デジタル大辞泉 「アクセント」の意味・読み・例文・類語
アクセント(accent)
2 話し方の調子。イントネーション。
3 音楽で、拍子の強く演奏される部分。強勢部。
4 デザインなどで、平板・単調なものの印象を強め、人目を引きつけるために付け加えるもの。「ベルトで
[類語](1)高さアクセント・強さアクセント・京阪式アクセント・東京式アクセント・
翻訳|accent
言語学(音声学)の用語。単語などの音形はいくつかの音素(の列)から成ると一応考えることができるが,それがその単語の音形のすべてではない。すなわち,その音形のどこが強く発音されるかとか,どこが高く発音されるかといった特徴がさらに存在しうる。そのような特徴に関する,言語ごとに決まっている状態,体系をアクセントと総称する(ただし,文全体にかかわるものであるイントネーションは除外する)。
アクセントは言語によってかなり異なる。まず,いかなる音的特徴をアクセントの主要な実質として用いるかという点で一様ではない(また,強弱や高低等に有意味的差がなく発音される言語もあろう)。たとえば,日本語は高低(ピッチ)を,英語は強弱(ストレスの有無)を主体としてアクセントを形成している。さらに,強弱と高低の両方を用いたり,これら以外の音的特徴(たとえば,喉頭緊張とか,母音の長短とか)を用いることも可能であろう。ただし,その言語で音素の区別に関係する音的特徴(たとえば,dとnをもつ言語における鼻音性と非鼻音性)をアクセントの実質として用いることは,(鼻音化が子音にまで及ぶ場合にdとnといった)音素間の区別をあいまいにしてしまうため,あるとしてもまれであろう。また,強弱アクセントの場合,強く発音することはエネルギーの消耗を伴うので,長い単語の全体を強く発音するということはあまり考えられず,単語の中の1個所またはごく少数の個所を他に比して強く発音する,ということにとどまるであろう。しかし,高低はエネルギーの消耗度にさほど関係しないので,単語の全体(あるいは多くの個所)を高く(あるいは低く)発音するということが可能である。また,高低の方が知覚しやすいと考えられ,一つの音節の内部で高さが有意味的に変化するという状態も存在可能である。中国語などは,1音節の内部の音程変化を広範囲に利用している言語である(たとえば,北京方言の四声)。こうしたものを〈音節(高さ)アクセント〉と呼ぶことも可能であるが,大部分の音節内で音程が有意味的に変化しない〈単語(高さ)アクセント〉の言語でも,1音節内の有意味的な上昇とか下降を有するものがよくあるので,この区別は絶対的なものではない。いま見た二つの点から,高低アクセントの方が,バラエティに富み,かつ,複雑な状態を呈することが可能である。
単語内部に強弱(高低)の差がある場合,その境界が音節の境界に対応することが多い。その結果,個々の音節(モーラ)についてその強弱(高低)を一定の条件下で認定することができる。音節のそのような特徴を〈調素〉と呼ぶと,1言語内では,調素の数は少数かつ一定であろう。しかし,たとえば東京方言でサクラが〈低高高〉と発音されても,サに〈低〉という調素が,クとラに〈高〉という調素がくっついていると考えるより,〈低高高〉という〈型〉がサクラ全体にかぶさっていると見る方が妥当であろう。ただし,〈型〉が何にかぶさりうるのかは,かなり複雑な問題である。
言語(方言)によっては,たとえ単語の内部に強弱(高低)の差があったとしても,あらゆる単語(あるいは,ある品詞のあらゆる単語)の第1音節が常に強い(チェコ語など)とか,最後から2番目の音節が常に高い(スワヒリ語など)といったふうに決まっているものがある。そのような言語では,アクセントは単語の区別に関与せず,アクセント対立がないとか,型が一つしかないといわれる。アクセント対立のある言語でも,調素の配列に制約のないものとあるものがあり,かなりの言語は後者である。たとえば東京方言は,一つの名詞の内部では,最初のモーラが高ければそのあとはすべて低くしかなりえないとか,一度〈高〉から〈低〉に移るともはや〈高〉はあらわれえないといったかなり厳しい制約がある。一般的には,単語の音節数が多いと,多くの型が区別されることが多いが,配列上の制約がきわめて厳しい場合には,単語の音節の数のいかんにかかわらず,同数の型しか認められない場合がある。また,その単語だけを見るとアクセント的に同じであっても,隣接する他の単語のアクセントに及ぼす影響のちがいから,異なる型であることがわかることもある。東京方言のサ ( )とア (ガ)など は〈高〉を示す)。
言語によっては,同一の単語でありながら,あらわれる文脈的環境によってアクセント変異を示すものがある。たとえばサンバー語(タンザニア)の名詞は,その直前に何かがあって,それとその名詞が直接結びつき,かつその何かが高く(あるいは中くらいに)終わっている場合と,それ以外の場合とで大きな変異を示す。後者でmùòmò(唇-単数),ùlímí(舌-単数)であるものが,前者ではmúómò,úlimiとなる(′は〈高〉,は〈低〉,母音上に何も記号がなければ中くらいの高さ)。この種の言語もけっこう多いが,(1)アクセント変異形のどれがあらわれるかを決定する環境は明確に規定できる,(2)アクセント変異形間の関係は明確な規則によって説明できる,という状態にある。
こうしたアクセント変異は,動詞のように活用が豊富であったり,助動詞的なものとの結びつきが強い品詞の場合には,さらに顕著になる傾向がある。関西方言のミ (見る), タ(見た)参照。
日本語の助詞とか助動詞のような独立度の低い単語にもアクセントが認められる。それらには,それ独自のアクセントを有するもの,結びつく相手のアクセントに規定されるもの,逆に相手のアクセント変異をひきおこすもの,相手と結びついてあたかも一つの単語のようにアクセント的に扱われることになるもの,などがありうる。
なお,通俗的には,特に強弱アクセントの場合に強く発音される個所をアクセントと呼ぶことがあるが,一般言語学的には,そのような呼び方は必ずしも妥当ではない。
執筆者:湯川 恭敏
ある音が前後の音よりも強調されるとき,その音はアクセントをもつ。拍節をもつ音楽においては,第1拍目の音にアクセントがくるが,シンコペーションのリズムなどによってアクセントの位置は移動する。不規則なアクセントは,<,∧,sfなどの演奏記号によって示される。
執筆者:船山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
もとギリシア語プロソーディアπροσωδαのラテン語訳アッケントゥスaccentusに由来する。一般には、ことばのなかでとくに高くあるいは強く聞こえる部分をいい、音楽では1小節内で強く演奏される部分をいう。転じて服飾などで中心となる目だつ部分をいうこともある。
言語学では、単語中のある特定の音節が他に比べて際だって高く、あるいは強く、高く、長く発音され、それが単語に備わった特徴であるとき、これをアクセントという。個々の語音を分節的特徴とよぶのに対して、アクセントは超分節的特徴とよばれ、「かぶせ音素」とよばれることもある。英語ではpérmit(免許証)のpér、またはpermít(許す)のmítを強くいい、東京方言ではアメ(雨)のア、アメ(飴)のメをそれぞれ高くいうとされるのが、それである。
語源の古代ギリシア語では高さアクセントを示した。のち、ヨーロッパ近代言語のいわゆる強さアクセントに用いる。日本では、古代中国の「声(ショウ)」(四声など)を学び、これを日本語の場合に応用したが、明治以後、アクセントの用語を用い、語調、音調などとよぶ例もある。
英語では単語アクセントをストレスstressとよぶことが多い。名詞と動詞の別を示す例は多いが、意味の区別に役だつことは比較的少ない。ドイツ語では、おもに第1音節に、イタリア語では多くは最後の一つ前の音節にあり、フランス語では末尾の音節にある。フランス語ではアクセントを単語の意味の区別に役だてない。これらの言語では、アクセントは単語、句などを一つにまとめるのに役だつ。英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語などは強弱アクセントまたは強さアクセントstress accent,dynamic accentとされ、日本語は高低アクセントまたは高さアクセントpitch accent,musical accentといわれる。中国語、タイ語なども後者であるが、1母音内での音調変化があるため、声調アクセントともいう。
しかし生理的、音響的実験の結果によれば、英語アクセントにおいても、その生成(発話)と知覚(聞こえ)にもっとも重要な要素は、声帯振動の基本周波数、つまり高さの変化である。日本語では、各単語アクセントによる高低変化は、文脈中においても保たれる傾向がある。英語などでは文中で強調される単語アクセントのある音節だけがとくに高く、強く、長く、また母音が明確に発音される。このため、アクセントは意味の伝達上とくに重要である。
[杉藤美代子]
アクセントの最小単位は拍(またはモーラmora)、大まかには、かな文字がこれを示す。近畿方言のキョオダイ(兄弟)、インリョク(引力)は長音、撥音(はつおん)も単位となる例である。
の上部は、現在の標準語とされる東京アクセントを、下部はかつての標準語であった近畿アクセントを示す。表記は高い部分を線で示し、または高低のくぎりに「印」を用いる。各拍を○印で、高い部分を●で示す場合もある。東京アクセントの1拍語「エ」(柄と絵)は、エガナガイ(柄が長い)、エオカク(絵を書く)のように、また2拍語「ハナ」(鼻と花)はハナガタカイ(鼻が高い)、ハナガサイタ(花が咲いた)のように、助詞が高く、平らにつくか、または低くつくかにより、型が異なる。単語の拍数をnとすれば、各拍単語にはn+1種類の型がある。近畿アクセントには高起と低起の別があり、2n-1種類のうえに1、2拍語では上昇し、下降する絵(エ)、餌(エ)、雨(アメ)などがある。
東京アクセントの地理的分布は広く、近畿アクセントがこれに次ぐ。ほかに九州の南西部に、多拍語まで2種の型をもつ二型アクセント地域があり、九州中央部と、東北地方の南東部および関東の北東部に、アクセントが意味の区別に役だたない無型アクセント(いわゆる一型アクセント)地域がある。
近畿アクセントは、古文献により、1000年近い昔のそれが推定できる。興味深い。
には古代の標準語アクセントと、現代の方言アクセントを示した。各単語群が史的、地域的変化において対応関係のあることは[杉藤美代子]
『金田一春彦著『国語アクセントの史的研究原理と方法』(1974・塙書房)』▽『平山輝男著『日本語音調の研究』(1957・明治書院)』▽『杉藤美代子「アクセント、イントネーションの比較」(『日英比較講座1』1980・大修館書店・所収)』▽『杉藤美代子著『日本語アクセントの研究』(1982・三省堂)』
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…例えばイイッショ(いいでしょう)の〈ッショ〉は北海道の共通語,モータープール(駐車場)は関西の共通語といえる。また各地で使われている共通語は,アクセントなどについては,東京のものと一致しないことが多い。以上のように地方色を帯びた共通語を〈地方(地域)共通語〉と呼んで,標準語に近いものとしての〈全国共通語〉と区別し,さらに方言とも違うとする考え方がある。…
… 単語(あるいはそれより少し小さいか大きいもの)の音形に,音素の区別に関係するものとは異なる音的特徴(強弱差とか高低差)が〈かぶさって〉いるような状況が認められる。これを〈アクセント〉と呼び,強弱が有意味的なものを〈強弱アクセント〉とか〈ストレス・アクセント〉,高低差が有意味的なものを〈高低アクセント〉あるいは〈ピッチ・アクセント〉と呼ぶ。さらに,別の音的特徴が用いられることもありうる。…
…また〈アオイ〉[aoi]のように母音を連結させた語も少なくない。 アクセントは高低2種を備えていて,どの拍も高か低いずれかのアクセントをもつ。例えば〈コトバ〉における点のついた文字の拍は高いアクセントで現れる。…
※「アクセント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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