改訂新版 世界大百科事典 「ケイ(珪)酸塩鉱物」の意味・わかりやすい解説
ケイ(珪)酸塩鉱物 (けいさんえんこうぶつ)
silicate mineral
ケイ素Siと酸素Oを主成分とする鉱物で,岩石の主要構成鉱物である。各種のケイ酸の水素原子を種々の金属原子で置き換えた化学組成を有する。ケイ酸塩鉱物は,ケイ素原子1個とそれを取り囲む酸素原子4個からなるSiO4正四面体がその構造の基本になっている。このSiO4四面体の結合の仕方によってケイ酸塩鉱物は6種類に分類される。図にこれら6種類のケイ酸塩鉱物の名称,SiO4四面体の結合様式および代表的な例を示す。
ネソケイ酸塩nesosilicate(オルトケイ酸塩orthosilicateともいう)では,SiO4四面体は独立して存在し,酸素原子は共有されていない。これらのSiO4四面体の間にMg2⁺,Fe2⁺,Ca2⁺などの陽イオンが入り四面体を結びつけている。
ソロケイ酸塩sorosilicateでは2個のSiO4四面体が1個の酸素原子を互いに共有して連結している。
サイクロケイ酸塩cyclosilicate(環状ケイ酸塩ring silicateともいう)ではSiO4四面体が2個の酸素原子を互いに共有して連結し環を作っている。一つの環をつくる四面体の数は3,6,12などである。
イノケイ酸塩inosilicate(鎖状ケイ酸塩chain silicateともいう)では,SiO4四面体が2個の酸素原子を共有して無限に連なり,一次元の長い鎖を作っている(例えば輝石)。鎖が2本互いに平行に連結しているもの(角セン石)もある。鎖と鎖との間にはCa2⁺,Mg2⁺,Fe2⁺,Al3⁺などの陽イオンが入り,鎖を互いに結びつけている。しかし,その結合力はSi-Oの結合力より弱いため,鎖と鎖との間が切れやすい。これが鎖の延長方向(c軸方向)に平行なへき開が生じやすい原因である。
フィロケイ酸塩phyllosilicate(層状ケイ酸塩sheet silicateともいう)では,SiO4四面体が3個の酸素原子を互いに共有して無限に連なっており,二次元的な平らな層状構造を作っている。多くのフィロケイ酸塩鉱物は含水鉱物であり,SiO4の形成する層と層の間に水素原子が入り水酸基OHを作っている。また種々の陽イオンも入って層と層とを結びつけている。しかしこの結合力はSi-Oの結合力より弱いため,Si-Oよりなる層と層の間が裂けやすい。これが雲母などが薄くはがれやすい原因である。
テクトケイ酸塩tectosilicate(網状ケイ酸塩network silicateともいう)では,SiO4四面体が4個の酸素原子すべてを互いに共有して無限に連なっており,三次元的な網状構造を作っている。ただし長石のように,SiO4のSiの一部をAlが置換しているものも多い。
ケイ酸塩鉱物のほとんどのものは固溶体を作る。すなわち,ケイ酸塩鉱物の基本的な構造は変化せずに陽イオンどうしがその量比を連続的に変化させる。最も普通に見られるものはMg2⁺とFe2⁺が置換するものである。例えば,カンラン石はMg2SiO4とFe2SiO4との間の固溶体である。その他Na⁺とK⁺,Ca2⁺とMg2⁺とFe2⁺,Al3⁺とFe3⁺などの置換,および2種の陽イオンどうしの置換,例えばMg2⁺・Si4⁺と2Al3⁺やCa2⁺・Mg2⁺とNa⁺・Al3⁺などがある。
ケイ酸塩鉱物は地球上のほとんどすべての岩石やそれが風化して生じた土壌,および月の岩石や隕石の主要構成鉱物である。これは太陽系に存在する元素の中でケイ素と酸素の占める割合が大きいことによる。ただしケイ酸塩鉱物は超高圧下では相転移したり,あるいは分解したりして上記のようなケイ酸塩鉱物の特徴的な構造を失い,酸化鉱物などの構造になる。したがって地球深部(マントル中部,下部)ではケイ酸塩鉱物は存在しない。
執筆者:久城 育夫
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