国立大学法人法に基づき2004年(平成16)に発足した大学共同利用機関法人の一つ。英語名はHigh Energy Accelerator Research Organizationであるが、日本語のローマ字表記Kou Enerugi Kasokuki Kenkyukikouの頭文字をとり、KEK(ケック)とよばれている。本部は茨城県つくば市に所在。前身は、1955年(昭和30)に設立された東京大学原子核研究所、および1971年に設立された高エネルギー物理学研究所で、1997年(平成9)に改組・統合されて発足、2004年に大学共同利用機関法人となった。総合研究大学院大学の高エネルギー加速器科学研究科の構成機関として博士課程教育も行っている。
電子、粒子などを高速に加速したうえで衝突させる高エネルギー加速器を用い、物質の根源である素粒子、原子核の存在などに関する研究のほか、生命体を含む物質の構造、機能、加速器の性能向上に関する研究を行う日本を代表する研究機関である。
二つの研究所と二つの研究施設をもつ。素粒子原子核研究所は、素粒子や原子核のふるまいを探り、物質の根源や宇宙生誕の謎(なぞ)に迫る研究を理論・実験の両面で進める。物質構造科学研究所は、加速器から発生する放射光、中性子、ミューオン(ミュオン)、低速陽電子を利用し、高分子、ミクロの生体分子の構造、機能の解明を行っている。共通基盤研究施設、加速器研究施設は、加速器の性能を向上させるための超伝導、コンピュータ計測などの基盤技術、最先端の加速器開発を担う。このほか、2006年から茨城県東海村において、日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同で大強度陽子加速施設「J-PARC(ジェーパーク):Japan Proton Accelerator Research Complex」を運営している。
KEKはノーベル賞につながる多くの研究成果を出している。1999年から2010年まで稼働した円形の衝突型加速器KEKB(ケックビー)(Bファクトリー)にはBelle(ベル)測定器が搭載されており、この測定器で「B中間子」「反B中間子」の崩壊過程を観察したBelle実験では、小林誠、益川敏英(ますかわとしひで)が1973年に予言した「CP対称性の破れ」を実証し(2001年に論文を発表)、二人の2008年ノーベル物理学賞受賞に貢献した。また、放射光加速器のフォトンファクトリー(PF)においてリボソームの研究を10年近く行ったイスラエルのアダ・ヨナットは、2009年に「リボソームの構造と機能に関する研究」の功績でノーベル化学賞を受賞した。さらに、2015年に「ニュートリノ振動の発見」でノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章(かじたたかあき)のT2K(ティーツーケー)実験(2009~)も行われている。これは、J-PARCのMRシンクロトロン加速器で人工的につくりだした素粒子のニュートリノを、約295キロメートル離れた岐阜県飛騨(ひだ)市神岡町の地下1000メートルにある測定装置「スーパーカミオカンデ」に照射し、ニュートリノが質量をもつことで種類を変えるニュートリノ振動を確かめた実験である(T2KはTokai To Kamiokaの略)。
KEKでは、多くの国際研究協力が行われ、スイスにあるCERN(セルン)(ヨーロッパ原子核研究機構)と並び、国際拠点の一つとなっている。
[玉村 治 2018年7月20日]
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