キクガシラコウモリ(英語表記)horseshoe bat

改訂新版 世界大百科事典 「キクガシラコウモリ」の意味・わかりやすい解説

キクガシラコウモリ
horseshoe bat

翼手目キクガシラコウモリ科キクガシラコウモリ属Rhinolophusに属する哺乳類の総称,またはそのうちの1種を指す。顔の中央にキクの花に似た皮膚のひだがあるのでこの名がある。旧世界だけから知られ,ユーラシア,アフリカ,オーストラリアの亜熱帯熱帯に分布し,約70種がある。日本には体長4.2cmほど,前腕長3.8cmほどの小型のコキクガシラコウモリR.cornutus,体長4.5cm,前腕長4.3cmほどの中型のイリオモテキクガシラコウモリR.imaizumii,体長6.7cm,前腕長6.1cmほどの大型のキクガシラコウモリR.ferrumequinumの3種がいる。コキクガシラコウモリは国内では北海道から本州,四国,九州を経て奄美大島まで,キクガシラコウモリは同じく屋久島まで,イリオモテキクガシラコウモリは石垣島,西表島に限産する。耳珠がなく,顔の真ん中に前,中,後に分かれた鼻葉が発達する。乳を分泌する乳頭のほかに乳腺がなく幼子が付着するための擬乳頭が下腹部にある。翼は幅広く,第2指に指骨を欠く。上の門歯は軟骨様の前顎骨の先端にあり,まったく機能をもたない。

 洞窟廃坑用水路樹洞,ときに人家内に数頭から20頭くらいですむが,ときに何千頭の大群をつくることがある。夕刻,ねぐらを離れ,甲虫,ガなどの昆虫をさがして食べる。暗やみの中で超音波を発しながら食物をとらえ,満腹して夜明けにねぐらに戻る。温帯にすむものは冬眠をする。交尾期は冬眠に入る前の秋で,妊娠期間は70~84日,6月下旬から7月上旬で1産1子。子は無毛で,閉眼である。コキクガシラコウモリは幼子だけが集まって群れをつくり,親は単独で採食にでる。一方,キクガシラコウモリの幼子は群れをつくらず,かなり大きくなるまで親についている。したがって,親は子を伴って採食にでる。なお,イリオモテキクガシラコウモリの育児法はまだ明らかでない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キクガシラコウモリ」の意味・わかりやすい解説

キクガシラコウモリ
きくがしらこうもり / 菊頭蝙蝠
horseshoe bat

広義には哺乳(ほにゅう)綱翼手目キクガシラコウモリ科に属する動物の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Rhinolophidaeの仲間は、ユーラシア、アフリカおよびオーストラリアに分布する。1属69種からなり、最古の化石はヨーロッパの始新世から知られる。種のキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinumはユーラシアとアフリカに分布し、日本では北海道から屋久島(やくしま)まで生息する。前腕長59~62ミリメートル、頭胴長62~73ミリメートル。顔に鼻葉をもち、耳介の先はとがり、耳珠を欠き、迎珠が顕著で、尾膜、翼が幅広い。鼻葉は馬蹄(ばてい)状の前部、三角状の後部、鞍(くら)状の中部の3部に分かれる。胸郭は頑丈で、前顎骨(ぜんがくこつ)は軟骨状で周りの骨から遊離する。洞窟(どうくつ)、廃坑、まれに人家などに普通単独か数頭、ときに100頭ほどの群れですむ。低空をゆっくり飛行しながら、コガネムシなどの大きい昆虫を捕食する。初夏に1子を産む。赤裸で生まれた新生子は、毛が生えて親の3分の2大になるまで親の胸に絶えず抱かれており、コキクガシラコウモリR. cornutusのように幼児集団をつくらない。

[吉行瑞子]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キクガシラコウモリ」の意味・わかりやすい解説

キクガシラコウモリ
Rhinolophus ferrumequinum; greater horseshoe bat

翼手目キクガシラコウモリ科。体長5~7.5cm,前腕長5~6.5cm。体はココア色。鼻部に鼻葉があり,耳は比較的大きい。下腹部に乳を分泌しない擬乳頭があり,母親が子供を抱いて飛ぶときに子供がぶらさがるのに使われる。虫食性。冬季は洞窟,トンネル,用水路,廃坑などに,普通単独かまたは5~6頭,ときには大群で,後肢の爪でさかさまにぶらさがって冬眠する。ユーラシア大陸,アフリカ北部,日本全国に分布する。また日本には,本種に形態,生態ともによく似るコキクガシラコウモリ R. cornutusも分布する。

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百科事典マイペディア 「キクガシラコウモリ」の意味・わかりやすい解説

キクガシラコウモリ

翼手目キクガシラコウモリ科の哺乳(ほにゅう)類。体長7.3cmほど。体毛は絹状で柔らかく,赤褐色。ユーラシア大陸に分布し,日本では全国に産する。樹洞や岩穴に群集し,夜飛び出して甲虫,ガ,ハエなどを食べる。冬季,洞穴などに群をなして冬眠する。1腹1子。
→関連項目コウモリ

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