経済学の概念として過当競争を定義することは一般的には困難である。というのは,いかなる状態を〈過当〉というかについて意見の一致をみることが不可能といってよいからである。もしこれに対応する,経済学で用いられる概念を求めれば,それは〈破滅的競争cut-throat competition〉と呼ばれる状態になろう。もし市場が競争的であるときには,市場の均衡状態では価格は限界費用に一致するが,収穫逓増産業では限界費用は平均費用を下まわる。すると競争均衡のもとでは価格が平均費用に及ばないから,企業は損失を被らざるをえず,競争が続くことは,企業が破滅することを意味する。このとき競争は過当と呼んで差しつかえない。しかし通常は収穫逓増産業に限定して過当競争が論ぜられることは少ない。このときは個々の企業にとって競争メカニズムのもとで価格を人為的に維持することが不可能であり,競争は往々にして損失を招くということを強調しているにすぎないであろう。
→競争
執筆者:南部 鶴彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般に市場(しじょう)における競争が度を越している状態をいうが、とくに企業間競争についていうことが多い。どこまでが適正でどこからが過当かについては、明確な基準はなく、状況的に判断するしかない。日本で過当競争が顕著とされるのは、次の3分野である。第一は、主として大企業相互間で行われるマーケット・シェア(市場占有率)の維持、拡大のための競争であり、これが設備投資競争や販売合戦を生み出す。価格引下げや製品開発のような利点もあるが、重複投資のような欠点も小さくない。第二は、中小企業相互間で行われる生存競争で、目先の利益のために低い生産条件と労働条件を競い合い、共倒れ的現象に陥る状態をいう。第三は、外国市場に対する輸出競争であり、とくに国内市場が不況になると、活路を外国市場に求める集中豪雨型の出血安売り輸出が多くなり、貿易摩擦の原因となる。自由主義経済をとる限り、過当競争の可能性はなくならない。
[森本三男]
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