インフレターゲット

デジタル大辞泉 「インフレターゲット」の意味・読み・例文・類語

インフレ‐ターゲット

inflation targeting》各国の政府または中央銀行が定める目標物価上昇率のこと。採用のしかたは国によって異なり、目標に掲げる国、望ましい水準として示す国、公表しない国に大別される。デフレには弊害がある一方、物価には安定が求められるため、一般にプラス2パーセント程度が目安となる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「インフレターゲット」の意味・わかりやすい解説

インフレ・ターゲット
いんふれたーげっと
Inflation targeting

中央銀行がインフレ率(物価上昇率)の数値目標を設け、市中の通貨量を制御することで緩やかなインフレを起こし、安定的な経済成長につなげる金融政策。中央銀行に物価インフレ率を守るよう政策を行わせるだけでなく、家計や企業に目標どおりのインフレが発生するとの期待をもたせる効果ももつ。手形、国債、社債、コマーシャルペーパーなどの買入れや売出しで市中の通貨量を調節し、インフレ目標に近づける手法をとる。場合によっては、中長期国債の買切りや株式、不動産の買取りによる資金供給も必要との意見もある。

 1930年代にスウェーデンが物価水準目標を導入した例はあるが、現代では1990年にニュージーランドが初めて導入した。その後、イギリスカナダオーストラリアブラジルメキシコ、韓国、タイなど20か国以上が採用した。いずれもインフレ抑制目的での導入だった。ただ欧州中央銀行(ECB)は物価安定の目安として「2%以下で、その近辺」のインフレ率を参照値にしている。アメリカは連邦準備制度理事会(FRB)の暗黙値を物価上昇率の目安としているが、2013年現在のFRB議長バーナンキはインフレ・ターゲット論者として有名である。

 日本では1990年代後半から2000年代初頭にかけて、深刻なデフレ経済から脱却するため、インフレ・ターゲットを導入すべきと、バーナンキ、経済学者のクルーグマン竹中平蔵(へいぞう)らが主張した。これに対し、デフレ脱却のためのマネー供給は副作用を招くうえ、いったんインフレ・ターゲットを導入するとインフレ率を制御できなくなるとの批判がなされた。2012年(平成24)12月に発足した第二次安倍晋三政権は、緩やかなインフレによるデフレからの脱却を目ざすリフレーション政策リフレ政策)を行うにあたり、インフレ・ターゲットを導入した。

[編集部]

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百科事典マイペディア 「インフレターゲット」の意味・わかりやすい解説

インフレターゲット

物価の下落傾向に歯止めをかけ,デフレスパイラルから脱却するために一定の物価上昇率すなわちインフレターゲットを目標設定してその目標を達成するまで金融を緩和すること。先進経済国でインフレ目標を経済政策として設定している場合があるが,いずれもインフレ抑制のための目標で,デフレ克服として金融緩和と結びつけて導入している国はない。日本銀行(日銀)は従来インフレターゲット導入に否定的な立場をとってきたが,2012年12月に成立した第二次安倍晋三内閣は日銀にさらなる金融緩和を迫り,2013年3月,総裁に就任した黒田東彦はこれまでの方針を転換,2%の物価目標というインフレターゲットを実現し,安定的に持続させるために,大胆な量的緩和などを骨子とする金融緩和策を打ち出し,マネタリーベース(日銀から金融機関に流す金)を2012年末の138兆円から2014年末には270兆円と一気に倍増させると発表した。中央銀行がインフレに導くために貨幣供給量を増やし続ければ,デフレからの脱却は可能となるが,いったんインフレに転じた場合政策的にそれを抑えることは難しく,物価上昇は続き景気は回復せず失業率も上昇する,というスタグフレーションに陥る可能性があるという懸念も根強く存在している。2014年2月の全国消費者物価指数は生鮮食品を除くと前年比で1.3%の上昇となった。しかし,その後の消費増税に,原油価格下落などの影響が加わり,日銀目標としていた2年で2%上昇を達成するのは困難な見通しとなった。これを踏まえて日銀は2014年10月末,さらに30兆円の追加緩和策を発表した。
→関連項目安倍晋三アベノミクス

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知恵蔵 「インフレターゲット」の解説

インフレ・ターゲット

物価下落と不況のデフレ・スパイラルを断ち切るために、一定の物価上昇率を目標とし、その目標を達成するまで金融を緩和するというのが、日本のインフレ目標(インフレ・ターゲット)。英国やオーストラリアなどでもインフレ目標を導入しているが、いずれもインフレ抑制のためで、デフレ対応として導入している国はない。日本で論議されているインフレ目標値は、消費者物価上昇率で0〜4%。導入主張派は政府や自民党内(「日銀法改正研究会」)にも多いが、小泉首相は否定的であった。肯定派は、インフレ目標値の導入でインフレ期待が起き、買い急ぎや設備投資の前倒し(将来値上がりする可能性があれば、手当てを急ぐ行動)が起こることを期待している。日銀は否定的な立場を貫いている。過去の経験からすると、インフレになるまで貨幣供給量を増やし続ければ、デフレからは脱却が可能だろうが、一度発生したインフレを抑えることは難しい。インフレ目標を導入し、人為的にインフレを起こした場合に、物価だけが上昇し景気が回復しない(失業率が下がらない)、というスタグフレーション(stagflation)を心配する見方もある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「インフレターゲット」の解説

インフレターゲット

一定の物価上昇を目指した金融政策の手法。あらかじめインフレ率に目標値を設定しておき、その目標を達成するように紙幣の発行を増やすなどの金融政策を中央銀行が実施すること。海外ではイギリスやカナダなどが、物価の高騰を抑える手段として実施した例があったが、デフレを食い止める金融政策として有効かどうかの判断は見方が分かれている。このため、十数年続いた日本のデフレ状態の脱却を図る金融政策としてにわかに脚光を浴びた時期もあったが、日本銀行がその採用に慎重な態度を崩さなかったことで実施には至っていない。

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