仕事での過重な負担が原因で、くも膜下出血や心筋梗塞といった脳・心臓疾患にかかり死亡すること。脳・心臓疾患での労災認定では、疲労の蓄積要因として労働時間を重視。残業が発症前2~6カ月の平均で月80時間、直近1カ月間で100時間が「過労死ライン」とされ、勤務が不規則など労働時間以外の負荷や強い精神的ストレスも判断材料になる。
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長時間過密労働、深夜勤、海外出張、単身赴任等による極度の過労やストレスを原因とする死亡のこと。脳出血、くも膜下出血、急性心不全、心筋梗塞(こうそく)など、脳や心臓疾患による死亡が圧倒的に大きな比重を占めている。さらにうつ病や燃えつき症候群に陥り、自殺する者も多く、過労自殺として大きな社会問題になってきた。厚生労働省の発表によると、2007年度(平成19)の脳・心臓疾患の労働者災害補償保険(労災)申請件数は931件、精神障害は952件で、2003年度と比較するとそれぞれ約25%、約213%増加している。脳・心臓疾患は日常生活や遺伝等に起因する諸要因で徐々に悪化して発病するものであるが、このうち仕事がおもな要因で発症する場合があり、これらが過労死として労災認定されている。従来は発症前の1週間程度の業務量、業務内容等を中心に業務の過重性が評価されてきたが、2001年からは仕事による長期にわたる疲労の蓄積も考慮されるようになっている。ちなみに、2007年度の申請件数のうち、労災として認定されたのは脳・心臓疾患で392件、精神障害で268件となっている。さらに、精神障害のなかで自殺として申請されているのは164件で、このうち81件が労災として認定されている。年齢別では、脳・心臓疾患が50歳代、精神障害は30歳代の比率が高くなっている。
過労死が社会問題として注目されるようになるのは1980年代のなかごろからであるが、当初は過労死の労災認定が困難なため、遺族が泣き寝入りをするケースがほとんどであった。この点を問題視した弁護士の有志によって、1988年(昭和63)に「過労死弁護団全国連絡会議」が結成され、「過労死110番」が全国の都道府県に設けられ、家族の相談に応じるようになった。過労死は欧米のビジネス社会にも存在しないわけではないが、日本のように広範な階層を巻き込み社会問題化するに至っていないため、現代においてもKAROUSHIという日本語が国際的に通用している。
過労死や過労自殺の労災認定のためには、この死亡が業務に起因するものであることを証明しなければならないが、企業の協力は得られないため、過労死の労災認定は労働行政の厚い壁に阻まれている。
[湯浅良雄]
働き過ぎ(過労)による死亡。とくに1970年代から80年代にかけてのリストラ合理化の厳しい状況下での長時間労働,深夜勤務などの連続による過労から,脳血管疾患,心臓疾患(虚血性心疾患,不整脈)などの持病が悪化して死亡したり,過度の精神緊張の連続からうつ病にかかり自殺したりする例が増えた。労働者の在職中の死亡の中で業務による過労死は,労災補償の対象になる。しかし,遺族の労災補償申請の大多数は,労働省の厳しい認定基準によって却下されていた。
1982年,上畑・田尻らが,こうした実際を詳細に記載し,業務上疾病としての認定と予防の問題点を指摘した著書《過労死-脳・心臓系疾病の業務上認定と予防》で過労死の名称が採用され,それ以降に広く普及した。英文書の《KAROUSI》(1990)によっても先進工業国で有名になった。88年,過労死弁護団が全国で〈過労死110番〉を始めたところから,過労死が広範な産業で現業労働者にとどまらず管理職にも女性にも起こっていること,過労による自殺例も多いことなどがマスコミによって広く伝えられ,過重な労働のストレスに悩み,健康に不安を抱く多くの人々の関心を高めた。また日本の医学分野の突然死の研究もこれによって促進され,拘束性が高くストレスの強い仕事,長時間の勤務,夜勤の連続などが,高血圧,心電図異常などと重なると死亡の危険率が高いことが指摘された。これは欧米での研究とも一致する。
1980年代から90年代にかけて,労働省の認定基準を批判し,申請を却下した行政処分を覆す裁判判決が徐々に増え,過労死の遺族の救済と予防の社会的な運動が高まった。労働省は,この推移に関わらず過労死の存在を公的に認めなかったが,1996年1月にいたり最高裁が過労によるうつ病から自殺した例を含む2例の過労死認定判決を出したことを受けて,過労死を公式に認め,健康管理の充実のための労働安全衛生法の改正を行った。しかし,過労死認定基準は改正されたが,ヨーロッパ先進工業国のような残業・夜勤の法的規制はなく,過労死遺族の救済と予防の根本的解決は残されている。過労による死亡は社会的な諸条件が貧困な時代にもあったが,今日の過労による死亡は,人権思想が普及し,保健・医療の諸制度が発達し,時間短縮・週休2日の普及が一般的になった時代の問題である。
執筆者:山田 信也
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