日本大百科全書(ニッポニカ) 「鹿児島寿蔵」の意味・わかりやすい解説
鹿児島寿蔵
かごしまじゅぞう
(1898―1982)
歌人、紙塑(しそ)人形の創始者。福岡市生まれ。少年時代より作歌し、1920年(大正9)『アララギ』に入り島木赤彦に師事。赤彦没後は土屋文明の指導を受けた。写生手法による堅実にして清新な詠風は、『アララギ』のみならず歌壇の注目するところとなり、41年(昭和16)には歌集『潮汐(ちょうせき)』『新冬』を刊行、その地位を確立した。その後『茉莉花(まつりか)』(1948)、『故郷の灯』(1968)など20冊近くの歌集があり、老境に向かうにつれて、身辺、肉親を歌い円熟を極めた境地に達した。宮中歌会始選者を10回務めた。
[宮地伸一]
人形製作者としては、最初テラコッタ(素焼の人形)をつくっていたが、1930年(昭和5)和紙原料のコウゾなどを用いた紙塑人形の製作を開始。36年、帝展(後の日展)工芸部門第1回展に紙塑人形「黄葉」が入選、以後毎年出品し、紙塑人形を芸術作品の位置にまで高めた。明るく柔らかな感触と、洗練された色彩、形態に優れたものがあり、61年(昭和36)に重要無形文化財保持者の認定を受けた。歌と人形作り相互の芸境に生きる作家として、特異な存在であった。
[斎藤良輔]
両眼の盲(めし)ひし母の膝(ひざ)におく其(そ)の手のかたちいふべくもなし
『穂積諭吉著『紙塑芸術と短歌』(1951・清新書房)』