
大統領制をとるアメリカでは、大統領に法案提出権がなく、法案のすべてが議員立法である。議院内閣制をとるイギリスでは、議員提出法案が22.0%であり、わが国では14.3%である。議員や政党および議会の立法活動の活性化の面から議員立法に対する期待が高まっている。1990年代では、特定非営利活動促進法(NPO法)、臓器移植法、児童買春処罰法などが、議員立法で制定された。
地方議会においては、地方自治法112条で「議員の議案提出権」が定められ、議員の8分の1以上の発議で法案の提出が可能であるが、90年代の数字をみると、都道府県全体では、平均年28件と低調である。
[山野一美]
議員の発議権に基づく立法。法律の発案権は,(1)内閣にだけ認める,(2)議員にだけ認める,(3)この両者に認める,の類型がありうる。(1)はほとんどなく,(2)もアメリカ合衆国など若干の国に限られ,大多数の国は(3)である。日本の明治憲法では,法律の発案権を明文をもって内閣および両議院に認めた(38条)ため多くの議員立法がみられたが,昭和期に入ると,ほとんどが内閣提案に基づくものとなった。現行憲法は内閣の法律発案権について明文の規定を欠いているが,議院内閣制をとる以上,内閣の発案権は当然に認められるべきものとされ,内閣法にも明示されている。現行憲法の議会中心主義からは,議員立法がより多く活用されることが望まれており,そのため両院法制局,国会図書館の調査立法考査局,常任委員会の専門員,調査員,調査主事などが技術的な援助を与えることとされている。しかし現実には,国政上重要な法案はほとんど内閣の提案によるものとなり,議員立法は副次的な位置にとどまっている。その理由としては,第1に,行政国家化のもとで,行政部の比重が著しく増大し,立法部の地盤沈下が著しいこと,国家機能の拡大によって,政治における専門的知識あるいは専門的技能の重要性が増大し,本来しろうとの集団であることに存在理由をもつ議会は,立法機能の低下を免れざるをえなかった。議員立法の貧困化も,議会の機能低下の一面といえよう。第2に,議員立法自体の弊害があげられる。議員立法には,次回の選挙のため,狭小な地域的利害あるいは特殊な利益団体の便宜を図ろうとするものが少なくない。こうした弊害を是正するために,国会法は,議員が議案を発議するには,衆議院の場合20人以上,参議院の場合10人以上の賛成を要するとしているが(国会法56条),小会派の立法活動を制限することには,強い批判もある。
執筆者:阿部 斉
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(星浩 朝日新聞記者 / 2007年)
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… 日本やイギリスの場合,議院内閣制の下で議会多数党と行政部とが密着しているが,アメリカの場合には三権分立制の下で,議会と行政部とはかなり明確に分離しており,行政部の構成員は議員とはなれない。実質的には政府側が法案を準備することが多いにせよ,いっさいの法案billは議員立法の形をとっており,成立した法律actもタフト=ハートリー法のごとく法案提出議員の名をもって呼ばれることが多い。それだけに議員の権限は広く,法案の実質審議を行う常任委員会,ことにその委員長の権限は強い。…
…
[立法のプロセス]
まず,法律の立法手続であるが,発案→審議→議決→公布というプロセスを経る。発案が議員に認められることはもとよりである(議員立法)が,内閣にも発案権が認められるというのが通説で,かつ慣例であり(憲法72条参照),成立する法律のほとんどが内閣提出法案となっている。そこで審議・議決に国会の立法意思が集中的にあらわれることになるが,国会を構成する衆議院の意思と参議院のそれとの齟齬は,衆議院が優越するように調整される。…
※「議員立法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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