日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロフツ」の意味・わかりやすい解説
クロフツ
くろふつ
Freeman Wills Crofts
(1879―1957)
イギリスの推理作家。アイルランドのダブリンで生まれ、北アイルランドで育った。17歳から鉄道会社の技師として勤務生活を送る。1919年に大病に倒れたが、その回復期に40歳で書き上げた処女作『樽(たる)』(1920)が評判を得て代表作となった。この年には、アガサ・クリスティが処女作『スタイルズ荘の怪事件』を発表している。彼は鉄道技師の職を辞す29年までにも毎年1作ほどの割で創作を続け、その間それぞれ違う探偵が活躍するが、『フレンチ警部最大の事件』(1924)以降、探偵はフレンチ警部Inspector Frenchに定着した。いわゆる天才型の探偵でないフレンチ警部は、ひたすら丹念に足でデータを集め、積み重ね、捜査の網を狭めていく。したがって彼が得意とするところは、時刻表などをもとにするアリバイ・トリックの打破で、『マギル卿(きょう)最後の旅』(1930)などもその好例である。しかし『スターベル事件』(1927)のようにアリバイ崩しのない構成の妙を主眼にしたものや、『クロイドン発12時30分』(1934)のように逆に犯人の目から事件をとらえた倒叙推理など、即物的な描写と展開のなかでプロットの組立てに才をみせる妙手であった。
[梶 龍雄]
『田中西二郎訳『フレンチ警部最大の事件』(創元推理文庫)』▽『大久保康雄訳『クロイドン発12時30分』(創元推理文庫)』▽『橋本福夫訳『マギル卿最後の旅』(創元推理文庫)』