大脳皮質(新皮質)の中で感覚野と運動野のいずれにも属さない領野をいい,高次の精神機能に関係すると考えられている。フレクシヒPaul E.Flechsig(1847-1929)が髄鞘発生の研究から見いだした区分である。髄鞘というのは神経繊維の外側を覆う絶縁性の膜でミエリンタンパク質でできている。脊椎動物の神経系は大部分が髄鞘をもつ有髄繊維から成っている。ところが出生直後の時期には大脳皮質のほんの一部しか髄鞘が形成されておらず,残りの大部分は生後,徐々に有髄化する。フレクシヒは髄鞘発生の時期によって大脳皮質を細かく分け,図のような地図を作った。この図で濃い格子縞の部分は生まれたときに髄鞘形成が完成しているところで,第一次感覚野(視覚野,聴覚野,体性感覚野等)と第一次運動野である。これらの領域は感覚伝導路などを介して末梢の感覚器または筋肉と密接なつながりを保っている。縦縞の部分は生後1~2ヵ月で髄鞘形成が終わるところで周辺帯または中間領域と呼ばれ,白地の部分は生後数ヵ月かけて徐々に髄鞘形成が進む領域で,終末領域または中心領域と呼ばれる。フレクシヒは周辺帯と終末領域の両方を含めて連合中枢と呼んだが,現在では周辺帯の一部は運動前野や視覚前野などと呼ばれ連合野とは区別されている。しかしどこまでを連合野と定義するかは人によって違いがあり,正確な境界線を引くことは困難である。
フレクシヒが連合野と精神機能を結びつけた理由の一つは,連合野が個体発生的に最も遅く発達する領域であるから系統発生的に最も新しい領域であろうという推測であった。実際にいろいろな哺乳類の大脳皮質を比較すると,最も原始的なハリモグラなどの脳の表面は運動野と感覚野だけで占められ,連合野はほとんどないが,霊長類の祖先にあたるツパイの脳では感覚野の間に連合野が現れ,メガネザルではそれがさらに拡大する。そしてアカゲザルなどの真猿類になると前頭前野もかなり発達している。さらに類人猿からヒトになるにつれて連合野はますます拡大して,大脳半球の表面の大部分を占めるようになる。とくにホモサピエンスでは,原始人類に比べて前頭葉の発達が著しい。
連合野はひとつながりの構造ではなく,前頭葉にある前連合野と頭頂葉から側頭葉にかけて広がる後連合野に大きく分かれる。フレクシヒは,後連合野は種々の感覚を統合して知覚や認識を起こす領域,前連合野はさらに高次の人格に関係する精神機能の中枢と考えた。この考えは大筋において現在も通用する。
連合野の機能は初めはおもに人間の脳血管障害などによる破壊症状から推定された。すなわち,いろいろな種類の失語症,失認症(失認),失行症(失行)などが連合野の部分的な破壊で起こる。たとえば,左の頭頂連合野の破壊によって失書症(失書)や失計算症が起こり,まとまった動作ができなくなる観念運動失行も起こる。これに対して身体失認や空間失認は右の頭頂連合野の破壊のほうが顕著である。絵を描いたり積木を組み立てたりすることができない構成失行は両側の頭頂連合野が関係している。側頭葉には上側頭回にウェルニケの感覚性言語中枢がある。また後頭葉から側頭葉にかけての破壊で色彩失認,物体失認,相貌失認(顔が識別できない)などが起こる。これに対して前頭前野の破壊ではなかなか目だった症状が現れないが,自発性の欠如や,紋切型の行動などが現れる。ルリアA.R.Luriaはこれを行動のプログラミングの障害と呼んだ。しかし眼窩(がんか)前頭回を含む広範な破壊があると人格の変化が起こる。
サルの破壊実験では側頭葉(下側頭回)の破壊で視覚失認が起こり,図形識別が悪くなる。頭頂連合野の破壊では視覚的不注意と空間的位置識別の障害などが起こる。前頭前野の破壊では遅延反応(えさの位置をおぼえていて数秒間たってから反応する)や逆転学習の障害などが起こる。
連合野の大部分は刺激してもなにも起こらないが,前頭前野には前頭眼野という領域があって対側へ向かう眼球運動が誘発される。また頭頂連合野と上側頭回にも眼球運動が誘発される場所と手足の複雑な運動を起こす場所がある。ペンフィールドW.H.Penfieldは,ヒトの側頭葉の刺激で人物や風景のイメージが浮かぶという結果から,側頭連合野が記憶に関係が深い解釈皮質であると述べている。
最近,無麻酔のサルの連合野に微小電極を刺入して個々の神経細胞のインパルスを記録する方法で興味ある知見が得られている。側頭葉では顔や手などの複雑なパターンに反応する細胞があり,頭頂葉には空間的な位置や運動を識別する細胞や,身体のいろいろなポーズや動作に反応する細胞などがある。前頭前野には遅延反応の待ち時間に持続的に活動する細胞や,好ましい物と嫌いな物を区別する細胞も記録されている。今後,連合野の研究が進めば,認識,思考,判断,意志決定などのメカニズムがわかってくる可能性もある。
→大脳皮質 →脳
執筆者:酒田 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大脳皮質のうち、運動野や感覚野といった機能のはっきりした部位を除いた部分。連合領ともいう。大脳皮質の他部位のほか、視床や視床下部などともたくさんの神経回路により連絡をもち、高度な神経機能に関係する。動物が高等になるにしたがって連合野が広くなり、ヒトでは大脳皮質の約3分の2を占める。運動野や感覚野と連絡する連合野が、統合による精神機能、言語機能、認識などに関係し、前頭葉の連合野は意欲や創造的な精神作用に関係している。
[新井康允]
ヒトの場合、連合野は精神作用の発現にもっとも重要なところとされ、2種類以上の感覚を総合して、認知や判断などをつかさどる。前頭連合野は運動野より前方にあり、9、10、11野の前頭前野、12、13、14野の(前頭)眼窩(がんか)野に分けられる。これらの部位は感情や行動を現そうとする意欲をつくりだすとされている。頭頂連合野は体性感覚野に隣接し、5、7野がある。これらの部位は主として体性感覚の連合野である。頭頂葉の外側下部の39野の角回、40野の縁上回は、優位半球(言語中枢のある大脳半球)では言語機能と関係がある。側頭連合野には聴覚連合野としての22野がある。この部位は優位半球では感覚性言語野である。下側頭野の20、21野は視覚性の連合野である。後頭連合野は視覚野に隣接して18、19野があるが、ここも視覚性連合野である。
[鳥居鎮夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また,同一機能域内にも上肢域,下肢域,顔面域,特定周波数分析域,特定視野復現域,というふうに皮質内に部位局在が存在し,細分化されている(図3)。このほかに,高次の機能に関連すると考えられる皮質連合野が存在する。 一般に,連合野は前連合野(前頭前野)と後連合野(頭頂連合野,後頭前野,側頭連合野)とに大別される。…
…感覚信号はその多くが視床を介して大脳皮質の1次感覚野に送られ,ここで特徴抽出と呼ばれる情報処理が行われる。抽出された特徴の情報は,次に連合野で総合されて外界の事物に関する知覚の表象を生ずる。快・不快の情動は視床下部において発現する。…
※「連合野」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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