髄膜炎(読み)ズイマクエン(その他表記)meningitis

翻訳|meningitis

デジタル大辞泉 「髄膜炎」の意味・読み・例文・類語

ずいまく‐えん【髄膜炎】

髄膜の炎症。高熱・頭痛・嘔吐おうと痙攣けいれん意識障害などの症状がみられ、死亡率が高く、治癒しても障害が残ることがある。細菌性・ウイルス性のもののほか、流行性髄膜炎がある。脳膜炎脳脊髄膜炎

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「髄膜炎」の意味・読み・例文・類語

ずいまく‐えん【髄膜炎】

  1. 〘 名詞 〙 脳および脊髄(せきずい)を包んでいる膜に炎症を起こす病気。急に寒けと高熱が出て、頭痛、嘔吐(おうと)が起こる。意識が混濁し痙攣(けいれん)を起こし、意識不明になる。原因となる病原体によって、結核性髄膜炎真菌性髄膜炎ウイルス性髄膜炎などに分類される。脳膜炎。脳脊髄膜炎。〔医語類聚(1872)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「髄膜炎」の意味・わかりやすい解説

髄膜炎 (ずいまくえん)
meningitis

いわゆる脳膜炎のことで,脳脊髄膜炎ともいう。髄膜の炎症は硬膜を侵す硬膜炎pachymeningitisとくも膜,軟膜を侵す軟膜炎leptomeningitisに大別されるが,後者が髄膜の炎症の大部分を占め,通常単に髄膜炎と呼ばれる。病因としては細菌,真菌,ウイルスなど多数の起炎菌が知られている。多くは上気道感染など身体の他の部位の感染巣からの血行性の二次感染であるが,副鼻腔炎や中耳炎などから炎症が直接髄膜に波及することもある。いわゆる感染症のほかにサルコイドーシスベーチェット病で慢性の髄膜炎が出現することがあり,髄膜に癌が転移したときは癌性髄膜炎とも呼ばれ,鑑別上重要である。

 症状は,(1)感染症状として発熱,倦怠感など,(2)髄膜刺激症状として頭痛(ときに悪心,嘔吐を伴う),頂部硬直,ケルニッヒ徴候,ブルジンスキー徴候など,(3)脳・脳神経症状として意識障害,痙攣(けいれん),脳神経障害,鬱血(うつけつ)乳頭などがあり,これらがさまざまな程度に組み合わさって生ずる。

 検査では髄液検査がとくに重要で,圧の上昇,多形核細胞または単核細胞の増加,タンパク質の上昇,糖やクロールの減少が認められる。細菌は通常陽性である。臨床的に髄液にも髄膜炎所見を有するにもかかわらず,髄液中に病原菌を証明しえないときは,無菌性髄膜炎と呼ばれる。また若年者の急性感染症に伴って髄膜刺激症状を呈するも,髄液は正常である場合には髄膜症meningismといわれ,髄膜炎とは区別される。臨床症状,髄液所見から髄膜炎そのものの診断は容易であり,起炎菌により臨床症状や髄液所見にある程度の特徴をもってはいるが,正確な診断と適切な治療のためには塗抹,培養あるいはDNA検査により菌を同定することが重要である。

 化学療法の進歩で予後は一般的に良好であるが,ときに後遺症として癒着性くも膜炎を残し水頭症や知能障害などを起こすことがある。これを予防するうえでも,早期に適切な抗生物質で治療を開始することが重要である。一般的治療としては,安静にし輸液などで十分な水分・栄養を補い,高熱や痙攣に対しては対症的に解熱剤や抗痙攣剤を用いる。

とくに髄膜炎菌Neisseria meningitidisによるものが最も多く約30%を占めるが,インフルエンザ菌(18%),肺炎球菌(16%),黄色ブドウ球菌,A群溶連菌,大腸菌などによっても起こる。髄液は混濁あるいは膿性で,多形核細胞が著しく増加する。髄膜炎菌性髄膜炎は1~10歳の小児に多く,ふつう上気道感染から敗血症を経て発症する。上気道感染様症状の発症後,まず敗血症の症状として全身に直径1~3mmの紅斑が出現,2~3日で急速に消退し,ついで髄膜刺激症状や脳神経麻痺が出現する。ときに敗血症症状のみで24時間以内に死亡する電撃型があり,副腎出血を伴う場合はウォーターハウス=フリーデリクセン症候群Waterhouse-Friderichsen syndromeと呼ばれ致命的なことが多い。インフルエンザ菌性髄膜炎は2歳くらいまでの幼児に多く,肺炎球菌性髄膜炎は1歳以下と50歳以上に多い。溶連菌性髄膜炎の多くは乳様突起や副鼻腔の感染に引き続いて生じ,ブドウ球菌性髄膜炎は海綿静脈洞血栓症,硬膜上・硬膜下膿瘍,脳外科手術などの合併症として生ずることが珍しくない。大腸菌性髄膜炎は生後3ヵ月までの乳幼児に多くみられる。

本症は通常の細菌による髄膜炎と異なり,髄液所見はむしろ軽いが,経過はより遷延し,死亡率はより高く,治療はより困難である。多くは肺,ときにリンパ節や腎臓などの結核病巣から二次的に発症する。いずれの年齢でもみられるが小児に多く,10歳以下が1/3を占める。亜急性に頭痛,軽い発熱,悪心・嘔吐などで発症し,数日で髄膜刺激症状がはっきりしてくる。とくに脳底部に病変が強い(脳底部髄膜炎)ため,視力障害や他の脳神経麻痺が生じやすい。進行すれば痙攣や鬱血乳頭,さらには傾眠,昏睡が生ずる。髄液では,おもに単核球から成る軽度から中等度の細胞増多および糖の低下が認められる。抗結核剤により強力な治療を行う。

クリプトコックスCryptococcus neoformansによる感染症で,神経系の真菌症のなかでは最も頻度が高い。この病原体はハトなどの鳥の排出物に含まれており,おそらくヒトに吸入されて気道から侵入するものと考えられている。とくに悪性腫瘍患者など免疫力が低下したときにかかりやすく,髄膜のみならず脳実質も侵されることが多い。亜急性の脳炎・髄膜炎症状で発症し,経過は緩慢で数週から数年にわたって進行するが,途中寛解をみることもある。

 髄液所見は結核性髄膜炎とよく似ているが,より軽度で細胞数は正常のこともある。診断は髄液中の病原体を墨汁染色または培養して同定するが,免疫学的に抗原を確認する。治療にはアムホテリシンBや,5-フルオロウラシル,フルコナゾールなどを用いるが,難治性のこともある。
髄液 →髄膜
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「髄膜炎」の意味・わかりやすい解説

髄膜炎
ずいまくえん

脳・脊髄(せきずい)を取り巻く髄膜の炎症で、かつては脳脊髄膜炎、脳膜炎ともよばれた。髄膜は硬膜・クモ膜(くも膜)・軟膜の3層からなり、髄膜炎は原則として、クモ膜および軟膜の炎症をさし、軟膜炎ともいう。

 もっとも頻度の高い髄膜炎は、インフルエンザ菌、髄膜炎菌(流行性髄膜炎)、肺炎球菌、ブドウ球菌などの感染によっておこる急性化膿(かのう)性髄膜炎である。たいていは、他の臓器の化膿巣が源となる。また、結核性髄膜炎や真菌性髄膜炎は、それほど急激でなく亜急性ないし慢性の経過をとる。感染による髄膜炎には、このほかスピロヘータ、リケッチア、ウイルスなどによるものがある。非感染性髄膜炎は腫瘍(しゅよう)などによって引き起こされる。

 症状は、いずれの場合でも頭痛がもっとも早期にみられる。仰臥(ぎょうが)位で患者の頭部を持ち上げてみると、明らかな抵抗があり、頭の屈曲が不十分となる(項部強直)。また、仰臥位で股(こ)関節と膝(しつ)関節を屈曲させた位置にして、膝(ひざ)を持って下腿(かたい)を伸展させようとしても膝をまっすぐに伸ばすことができない(ケルニッヒ徴候)。知覚が過敏となったり、まぶしがることもある。これらの症状は髄膜の炎症の激しさによってその強弱に差はあるが、各種髄膜炎に共通してみられる(髄膜刺激症状)。発熱も重要な症状であり、とくに化膿性髄膜炎では寒気とともに高熱を出す。どのような原因による髄膜炎であるかは、おもに髄液検査によって診断される。細菌や真菌(カビ)による感染性髄膜炎では、髄液より原因菌を証明する。

 治療は、全身管理や対症療法のほか、原因に対する治療が不可欠である。急性化膿性髄膜炎に対しては、種々の抗生物質製剤のうち原因菌に対し有効なものを感受性試験などによって選択して用いる。結核性髄膜炎に対しては、ヒドラジッド、パスなどの抗結核剤が用いられる。

 髄膜炎は手遅れになると死亡率が高く、種々の後遺症を残すことも多くなる。なお、ウイルス性髄膜炎には特効薬はないが、たいていは自然治癒する。

[海老原進一郎]

真菌性髄膜炎

クリプトコックスによるものがもっとも多くみられ、まれに他の真菌によってもおこされる。症状はほぼ同様である。

 クリプトコックス髄膜炎は、クリプトコックス・ネオフォルマンスCryptococcus neoformansによるもので、この菌は酵母様真菌に属し、ハトの糞(ふん)にとくに好んで発育する。菌は乾燥して空中を飛び、吸入されて肺炎をおこす。この肺炎は自然治癒しやすく、菌が血流によって肺から髄膜に転移し、髄膜炎をおこしてから初めてこの感染に気づくのが普通である。頭痛をはじめ、嘔吐(おうと)、発熱、けいれん、麻痺(まひ)、意識障害など、いろいろな神経症状を呈する。前述のように慢性あるいは亜急性に経過するのが特徴的である。治療には抗真菌剤が用いられ、とくにアムホテリシンBの点滴静脈注射がよく、フルオロシトシンの併用も有効である。重症疾患の末期に発病したものはよくないが、早期診断、早期治療によって治癒する。

[福嶋孝吉]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家庭医学館 「髄膜炎」の解説

ずいまくえん【髄膜炎 (Meningitis)】

 脳(のう)と脊髄(せきずい)は、脳脊髄膜という連続した膜で包まれています。この脳脊髄膜にいろいろな原因で炎症がおこるのが髄膜炎です。
 細菌(さいきん)、真菌(しんきん)(かび)、ウイルスなどの病原微生物(びょうげんびせいぶつ)が直接、脳脊髄膜に感染しておこることが多いものです。そのほかに、がんや悪性リンパ腫(しゅ)などの腫瘍細胞(しゅようさいぼう)の脳脊髄膜への転移、梅毒(ばいどく)、サルコイドーシス、ワイル病、ベーチェット病、膠原病(こうげんびょう)などの病気や薬剤の使用などによっておこる髄膜炎もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「髄膜炎」の意味・わかりやすい解説

髄膜炎
ずいまくえん
meningitis

脳膜炎,脳脊髄膜炎ともいう。髄膜のうち硬膜を除く軟膜,クモ膜の炎症をいう。独立して起ることは少く,原因によって,化膿性,結核性,流行性 (→流行性脳脊髄膜炎 ) ,漿液性,または無菌性に分けている。原因によって症状はそれぞれ違うが,高熱,頭痛,意識障害,筋肉,ことに頸筋のけいれんと強直,うわごと,嘔吐が起ることが多い。抗生物質が開発されるまで,多くは予後がきわめて悪かったが,現在では回復することが多くなってきた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「髄膜炎」の意味・わかりやすい解説

髄膜炎【ずいまくえん】

脳脊髄膜炎

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の髄膜炎の言及

【頭痛】より

…(1)1日のうちいつ頭痛が起こりやすいか,(2)頭痛は持続性か発作性かまたは周期性か,(3)頭痛の強さと性質(ずきずき痛む拍動性,ずーんと痛む圧迫性,きりきり痛む乱切性など),(4)頭痛の部位,(5)頭痛の誘因(疲労,不眠,月経,天候,職業など),(6)薬物の効果,(7)随伴症状(吐き気,嘔吐,閃輝暗点,半盲,視力低下,複視,流涙,鼻汁,角膜や顔面の潮紅など)の有無と頭痛との時間的関係,(8)患者の生活歴,(9)合併症の有無,(10)家系内の類症者など。 発症のしかたについては,突発性の強い頭痛はとくに意識障害や局所的神経症状を伴う場合や,脳出血や髄膜炎などにみられる。高齢者で初発した再発性あるいは持続性の頭痛は,頭蓋の動脈炎,緑内障,頸動脈などの循環不全あるいは高血圧によることが多い。…

※「髄膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

ベートーベンの「第九」

「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...

ベートーベンの「第九」の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android