カルス(その他表記)callus

翻訳|callus

デジタル大辞泉 「カルス」の意味・読み・例文・類語

カルス(callus)

植物体が傷を受けたときに、傷口をふさぐために増殖する組織。傷ホルモンの刺激によって形成される。癒傷ゆしょう組織。仮皮。
植物の篩板しばんの両側または片側に形成される物質。セルロースに似た成分からなり、孔をふさぐ。カルス板。
植物の組織の細胞を数個取り出し、培養したときにできる不定形の細胞の塊。どの組織からでも得られ、植物ホルモンを与えると芽や根を再分化させることができる。

カルス(Kars)

トルコ北東部の都市。ジョージアアルメニアとの国境近くに位置する。9世紀末から10世紀にかけてバグラト朝アルメニア王国の首都として栄えた。オスマン帝国のムラト3世が16世紀末に築いた要塞がある。

カルス(Kals)

オーストリア西部、チロル州の町。正式名称カルス‐アム‐グロースグロックナーリエンツの北西約20キロメートル、グロースグロックナー山南麓の谷間に位置する。中世に建立された二つの教会がある。スキーが盛んで観光拠点となっている。カールス

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精選版 日本国語大辞典 「カルス」の意味・読み・例文・類語

カルス

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] callus )
  2. 植物体に傷を与えたとき、切り口の細胞が分裂能力をとりもどし、切り口をふさぎ肥大する組織をいう。癒傷(ゆしょう)ホルモンによって形成される。癒傷組織。仮皮。
  3. 植物の篩板(ふるいいた)の片側または両側に形成される後形質をいう。カルス板。
  4. ある種の菌の子実層。

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改訂新版 世界大百科事典 「カルス」の意味・わかりやすい解説

カルス
callus

植物体に傷がついたとき,その傷の周囲に二次的につくられる分裂組織が形成する組織。ハーバーラントG.Haberlandtが命名(1902)。癒傷組織ともいう。最近ではこの定義を拡大して,植物体の一部を植物ホルモン(オーキシンサイトカイニンなど)を含む培地上で培養したとき生じる人工的な細胞塊もカルスという。すでに分化していた細胞が,外的条件によって脱分化する例の典型で,カルスは活発な増殖を行ったのち,やがて再分化することが多い。

 植物体は正常に発生する場合,頂端分裂組織によって一次組織が,形成層やコルク形成層によって二次組織がつくられると,それらの組織は分裂能を失って永存組織となる。しかし,分裂能を失うのは定常状態においてであって,組織をつくる細胞が外傷によって裸出すると分裂能を回復する。植物体のどの部分でもカルスを誘起することは可能で,新しく生長した組織を切りとって植え継ぐと,カルスの状態のものを無限に培養することもできる。一般に,植物の細胞はどんな組織でもつくり出す能力を潜在的にもっている(全能性)ので,カルスを特定の条件下で培養して,不定芽を分化させたり,組織の分化をおこさせることもできる。そのため,組織の分化などの研究材料として利用されることも多い。

 カルスを最初に研究したハーバーラントは,傷をうけたことによって傷ホルモンtraumatinができ,これに誘起されて細胞分裂がおこる結果カルスが形成されると説明した。カルスの誘導については,オーキシン類やサイトカイニンのような植物ホルモンが何らかの関与をしており,特に前者が必須であることが知られている。しかし,誘導機構についてはまだよくわかっていない。生体内にオーキシン受容体となる高分子が存在し,それに対応する官能基をもったオーキシン類が結合するとカルスを誘導するのではないかという推定もある。

 誘導されたカルスには通常の二倍体と異なる倍数体や異数体が観察されることが多い。特に,最初の数回の分裂によってつくられる細胞には極端な染色体数の異常が観察される。このことも,カルス誘導現象が代謝レベルの変動によるのでなく,DNAの複製や酵素の誘導などの異常によるものであることを示唆している。また,培養細胞の染色体数は,カルスの継代培養を重ねると倍数化が進むという報告もある。長期間培養された細胞群が次第に形態形成能力を失う傾向があることは経験的に知られているが,このことも染色体数の変化と関係があるかもしれない。

 カルスから条件によって苗条あるいは根などの器官が個別に形成される点は植物の特徴で,動物細胞の培養の場合と異なっている。たとえば,タバコの髄細胞から得たカルスを濃度の異なったカイネチンを含む培地上で培養すると,濃度によって,根だけ,あるいは苗条だけを再分化させることができる。スチュワードF.C.Stewardは,1958年ニンジンの形成層から得たカルスを用いて,1個の培養細胞から完全な個体を再生させることに成功し,植物細胞の全能性totipotencyを立証した。この実験では,細胞が分裂をくり返してできる細胞集塊から,まず根が形成され,それを異なった培養条件下におくと苗条の形成がみられ,苗条と根の間に維管束のつながりが生じた。1個の体細胞から個体が再生されるまでの中間の細胞集塊は不定胚embryoidと呼ばれる。不定胚形成についてはニンジン以外でも数種の植物について観察されているが,形成の条件や機構についてはまだよくわかっていない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カルス」の意味・わかりやすい解説

カルス
Kars

トルコ北東端に位置する都市で,同名県の県都。アルメニアとの国境に近く,アラス川の支流カルス川に沿い,標高 1750mの高原にある。カルス川によって山手の旧市街と南へ延びる新市街に分けられ,セルジューク朝時代の橋で結ばれている。9~10世紀にはアルメニア人のバグラト朝の支配下にあり,カルス県東部に残るアニ遺跡は当時首都であった都市の遺構である(2016世界遺産の文化遺産に登録)。その後セルジューク朝,モンゴル帝国チムール朝の支配を経て,1514年にオスマン帝国に編入された。ロシア帝国と紛争(→露土戦争)が絶えず,1877~78年にはロシアに併合され,1918年にトルコに返還された(→ブレスト=リトフスク条約)。家畜取り引きの中心地で,チーズが有名。粗毛布,カーペットフェルトも産する。重要な軍事基地であり,国内の主要都市とは鉄道,道路で結ばれている。人口 7万8100(2013推計)。

カルス
Carus, Marcus Aurelius

[生]?
[没]283
ローマ皇帝 (在位 282~283) 。ナルボの出身。プロブス帝の近衛長官となり,282年ラエチアで反乱を起し,プロブスが殺されたのち,元老院の承認を求めることなく一方的に即位を通告。ドナウ河畔にクワディ人とサルマチア人を破り,またササン朝ペルシアに進攻,クテシフォンを占領し,さらに前進したが急死した。近衛長官アペルの裏切り,または落雷による死と伝えられる。

カルス
callus

植物体の組織の一部を切り取り,適当な条件で人工培養すると,増殖して無定形の細胞塊ができ,これをカルスと呼ぶ。未分化な状態のカルスにオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンを投与すると,芽や根,胚が分化し,さらに完全な植物体にまで成長させることができる。カルス培養は植物のバイオテクノロジーを支える重要な技術で,そのままでは栽培しにくいランをカルスから培養し,花を咲かせたり,作物の育種にも応用されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルス」の意味・わかりやすい解説

カルス
かるす
callus

かつては、傷ついた植物体の傷口にできる癒傷組織(ゆしょうそしき)のことをいったが、現在では切り取った植物体の一部を、適切な寒天栄養培地上で培養するとき、細胞分裂によって増殖する無定形の細胞の塊のことをいう。カルスが生じることを脱分化といい、植物体のどの組織からもカルスは得られる。継代培養をすれば、カルスは無限に増やすことができる。カルスからは、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンの働きで芽や根を再分化させることができる。

[勝見允行]

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栄養・生化学辞典 「カルス」の解説

カルス

 (1) 植物体の一部を切り取り,植物ホルモンとともに培養すると形成される無定形の細胞塊.本来,植物体を傷つけたときにそこに形成される傷を治そうとする植物体の組織をいった.(2) 皮膚や柔組織の肥厚部.(3) 骨折後,その部分に形成される骨様組織.

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盆栽用語集 「カルス」の解説

カルス

癒合組織のこと。幹や枝の傷ついた部分に盛り上がって発生する細胞集団。分裂・増殖を繰り返し、やがて分化してそれぞれの組織をつくり、活着→癒着→肉巻きとなる。

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世界大百科事典(旧版)内のカルスの言及

【オーキシン】より

…IAAのほかに,ジベレリンやサイトカイニンも単為結実誘起作用を有する。植物の茎や葉の切片を高濃度のIAAや後出の合成オーキシンを含む培地で培養すると,切片から無定形で無方向に増殖する細胞群(カルス)が発生する。この現象を脱分化とよぶ。…

【サイトカイニン】より

…これは細胞が無方向に分裂を行って生じたもので,切り出した切片と異なり,組織化されていない細胞の集まりである。これはカルスcallusとよばれ,この現象を脱分化とよぶ。このカルスを継続的かつ継代的に増殖させるためには,培地に栄養素,オーキシンのほかに,ココナッツミルク,ニシンの精子,酵母の加水分解物などを添加することが必要である。…

【培養】より

… これに対して植物では,分化した植物細胞を適当な培地に移して培養すると脱分化が起こり,細胞分裂を繰り返して無定形の組織塊を生ずる。これをカルスと呼ぶが,カルスの細胞は動物培養細胞と違って,培地に加える植物ホルモンの種類と濃度によって,根あるいは苗条を再分化させることができる。そしてそれから完全な植物体の形成が可能である。…

【薬用植物】より

…これを高等植物に応用したものが組織培養である。高等植物を器官を形成しない状態の植物細胞の塊(カルスという)にしておき,肥料にあたる栄養物質を与えて培養し,このカルスに薬となる物質を直接つくらせようという試みがすすめられている。しかし,カルスは容易には有効物質(元の植物には含有されていた)をつくってくれないばかりか,ときには元の植物にはなかったものを勝手につくり出すことがある。…

※「カルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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