資金決済法(読み)シキンケッサイホウ

デジタル大辞泉 「資金決済法」の意味・読み・例文・類語

しきんけっさい‐ほう〔‐ハフ〕【資金決済法】

《「資金決済に関する法律」の略称》資金決済サービスの拡充や適切な運営を目的として制定された法律。送金などの為替取引は、銀行等の金融機関だけに認められていたが、同法の規定に従い登録を行った資金移動業者にも、少額に限って認める。また、電子マネーなど前払い式の支払い手段に関しても法整備が行われた。平成22年(2010)施行。
[補説]前払式証票法で規制されていた商品券プリペイドカードギフト券などは、この法律では「前払式支払手段」と総称され規制を受ける。金額情報を事業者のサーバー上で管理し、利用者にはIDのみ交付されるものも規制の対象となる。乗車券入場券などは対象外。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「資金決済法」の意味・わかりやすい解説

資金決済法
しきんけっさいほう

資金決済法の制定と基本的内容

2009年(平成21)に制定された法律で、正式名称は「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号)。ICT(情報通信技術)の発達や利用者ニーズの多様化等の資金決済システムをめぐる環境の変化に対応して、(1)前払式支払手段、(2)資金移動業、(3)資金清算業の規律を内容としている。

[福原紀彦 2021年6月21日]

(1)前払式支払手段の規律

資金決済法では、従来の「前払式証票の規制等に関する法律」(通称、プリカ法)の適用対象となっていた紙型、磁気型、IC型の前払式支払手段に加え、サーバー管理型の前払式支払手段が法規制の対象に加えられ、これに伴いプリカ法が廃止された。サーバー管理型の前払式支払手段とは、利用者識別情報だけが記録されているカードで、残高情報がサーバーと接続して管理される方式の、たとえばコーヒーチェーンのスターバックスで利用できる「スターバックスカード」等をさす。

 「前払式支払手段」は、それらに記載・記録される金額に応じた対価を得て発行され、発行者または発行者が指定する者との間での売買や役務提供の代価の弁済に使用できる。乗車券・入場券その他これに準ずるもので、政令で定めたものや、使用期間が6か月以内に限定されるものは含まれない(4条)。

 前払式支払手段には自家型と第三者型とがあり、いわゆる電子マネーは第三者型前払式支払手段である。自家型前払式支払手段は、だれでも発行することができ、基準日(毎年3月31日と9月30日)の未使用残高が1000万円を超えた場合には、財務(支)局長に対する届出が必要となり(5条)、届出を行って以降は、自家型発行者として、資金決済法の適用を受ける(3条6項)。第三者型前払式支払手段は、財務(支)局長の登録を受けた者のみが発行することができ(7条)、登録を受けた者は第三者型発行者として、資金決済法の適用を受ける(3条7項)。前払式支払手段発行者は、基準日未使用残高の2分の1の額以上の資産を供託等によって保全しなければならない(14条)。一定の要件を満たす業者は、その資産保全義務を免れる(35条)。前払式支払手段の払戻しは、例外の場合を除いて、禁止されている(20条)。

[福原紀彦 2021年6月21日]

(2)新たな資金移動業の規律

銀行等の免許を受けずとも、資金決済法による登録をした者は、「資金移動業者」として、1回当り100万円以下であれば、現金の輸送を伴わずに隔地者間で資金移動をする「為替(かわせ)取引」を行うことができるようになった(37条、2条2項)。資金移動業者は、履行保証金の供託義務(43条)、帳簿書類作成保存義務(52条)、報告義務(53条)を負うほか、いわゆる金融ADR裁判外紛争解決手続)への対応が必要とされている。

[福原紀彦 2021年6月21日]

(3)資金清算業の規律

為替取引にかかる債権債務の清算のため、債務の引受け、更改その他の方法により、銀行等の間で生じた為替取引に基づく債務を負担することを業とする「資金清算業」については、免許を要する業務とすることが明らかにされた(2条5項、64条1項)。ただし、日本銀行適用除外とされ、日本銀行金融ネットワークシステム日銀ネット)は適用対象外である。

[福原紀彦 2021年6月21日]

2016年の改正

資金決済法は、制定後も、資金決済サービスの高度化と多様化に対応して、改正が重ねられている。2016年には、銀行を中心とする金融グループの経営形態の多様化やフィンテックFinTechに代表されるICTの急速な発展を背景にして成立した「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)に基づき、資金決済法の一部が改正された。これにより、(1)前払式支払手段や資金移動業についてもICTの進展等を背景としたサービスの拡大に対応した措置(ウェアラブル端末等の電子端末前払式支払手段に対応した利用者への情報提供を可能とするべく、証票等への情報表示義務〈13条〉を撤廃して情報提供義務の規定を整備するなどの改正)が講じられるとともに、(2)仮想通貨について、G7サミット等の国際的な要請も踏まえ、マネー・ロンダリング、テロ資金対策および利用者保護のための法制度が整備された(仮想通貨および仮想通貨交換業の定義と業規制)。

 この改正が行われた時期には、ビットコインなどの仮想通貨利用がグローバルな規模で急激に拡大しており、顧客保護やマネー・ロンダリング対策を図るために仮想通貨を監督する気運が高まっていたことから、改正法には仮想通貨規制が加えられた。この改正に影響を与えたできごととしては、2014年の世界最大のビットコイン交換所を運営するマウントゴックス社の経営破綻(はたん)、2015年6月のG7エルマウ・サミット(ドイツ南部のエルマウ城で開催された主要国首脳会議)での仮想通貨規制の合意、同年の金融活動作業部会(FATF(ファトフ)。マネー・ロンダリングやテロ資金供与への国際的な対策を協議する政府間機関)の仮想通貨交換所の登録・免許制促進等のガイダンス公表、アメリカの金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN(フィンセン):Financial Crimes Enforcement Network)による監督強化指針のリリースなどがある。

 同改正法は、まず、「仮想通貨」を、不特定多数間での物品購入・サービス提供の決済・売買・交換に利用できる「財産的価値」であり、情報処理システムによって移転可能なものと定義する(2条の5)。仮想通貨は、法定通貨ではないが、決済手段の一つと解釈される。次に、「仮想通貨交換業」を定義し(2条の7)、仮想通貨交換業者には、資本要件・財産的基礎等を満たしたうえで、内閣総理大臣への登録を義務づける登録制を導入する(63条の2)。そして、仮想通貨交換業者の業規制が設けられ(63条関係)、仮想通貨交換業者は、利用者に取引内容や手数料等の情報を提供し、システムの安全管理や利用者財産と自己資産の分別管理を行い、定期的にその状況について公認会計士または監査法人の監査を受けることが求められる(63条の11)。また、仮想通貨交換業者に対する監督が定められ(63条)、犯罪収益移転防止法上の義務を負う「特定事業者」に位置づけられるとともに、監督官庁となる金融庁が業務改善命令や停止命令を出せるようになった。2018年1月に大量の仮想通貨を流出させたコインチェック社に対しては、仮想通貨交換業者の登録前であったが、みなし登録業者として業務改善命令が発せられた。

 なお、資金決済法上の仮想通貨交換業者に対しては、マネー・ロンダリング対策に関する「犯罪収益移転防止法」(平成19年法律第22号)と連携した法規制と運用もなされている。

[福原紀彦 2021年6月21日]

2019年の改正

また、2019年(令和1)に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)に基づき、資金決済法の一部が改正された。この改正では、国際的動向を踏まえ、法令上の「仮想通貨」の呼称が「暗号資産」に変更され、暗号資産の流出リスクへの対応等、暗号資産交換業に関する制度が整備された。すなわち、暗号資産交換業者は、顧客の暗号資産を原則として信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理することが義務づけられ、それ以外の方法で管理する場合には、別途、見合いの弁済原資(同種同量の暗号資産)を保持することが義務づけられた。あわせて、金融商品取引法の改正により、暗号資産を用いた証拠金取引やICO(イニシアル・コイン・オファリングinitial coin offering)とよばれる資金調達等の新たな取引に、販売・勧誘の規制が設けられるとともに、暗号資産の不当な価格操作等が禁止されるなど、不公正な行為に関する制度が整備された。

[福原紀彦 2021年6月21日]

2020年の改正

さらに、2020年に成立した「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和2年法律第50号)に基づき、資金決済法の一部が改正された。この改正では、資金移動業者が扱うことができる上限額(現行では1件当り100万円)の設定につき、海外送金を含め上限額を超える利用者ニーズが存在することや、他方で実際の送金額が1件あたり数万円以下のものが多くなっている実態を踏まえて、基本的に現行制度を維持する第二種資金移動業(現行類型)に加え、100万円超の高額送金の取扱いが可能な第一種資金移動業(高額類型)と、少額送金のみを低コストで取り扱うことが可能な第三種資金移動業(少額類型)を創設したうえで、それぞれの類型に機能やリスクに応じて過不足のない規制を適用することとされた。また、資金移動業者の行う利用者資金の保全方法が柔軟化され(供託、保全契約、信託契約のいずれも併用することが認容される)、保全すべき額の算定頻度を見直して利用者保護の観点からタイム・ラグが短縮された。そのほか、収納代行サービスや前払式支払手段も含めて、利用者保護のための措置の整備が図られた。この改正法は、2021年5月1日より施行されている。

[福原紀彦 2021年6月21日]

『高橋康文編著『詳説 資金決済に関する法制』(2010・商事法務)』『高橋康文編著、小林高明・清水啓介・堀天子・三島聖子・森毅著『逐条解説 資金決済法』増補版(2010・金融財政事情研究会)』『佐藤則夫監修『逐条解説 2016年銀行法、資金決済法等改正』(2017・商事法務)』『福原紀彦「Fintechによる電子商取引・決済法の生成と展開」(『中央大学学術シンポジウム研究叢書11』所収・p.249・2017・中央大学出版部)』『堀天子著『実務解説 資金決済法』第4版(2019・商事法務)』『丸橋透・松嶋隆弘編著『資金決済法の理論と実務』(2019・勁草書房)』『増島雅和・堀天子編著『暗号資産の法律』(2020・中央経済社)』『小森卓郎・岡田大・井上俊剛監修『逐条解説 2019年資金決済法等改正』(2020・商事法務)』『岡田大・荒井伴介「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律の概要」(『旬刊商事法務』No.2246号所収・p.4・2020・商事法務研究会)』

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知恵蔵mini 「資金決済法」の解説

資金決済法

前払式支払手段(商品券・プリペイドカード・電子マネーなど)や資金移動業、資金清算業について規定する日本の法律。正式名称「資金決済に関する法律」。情報通信技術の発達や利用者ニーズの多様化などを受け、2010年4月1日に施行された。前払式支払手段としては、従来適用となっていたものに加え、金額情報が事業者のサーバーのみで管理されている「サーバー型の前払式支払手段」が規制対象となった。資金移動業は銀行などの金融機関に限らず、登録を行った資金移動業者も少額に限り認められるようになっている。近年では、ゲーム内で販売されるアイテムが同法における前払式支払手段に該当するか否かの判断基準が曖昧など、問題点も指摘されている。

(2016-4-7)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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