鴻海精密工業(読み)ほんはいせいみつこうぎょう(英語表記)Hon Hai Precision Industry Co.,Ltd.

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鴻海精密工業」の意味・わかりやすい解説

鴻海精密工業
ほんはいせいみつこうぎょう
Hon Hai Precision Industry Co.,Ltd.

電子機器の受託製造サービス(EMS:electronics manufacturing service)の世界最大手。本社台湾・新北(しんぼく)市で、台湾証券取引所に上場。世界のIT・電子機器大手からスマートフォンや薄型テレビなどを受託生産している。企業ブランド名Foxconn(フォックスコン)で知られる鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)の中核企業であり、傘下には2016年に買収したシャープなどを抱える。

 台湾の実業家、郭台銘(かくたいめい/テリーゴウ)(前・董事長(とうじちょう)〈会長・代表取締役〉、1950― )が零細な町工場から一代で築き上げた台湾最大の企業である。1974年、白黒テレビのプラスチック部品を製造する鴻海プラスチック企業有限公司として創業。コネクターやICソケットなどの電子部品を製造していたが、1990年代のITの急速な進展で、多様な電子機器を廉価に大量生産する需要が高まり、中国本土に生産拠点を設けてEMSを開始。自前のブランドをもたず、複数企業から多くの電子機器の生産を請け負い、受託先を分散させることで稼働率を上げ、規模拡大で部品や資材の調達コストを圧縮するビジネスモデルを確立した。デルやヒューレット・パッカードのパソコン、ソニー「プレイステーション」や任天堂(にんてんどう)「Wii(ウィー)」などの家庭用ゲーム機、モトローラノキアの携帯電話、シャープの薄型テレビ、ソフトバンクの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」などの生産を受託し、電子機器の水平分業モデルを世界的に普及させた。アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」を受注したことで売上高が急増。2018年の連結売上高は5兆2938億台湾ドル(約18兆9000億円)、従業員約86万3000人。工場を中国本土のほか北米、ヨーロッパ、アジアなど世界にもつが、生産拠点の約7割を中国本土に依存しており、中国の人件費上昇や米中貿易摩擦の激化が経営課題となっている。なお郭台銘は台湾総統選への立候補のため2019年に董事長職を辞したが、国民党公認争いに敗れ、2020年の総統選立候補を断念した。

[矢野 武 2019年12月13日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鴻海精密工業」の意味・わかりやすい解説

鴻海精密工業
ホンハイせいみつこうぎょう

タイワン(台湾)の EMS(electric manufacturing service。電子機器受託生産)企業。世界最大手の EMS企業であり,台湾最大の企業。1974年郭台銘(テリー・ゴウ)が鴻海プラスチックとして創設。当初はプラスチック部品を製造したが,1980年代からコネクタなどパーソナルコンピュータ部品の製造を手がけるとともに,アメリカ合衆国や中国などに進出。2000年代以降,世界のブランド企業が製品・部品製造の外注比率を高めるなか,EMS企業として成長した。日本ではシャープの買収によって一挙にその存在が注目された。2010年頃から液晶不況の直撃を受けて過剰設備投資に苦しんでいたシャープは,当初,官民出資の投資ファンドである産業革新機構からの支援を軸に再建を模索していた。しかし 2016年3月末,鴻海が 3888億円の第三者割当増資を引き受け,議決権数ベースで 66%のシャープの筆頭株主となり,その後も資本参加を拡大,傘下企業とした。台湾資本による日本企業の買収としても,EMS企業による伝統的な電気機器製造企業の買収としても,歴史に残る出来事となった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵mini 「鴻海精密工業」の解説

鴻海精密工業

台湾に本社をもつ世界最大のEMS(電子機器受託製造サービス)企業。鴻海精密工業股份有限公司。企業ブランド名は「Foxconn」。郭台銘(テリー・ゴウ)が1974年2月20日に創設し、85年2月28日に現社名となった。鴻海グループの中核企業として2010年までに全世界で3万件以上の特許を得ており、15年7-9月(第3四半期)の純利益は前年同期比11%増の379億台湾ドル(約1420億円)、売上高は1兆700億台湾ドル、従業員数100万人超となっている。12年には経営危機に陥ったシャープへの支援を表明したが前進せず、郭台銘会長は16年1月、再度出資を伴う経営支援を提案する意向を示した。

(2016-1-18)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android