江戸時代の類書(百科事典)。日本文物の類書中最初の、形式・内容ともに充実したものである。編者は山岡浚明(まつあけ)。彼は博学で有名であったが、若いときから国書を広く読み、その抄をつくって整理していた。しかし、先輩の老人に、抄出しても急場に役だたぬから暗記せよと諭され、その教えに従って破り捨てたものの、記憶には限界と誤りがあると覚(さと)って、この編集にかかったという。そのため、基本的図書は破棄されたままに脱している。現存の342巻を精査すると、天文、時令、神祇(じんぎ)、地理など32類と抜き書きの部に分かたれている。各項目は総説と考証、文献からなり、その考証の行き届いて合理的なことは類をみない。後年、屋代弘賢(やしろひろかた)は『古今要覧稿(ここんようらんこう)』を編集するにあたり、この書の形式内容をとったという。
[彌吉光長]
…谷川士清(ことすが)の《和訓栞(わくんのしおり)》93巻(1777(安永6)以後の刊行)は古語のほか俗語方言なども収め,五十音順であり,太田全斎の《俚言(りげん)集覧》(増補本は1900)は俗語を集めたもので,アカサ…イキシ…の順で並べてある。 このほか特殊辞書には,語源辞書として松永貞徳の《和句解》(1662∥寛文2),貝原益軒の《日本釈名》(1700∥元禄13),新井白石の《東雅》(1717(享保2)成立),契沖の提唱した歴史的仮名遣いを整理増補した楫取魚彦(かとりなひこ)の《古言梯》(1764(明和1)成立),方言辞書で越谷吾山《物類称呼》5巻(1775∥安永4),類書として寺島良安の《和漢三才図会(ずえ)》105巻(1712(正徳2)成立),山岡浚明の《類聚名物考》(1903‐05)などがある。
[明治時代以後]
ヨーロッパの辞書の影響を受けて,その体裁にならった辞書が生じた。…
…この書は近世の博物学を集大成したもので,編纂の過程で各地の学問に刺激を与え,その水準を上げたが,書物としては幕府に納められて一般に公開されることはなかった。他方,古典研究が盛んになると,日本の古典や歴史の世界を総合的にとらえようとする関心が高まり,18世紀中期に山岡浚明(まつあけ)の《類聚名物考》346巻が作られた。こうした関心は国学の発展を促したが,19世紀の前期には,屋代弘賢(ひろかた)が幕府の命を受けて《古今要覧稿》の編纂に着手した。…
…幕臣山岡家第3代景凞(かげひろ)の子として江戸に生まれる。和漢の学に通暁し,特に日本の古典籍にくわしく,はじめ賀茂真淵に師事するが,独力で大部の類纂書《類聚名物考》を著すほか,古典の校勘,考証に秀で,後の考証学の基礎を作る。青年時戯作にも遊び,《跖(せき)婦人伝》は談義本と洒落本を結ぶ傑作として,追随作を多く生んだ。…
※「類聚名物考」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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