国家の領土と、沿岸から12カイリ(約22キロ)の海域と定められた領海の上空部分。範囲は大気圏に限られる。国際法上、国家は領空に主権を持ち、他国の航空機が許可なく侵入・通過(領空侵犯)すれば不法行為となる。航空自衛隊は、日本周辺をレーダーなどで警戒し、領空侵犯の恐れがある航空機を発見した場合は、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、必要に応じ行動を監視する。実際に領空侵犯が発生すれば退去の警告などを行う。
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領土・領水上空の国家領域。具体的には、領土と領水(湖、河川、港などの内水と領海からなる)の外側の限界において地表上垂直に立てた線によって囲まれた空域部分をさすが、その上限(宇宙空間との境界)は国際法上未確定。第一次世界大戦中のヨーロッパ諸国の実行から、各国はその領域上の空間において「完全かつ排他的な主権」(領空主権)を有することが承認され、この原則は1919年の「国際航空条約」(パリ条約)第1条、1944年の「国際民間航空条約」(シカゴ条約)第1条などにおいて明文化され、今日では確立された法原則となっている。
領空主権の完全・排他性のため、ある国の領空における外国航空機は、外国船舶が沿岸国の領海において享有する無害通航権のような一般国際法上の権利を認められず、領域国の許可または条約、協定上の根拠なくその国の領空に立ち入る場合は、領空侵犯として国際違法行為とされてきた。その場合、領域国は警告、進路変更、退去、着陸命令などの対応措置をとるが、撃墜を含む実力行使がとられることもあった。しかし、一方で外国軍用機による奇襲攻撃の危険性に備えるため、また、他方で国際民間航空の安全運航を確保するため、領空侵犯について軍用航空機と民間航空機とを区別した対応措置をとる傾向が生じている。とくに、1983年にソ連空軍機のミサイル攻撃によりサハリン付近上空で撃墜され乗員・乗客全員が死亡した大韓航空機撃墜事件は、国際民間航空の安全を確保するための国際協力のさらなる必要性を世界中に喚起し、民間航空機に対する武力不行使の原則を盛り込んだ国際民間航空機関(ICAO)の決議が多数の国によって支持された。その結果、1984年にシカゴ条約の改正が行われ、民間航空機に対する武器の使用を差し控える旨の一般的規定が追加された。
今日では、円滑な国際民間航空運送業務のために、関係国間で締結される二国間航空協定によって相互に飛行権や運輸権が確保されている。このように、空の自由化は一般に関係国相互間の交渉、協定を通じて具体的に実現されるため、領空主権は、国家の軍事的安全や公の秩序を確保するためばかりでなく、国際商業航空における権益を交換、確保するための手段としても機能している。
また、多くの沿岸国が軍事的安全保障のために領海上空に接続する公海上空(公空)に一定範囲の防空識別圏(ADIZ)を設定して、外国航空機に位置報告等を要求するという実行が増えている。ADIZは公空における飛行の自由との関係で問題とされたが、今日では沿岸国の安全保障のための措置として一般的に合法視されている。
なお、12海里までの領海幅員の拡大や群島理論の導入によって、従来から認められてきた公海上空の飛行の自由が失われることになる国際海峡と群島水域においては、それらの上空が海峡沿岸国や群島国の領空であるにもかかわらず、1982年の国連海洋法条約が、軍用航空機を含むすべての外国航空機に対して、継続的かつ迅速な通過のための通過通航権(第38条)と群島航路帯通航権(第53条)を保証している。
[栗林忠男]
国家の領土と領海の上部の空間。領域の一部を構成し,国際法に基づく一定の制限を除き,その国家の完全かつ排他的な主権(領空主権という)に服する。したがって,領海に認められている無害通航権は,領空においては一般的には認められない。つまり,外国の航空機は領域国の許可なしにその領空を飛行したり,着陸することができないのである。しかし,これでは国際交通上非常に不便を来たすので,今日では,国家が2国間または多数国間の条約を結んで,相互に領空の無害航行を認め合うことが一般化している。
今世紀に入り飛行機が発達してくると,領土の上空の法的地位が問題とされるようになった。当初は,公海自由の原則を類推して,領土の上空は自由であるとか,あるいは一定の高さ以上は自由な公空であるとかいう主張(いわゆる自由空説)がなされたが,一般に受けいれられなかった。それは,領土の上空の自由飛行を認めることは,公海の場合に比べ,地上の国家にとって軍事的に非常に危険が大きいからである。こうして,飛行機が実戦に使われるようになった第1次大戦のころには,自由空や公空ではなく領空という考え方が支配的となった。1919年にパリで署名された国際航空条約(パリ条約)は,国家が〈その領域上の空間において完全かつ排他的な主権を有する〉ことを明文で認めた(1条)。この領空主権の原則は,その後,国家の実行や学説によって支持され,慣習国際法の原則として確立した。44年シカゴで採択され今日も有効である国際民間航空条約(シカゴ条約)もパリ条約の規定を踏襲し,領空主権の一般原則を再確認した(1条)。
シカゴ条約のころまでは,領空には上限がないものと一般に考えられていたが,57年の人工衛星の打上げ以後,領空の上限をどこまでとするか論議されるようになった。66年に採択され67年に効力を発した宇宙条約は,宇宙空間が国家の領有の対象とはならないことを規定したが,このため,領空と宇宙空間との間の境界を定める必要ができた。国際連合宇宙平和利用委員会においてもこの問題は継続的に審議され,立法論としてはさまざまな見解が出されているが,まだ一般的合意を見ていない。
→宇宙法
執筆者:尾崎 重義
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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