しか(読み)シカ(その他表記)deer

翻訳|deer

デジタル大辞泉 「しか」の意味・読み・例文・類語

しか[係助・終助]

[係助]名詞、名詞的な語、動詞の連体形、形容詞・形容動詞の連用形、一部の助詞・助動詞などに付く。打消しの語を伴って、特定の事柄以外のものを全く否定する意を表す。「この道を行くしかない」→きりだけ
[補説]近世以降用いられ、限定の助詞に付けて「きりしか」「だけしか」「ほかしか」「よりしか」の形で、「しか」を強めていう場合もある。
[終助]自己の願望を表す。…たいものだ。→てしがにしが
「まそ鏡見―と思ふいもも逢はぬかも玉の緒の絶えたる恋の繁きこのころ」〈・二三六六〉
[補説]過去の助動詞「き」の已然形からとか、あるいは連体形「し」に終助詞「か」が付いてできたものとかいわれる。上代では「か」は清音であったが、後世「しが」になった。「しか」だけで用いられることはまれで、多くは「てしか」「にしか」の形で用いられた。

し‐か[連語]

[連語]《副助詞「し」+係助詞「か」》「いつ」「たれ」「なに」などの疑問語に付いて、疑問の意味をさらに強める意を表す。
「玉くしげいつ―明けむ布勢ふせの海の浦を行きつつ玉もひりはむ」〈・四〇三八〉

しか[助動]

[助動]《過去の助動詞「き」の已然形》⇒[助動]

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精選版 日本国語大辞典 「しか」の意味・読み・例文・類語

しか

  1. 〘 終助詞 〙 自己の動作に関する願望を表わす。「てしか」「にしか」の形で用いられることが多い。…したい。
    1. [初出の実例]「過無くも仕へ奉らしめて志可(シカ)と念ほしめして」(出典:続日本紀‐天平神護元年(765)閏一〇月二日・宣命)
    2. 「なかなかに人とあらずは酒壺になりにて師鴨(シかも)酒にしみなむ」(出典:万葉集(8C後)三・三四三)

しかの語誌

( 1 )すでに上代においても動詞連用形に直接付く例は限られ、助動詞「つ」の連用形「て」に付いた「てしか」の例が多い。中古には、「しか」が付く場合にも、助動詞「つ」「ぬ」が使い分けられて、「にしか」の例も生じる。
( 2 )語形については、中世以後も「古今訓点抄」などに「てしか」と清音に読んだ例が知られるが、近世以降、一般には「てしが」「にしが」と「か」は濁る形で読まれている。


し‐か

  1. ( 助詞の「し」と「か」とがかさなったもの ) 「いつ」「たれ」「なに」などの疑問語に付いて、疑問の意味をさらに強める。下にさらに助詞「も」の付くことが多い。→いつしかなにしか
    1. [初出の実例]「いつ之可(シカ)病止(い)えて参り入り来、朕が心も慰めまさむと」(出典:続日本紀‐天応元年(781)二月一七日・宣命)
    2. 「秋さらばあひ見むものを何之可(シカ)も霧に立つべく嘆きしまさむ」(出典:万葉集(8C後)一五・三五八一)

しか

  1. 〘 副詞助 〙 体言・活用語の連体形・形容詞の連用形・格助詞・副助詞等をうけ、下に打消の語を伴う。肯定し得るものをそれだけと限定し、それ以外のものを否定する。
    1. [初出の実例]「おいらがつかいこんででもいるとしかおもはねへはナ」(出典:洒落本・角雞卵(1784か)後夜の手管)
    2. 「意識界が言語によってしかお互いのメッセージを通じ合せられないのとは異って」(出典:雲のゆき来(1965)〈中村真一郎〉一二)

しかの補助注記

まれに打消の語を伴わない例もある。「日本の下層社会〈横山源之助〉日本の社会運動」に「明治二十五年は僅に大約九百九十七万七千貫しかの産出にして」など。


し‐か

  1. 〘 名詞 〙 ( 「しかけ(仕掛)」の略 ) 計略。策略。
    1. [初出の実例]「ようも今迄うぬが女房を妹にして、此家主をよくもしかにかけやあがったな」(出典:歌舞伎・御摂勧進帳(1773)二番目)

しか

  1. ( 過去の助動詞「き」の已然形 ) ⇒助動詞「き」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「しか」の意味・わかりやすい解説

シカ
しか / 鹿
deer

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目シカ科に属する動物の総称。この科Cervidaeの仲間は、枝角(えだづの)をもち反芻(はんすう)する偶蹄類で、南北アメリカ、ユーラシアに広く分布する。

増井光子

形態

シカ類は体長約30~310センチメートル、肩高約20~235センチメートル、小形種から大形種まであるが、その一般的特徴は次のようである。指趾(しし)数は第1指を欠く4本で、第3・第4中手骨および中足骨は癒合して管骨となり、第2・第5指趾は退化して地につかず、ひづめも小さくなって側蹄をなす。上顎(じょうがく)に門歯はなく、上顎犬歯はジャコウジカキバノロ、キョン類では牙(きば)状となっている。下顎犬歯は門歯と並び、形態も門歯状である。頬歯(きょうし)(前臼歯(ぜんきゅうし)と後臼歯の総称)の咬合(こうごう)面には三日月形の隆起をもつ。歯式は

で合計34本。消化管では、腸管は長くヤクシカでは体長の約11倍、胃は4室に分かれ反芻する。キョン類の前頭腺(ぜんとうせん)、ニホンジカの中足腺や眼下腺など、顔面や脚部に臭腺をもつ。それらからの分泌物は草木などにこすりつけられて、同種間の化学的情報伝達手段として用いられる。

 雄がもつ枝分れした角は、シカ類の大きな特徴の一つであるが、ウシ類の角とは大きく異なる。シカ類の角は基部の角座より毎年1回脱落し、その跡にふたたびビロード状の短毛で覆われた皮膚をかぶった袋角(ふくろづの)を生じる。袋角は血流に富み、傷つくと形が変わるため、シカはそれを傷つけないようにしている。やがて角の発育が止まり角化が完了すると、樹木などにこすりつけ皮膚をはがす。角の大きさと犬歯の牙状発達とは関連があるようにみえる。長大な牙をもつジャコウジカ、キバノロは角をもたず、キョン類では角はあっても短い。ただし、南アメリカに分布するプーズーマザマジカ類のように、角が小さいのに犬歯の発達も悪く、上顎犬歯を欠くものもいる。また、体のバランスと角の重量にも相関関係があるようで、後肢に負傷し荷重困難になった場合は、その対角線上の角の発達が悪くなる傾向がある。

[増井光子]

分類

シカ類の分類は学者により多少相違がある。大英博物館のコーベットG. B. CorbetやヒルJ. E. Hillらによれば、シカ科14属34種のほかにジャコウジカ科1属3種に分けているが、今泉吉典(いまいずみよしのり)(1914―2007)によるとジャコウジカ類も含むシカ科はさらに詳細に分類され、7亜科11属51種に増加する。

 なお、狭義にシカという場合には、日本産の種であるニホンジカCervus nipponをさす。次にその特徴を述べる。

[増井光子]

ニホンジカの形態と生態

ニホンジカはニホンジカ亜属に含まれ、近縁の種にはタイリクジカ、タイワンジカ、ツシマジカなどがある。ツシマジカは対馬(つしま)産で、九州産のニホンジカよりは大きい。北海道産のエゾシカはタイリクジカの亜種で体重90キログラムに対し、4枝でなく5枝の角をもつものがときにある。ニホンジカはホンシュウジカ、キュウシュウジカ、ヤクシカ、マゲシカ、ケラマジカなどの亜種に分けられる。体格は南下するほどに小さくなり、ホンシュウジカではほぼ60キログラム、ヤクシカでは30~50キログラムとなる。角は一般に4枝であるが、ヤクシカでは3枝しかない。

 生息環境としては林縁によくみられ、採食地としての開けた草原や低木林、避難所としての林が存在する所、山地の急斜面よりは平坦(へいたん)地や緩やかな傾斜地のほうを好む。季節による生息地の移動が認められ、積雪が多いと行動が妨げられ、餓死する場合もある。日常活動では、早朝・薄暮型の活動を行い、日中は木陰に入って休息、反芻していることが多く、夜間も休息をとる。危険が迫ると足を高くあげた高踏歩様をし、特定の個体がピヤッという警戒音を発すると、一斉に跳躍して逃走に移る。このとき尾の周辺の白毛を四方に大きく開くが、これは仲間に危険を知らせる視覚信号とみなされる。餌(えさ)は草、若芽、葉などで、採食地に多数が集まって餌場集団を形成することがある。生息数の多い所では、植生は採食の影響を受け、樹冠部が剪定(せんてい)されたようになり、独特の景観を示す場合がある。

[増井光子]

ニホンジカの社会構造

ニホンジカの社会は、基本的には母子群、雄群、発情期の一時的な雌雄混合群からなる。

 出産期は4~7月で、最盛期は5、6月。分娩(ぶんべん)が近づくと雌親は前年出産した子を追い払い、1頭で茂みを選ぶ。1産1子。新生子には白斑(はくはん)があり、しばらくは茂みに隠れ、親が授乳に通うため、雌親以外との社会的接触はほとんどない。産後2か月ぐらいたつと、子は雌親について歩くようになり、しだいに雌グループの集まりの中に入っていく。そこでは、当歳の幼獣どうしで集団をつくることが認められる。こうした集団の存在は、シカ類以外のオリックスやキリンでも認められる。また、出産期に一時追い払われた前年子の雌がふたたび雌グループ内の母親に合流し、一つの家族群を構成するのも認められる。

 雄の子は翌年の夏ごろまで母親のもとにとどまっているが、やがて家族群を出て雄群に入っていく。雌の家族群では年長の雌がリーダー的役割を果たすが、雄の集団はまとまりも緩く、メンバーは不定で、明瞭(めいりょう)なリーダーは認められない。雄群は非発情期に出現率が高く、発情期になると分散する。これは、発情期の雄群は、存在しても若齢個体からなり、成獣の雄は単独行動かハレムを形成しようとするものが多くなり、非発情期では逆に成獣の雄群内加入が増加するためである。したがって雄群は、その年齢構成においても発情期と非発情期では差がみられる。

 発情期は9~11月ごろで、それに先だって8月下旬より雄の袋角は角化し、しきりに茂みに角を突き入れたり、樹幹でこすったりして皮膚をはがしだす。さらに特定の地面に穴を掘り、土をこねては角で体にかき揚げて泥を浴び、地に伏して体をこすりつけたりするようになる。このため、後躯(こうく)、とくに内股(うちまた)は泥で黒褐色となり湿潤する。強力な雄はほかの雄と争って場所を確保し、通りかかる雌を囲い込もうとする。この時期の雄は、3節からなる大きな叫び声をしばしば発する。

[増井光子]

人間生活との関連

古来シカ類は狩猟獣として主要な位置を占めてきた。肉、皮を利用するのもさることながら、みごとな角をもつ頭部が装飾品として高い価値をもつせいもあると思われる。シカ類の繁殖率は低いものではないが、狩猟による圧迫がきついとその率は減少する。しかし逆に生息数が多すぎれば植生への悪影響が出ることも否めず、両方の状態の調節がむずかしい。

 現在わが国のニホンジカについては、雄ジカは狩猟獣として捕獲を認められており、2002年(平成14)には全国で6万2333頭が捕獲された。雌ジカは原則捕獲禁止であるが、個体数の増加抑止のため規制が緩和され狩猟が認められている地域もある(同年の雌ジカ捕獲数は3万3026頭)。またこれとは別に、動物による被害のとくに著しい地方に認められる有害鳥獣駆除の申請により、同年には雄1万4069頭、雌1万0233頭が捕獲されている。

[増井光子]

食品

シカ肉は日本はもちろん中国やヨーロッパでも昔から珍重されてきた。日本ではすでに仁徳(にんとく)天皇の時代に、シカ肉が献上されたということが『日本書紀』に記録されている。

 1787年(天明7)刊の『食品国歌』(大津賀仲安著)には、生き血を乾燥して強壮剤となると書かれているところから、薬用もにされていたらしい。肉の代名詞として「しし」とよばれたのは、のちにはイノシシとなったが、古くはこのシカ肉であったといわれる。

 シカ肉のおいしい時期は夏の終わりから秋にかけてであるといわれている。肉は脂肪が少なく淡泊で味がよい。市場には飼育したものや冷凍、真空パックした輸入品などが出ている。

 調理法としては、野菜との鍋物(なべもの)、焼き肉、汁物などがある。一種の野臭があるので、これを消すために、みそに一夜漬けてから調理するとよい。シカ鍋は、シカ肉を主材として、焼き豆腐、ゴボウ、ニンジンなどを取り合わせ、煮ながら鍋を取り囲んでつつく。つけ焼きは、青竹の串(くし)に肉片を刺し、みりんとしょうゆをあわせた汁をつけて照焼きにする。みそ煮は、一度肉を油炒(あぶらい)りしてから、みそに少量の砂糖を加え、煮ころがしてつくる。西洋料理では、ステーキ、ロースト、香味焼き、ソース煮込みなどにされる。

河野友美・大滝 緑]

民俗

シカは古くはシシ、カノシシともよばれ、往時村里近くに出没しては人々と深い関係を重ねてきた。秋田県男鹿(おが)半島や、マレビト(客人)信仰を伝える山形県の女鹿(めが)村(現、遊佐(ゆざ)町)、茨城県鹿島(かしま)郡など、シカにちなむ地名も少なくなく、海上からシカの背に乗ってたどり着いたという寄神信仰(よりがみしんこう)を伝える所もある。シカはその体内に生じるという鶏卵大の玉を、角(つの)から角へと渡しかけて玉遊びに興じるともいわれ、古くから奈良の春日大社(かすがたいしゃ)や広島県の厳島神社(いつくしまじんじゃ)などでは、神使(つかわしめ)とされて神聖視された。

 野獣のなかでもとりわけ狩りの対象とされ、中世には武将によって大規模なシカ狩りが行われた。矢声(やごえ)で立ち止まる習性を利用して射止めるとか、シカアナを設けて生け捕りにする陥穽(かんせい)猟法などが広く民間にも伝わる。また皮が武具などに利用されるほか、肉、骨、角なども重宝がられ、害獣をとらえて豊作祈願をなそうとする一面もあったと思われる。

 古代盛んになされた鹿占(しかうら)の伝統は、群馬県富岡市の一之宮貫前神社(ぬきさきじんじゃ)や東京都青梅(おうめ)市の御嶽神社(みたけじんじゃ)の神事に継承されている。一之宮貫前神社では、焼き錐(ぎり)でシカの肩甲骨(けんこうこつ)を貫き、生じたひび割れによって吉凶を占う。愛知県の三河高原ではシカウチ行事が5か所に現存するが、スギの枝葉やササダケなどを束ねてつくった雌雄2匹のシカに見立てた的を射つ点が共通している。この神事は年頭に際して行われることから、予祝儀礼ないし年占(としうら)の性格をもつことはいうまでもない。岩手県や宮城県、愛媛県などには鹿踊りが広く分布する。おとり笛に使われる鹿皮製の鹿笛のほか、富山市では売薬の調合にシカの角製のすりこぎを使うという。

[天野 武]

民話・伝説

シカは代表的な狩猟獣として神話に現れている。ギリシア神話の野獣を支配する狩猟の女神アルテミスはシカを追う弓の名手とされ、その怒りを買った猟師のアクタイオンはシカの姿に変えられて、自分の猟犬に引き裂かれて死ぬ。北シベリアではおおぐま座のことを「シカ」とよび、ハンティ(オスチャーク)人はこの星座に、1頭のシカと3人の猟師の姿をみる。サハ人にも、シカを追って天にまで達した猟師の伝説があり、サモエード人では北極星はシカを射る猟人であるという。また北海道のアイヌは、シカは、神が天上でウサギ狩りをするときの猟犬であり、その毛は真っ白でりっぱな角(つの)をもっていたと伝える。白いシカを神聖視する伝承は中国にもあり、梁(りょう)代の『述異記』には、500年あるいは1000年を経ると白シカになるとある。東アジアにはシカが生んだ娘の物語がある。シカが仙人の小便をなめて懐妊し、女子を生むという話で、中国の元魏(げんぎ)代(北魏)の漢訳経典の『雑宝蔵経(ぞうほうぞうきょう)』などにみえ、類話は朝鮮や日本にもある。

[小島瓔

文学

『日本書紀』仁徳(にんとく)天皇の巻や、『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』餝磨(しかま)郡の条など、上代の文献に早くからみえ、『万葉集』には60例ほど、「小牡鹿(さをしか)」「牡鹿(をじか)」などとも詠まれ、「我が岡に小牡鹿来鳴く初萩(はつはぎ)の花妻どひに来鳴く小牡鹿」(巻8、大伴旅人(おおとものたびと))のように、妻を恋うて萩のもとで鳴くと類型化され、萩そのものが鹿の花妻とも考えられていた。『古今集』の用例は10例だが、類型はそのまま継承され、「秋萩の花咲きにけり高砂(たかさご)の尾上(をのへ)の鹿は今や鳴くらむ」(秋上、藤原敏行(としゆき))などと詠まれ、『百人一首』で有名な「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」も萩の下葉の紅葉を詠んだものともいう。山里の景物として、『源氏物語』では、北山、小野、宇治などの場面にしばしば登場する。俳諧(はいかい)の季題は秋。

[小町谷照彦]

『川村俊蔵著『全集日本動物誌19 奈良公園のシカ』(1983・講談社)』『高槻成紀著『北に生きるシカたち――シカ、ササそして雪をめぐる生態学』(1992・どうぶつ社)』『平林章仁著『鹿と鳥の文化史――古代日本の儀礼と呪術』(1992・白水社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「しか」の意味・わかりやすい解説

シカ (鹿)
deer

偶蹄目シカ科Cervidaeの哺乳類の総称。北アメリカから南アメリカ,ユーラシア,北アフリカ(エチオピア区を除く)に分布し,13属約41種がある。体の大きさはアンデス,チロエ島などに分布するプーズー(体長78~93cm,尾長2.5~3.5cm,体高32~42cm,体重7~10kg)から,ユーラシアと北アメリカの北部に分布するヘラジカ(体長240~310cm,体高140~235cm,体重200~825kg)まである。体はほっそりとして四肢が長く,キバノロを除けば雄は骨質の枝角をもつ。枝角は年1回角座から脱落し,その後に新しい角が生ずる。初めは皮膚に覆われた袋角で,血管に富み柔らかいが,成長するにつれカルシウムが沈着して固くなり,やがて皮膚がはげ落ちて完成する。上あごの犬歯はふつう小さいか,またはないが,無角のキバノロや角の小さいキョンなどでは長大なきばに発達する。下あごの犬歯は切歯と同形で切歯に接している。臼歯(きゆうし)はふつう歯冠部が短い短歯で,繊維の多い草を食べるのにはウシ科の動物ほど適していない。胃は4室に分かれ,第三胃が大きく,胆囊がない。中手骨と中足骨は第3と第4が合一して管骨となり,第2と第5は一部だけが残っている。多くは目の前下方に眼下腺,指の間に蹄間腺,その他の臭腺をもつ。

 生息地は森林,湿地,荒れ地,砂漠,ツンドラなど変化に富む。植物食で柔らかい草,樹皮,小枝,若芽などを食べる。多くは群れで生活し,季節的な移動をするものでは,そのとき大群となる。繁殖期には雄どうしが闘い,雌を獲得するが,多くの雌を従えてハレムを形成するものもある。妊娠期間はノロでは約10ヵ月に達する。ふつう1腹1子,ときに2子,まれに3~4子を生むものがある。

 大別して二つの系統がある。一つは第2と第5中手骨の下部だけが残るもので,キバノロ亜科(キバノロ),オジロジカ亜科(マザマジカパンパスジカオジロジカノロ),ヘラジカ亜科(ヘラジカ),トナカイ亜科(トナカイ)がこれに属する。他は,中手骨の上部だけが残っているもので,キョン亜科(キョンマエガミジカ)とシカ亜科(シフゾウダマジカターミンジカスイロクアカシカホッグジカ,ニホンジカなど)がこの群に属する。ジャコウジカは前群に似るが,他のシカと違って胆囊や麝香(じやこう)腺があり,眼下腺がないなど特殊な点があるので,ここでは独立の科とみなした。

 狭義のシカは,シカ属シカ亜属Sika(英名sikadeer)に属する中~小型のものの総称。角には枝が4本あり,少なくとも夏毛には胴に白い斑点があり,しりの白い部分は毛を逆立てて広げることができる。東アジアの特産で,中国,ウスリー,北海道のタイリクジカ,台湾のタイワンジカ,本州,四国,九州などのニホンジカ,対馬のツシマジカの4種がある。中国では絶滅に近づいているが,ヨーロッパなどに野生化したものは増えつつある。
執筆者:

鹿は日本列島には古くから多数生息したらしく,縄文時代の遺跡から,食用にした痕跡として骨や角が多く出土するほか,道具として加工されたものも少なくない。毛皮は衣服用となったと推察され,近世に至るまで山仕事,狩りに際していばらや切株から下半身を保護する袴として使用された。銅鐸などの絵にも鹿が描かれている。古語でカと総称し雄をシカ(セ=夫),雌をメカと呼んだ。その肉に特有の香りがあるためという説もある。カセギ,カノシシ(香の宍=肉)とも呼ばれた。猪やウサギとともに野獣の代表として,牛馬など家畜肉の食用が忌まれた民間仏教流布の時代にも,その肉の利用は一般に承認されたが,鹿を神使とする信仰もあって,奈良の春日大社などこれを神聖視する神社や,また肉食を忌む社寺では鹿肉食をケガレとして禁じたところもある。そのような土地では鹿が住民になれて野生のまま養われてきた。奈良公園をはじめ厳島神社,金華山神社などがよく知られる。

 比較的疎開した林地に生息するため人里近い山野に現れ,とくに初秋の交尾期に鳴きかわす声が人に親しまれ,古来多くの吟詠の題材とされ,また画題ともなっているほか,その雌雄のたわむれる様から思いついたとみられる鹿踊(ししおどり)が東日本各地,ことに東北地方の民俗芸能に多いことが注目される。そして鹿踊が鎮魂の意味で興行されたらしいことは,空也らの聖(ひじり)が鹿の角をつけた杖をもち鹿の皮ごろもをまとう装束をしていたこととかかわるように思われる。

 鹿は農作物を荒らす害獣でもあったので,その防除は領主にとっても重要であり,その駆除のための大規模な巻狩は,それが戦闘武技の訓練ともなったので,近世まで武家の行事となっていた場合もまれでない。その獲物は武具の一部ともなったのである。鹿の巻狩は狩場となる場所にさくや土手を設け,多数の勢子を動員して鹿を各所からそこへ追い込み,待機する領主や武士たちがこれを射止める方式である。これは農民にとっては大きな負担であったが,各藩や幕府の将軍のうちには大規模な巻狩を試みた者もまれではなく,その獲物のうち鹿は最多数を占めて,ときには一度の狩りに数百頭以上に及ぶ記録も残っている。中世には狩りとは鹿に限っていうことばであるという記事さえ見られ,鹿と人とのかかわりはきわめて大きかった。
執筆者:

捕獲しやすく,かつ,美味のゆえであろう,日本人は古くから鹿を好んで食べたようで,縄文遺跡の出土例でも鹿は猪を上回って,哺乳類中の最多を示している。《延喜式》には2月,8月の釈奠(せきてん)祭の料として,干肉,塩辛のほか,羹(あつもの)などに用いる肉や内臓の名が見え,《今昔物語集》巻三十には〈煎物ニテモ甘シ,焼物ニテモ美キ奴〉ということばがあり,平安期以降おおむねそうした食べ方がされていたようである。江戸後期の儒学者羽倉簡堂の《饌書》によれば,鹿は冬が美味で,胸肉がもっともよく後肢がこれにつぐとされ,料理としてはすき焼風のなべ料理が歓迎されるようになっていた。なお,鹿の角,とくに袋角は鹿茸(ろくじよう)といって薬用とされた。鹿茸は粉末にして眼科に用いるとされるが,補精強壮剤にもされたようである。通常の角は黒焼きにしてニンジン,ニッケイを加えて産後の血の道によいとされた。《延喜式》には鹿茸,鹿角が薬種として貢納されたことが見えている。
執筆者:

鹿は先史時代から好んで狩りの対象にされ,その角や骨は種々の生活用具に使われた。スウェーデンのボフスレンの青銅器時代の岩絵には多くの鹿の絵が見られ,なかには日輪車を引いているものもある。ギリシアでは狩りの女神アルテミス(ローマのディアナ)の神聖な動物で,この女神は鹿を守護し,鹿の供犠を受ける。この供犠は小アジアではよく知られていたらしく,鹿の姿はアルテミスと結びついて花瓶や貨幣の上によく見られる。鹿狩りは古代ギリシアの狩人の最大の楽しみであった。若鹿の肉は食用として珍重され,血と髄は薬や化粧用に,骨は楽器に,皮は敷物や袋に使われた。角はとくに治癒力をもつとされ,御守にしたり,削って薬にした。北欧神話では宇宙樹イグドラシルから葉や若芽をむしって食べる牡鹿のことが出てくる。北欧独特の動物組紐文様の中に鹿は竜や馬などとともによく現れる。鹿はそのしなやかで美しい姿態,優美な動きと機敏さ,美しい目などからして,古くから神の使いとされ,またさっそうとした若武者にたとえられた。〈エッダ〉では英雄シグルズ(ドイツではジークフリート)が〈獣の間にすらりとした鹿が立ったよう〉と表現されている。

 鹿はまた民間の信仰や習俗,歌や民芸でも重要な役割を果たしている。聖人エウスタキウスが,角の間に光り輝く十字架をつけた鹿のビジョンを見てキリスト教に改宗したという伝説はとくに有名である。ヘッセンやザクセンの伝説では白鹿は死の使いとされている。鹿の角は家の破風にとりつけて魔よけにされ,ウィーンのシュテファン教会では雷よけとして塔につけられていた。つめと歯は御守になり,脂,血,皮,角は民間医薬に広く使われ,性欲が強いとされる牡鹿の尾や精液は不能や不妊をなおす薬とされた。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「しか」の意味・わかりやすい解説

シカ(鹿)【シカ】

偶蹄(ぐうてい)目シカ科の哺乳(ほにゅう)類の総称。雄は骨質の枝のある角(枝角)をもつ。角は毎年春に落ち,すぐ柔らかい皮で包まれた袋角を生じ,秋の初め皮がはげ落ちて堅い角が現れる。草食性で反芻(はんすう)胃をもつ。ヨーロッパ,サハラ以北のアフリカ,アジア,南北アメリカに分布。一般に群生し,性質は温和。皮革は柔らかく丈夫で,肉は美味,角は工芸用材とするなど狩猟獣としてすぐれる。アカシカキョン,オジロジカ,キバノロ,ヘラジカ,トナカイなど種類が多く,13属41種が知られる。ニホンジカは肩高58〜99cmほど。夏毛は茶褐色で白斑をもつが,冬毛はオスは濃い茶色,メスは灰褐色,無斑となる。本州〜屋久島,慶良間諸島,中国東北部,台湾などに分布。山林にすみ,雄は秋に盛んに鳴いて雌を呼び,他の雄と角を突き合わせてたたかい,勝ったものは多数の雌を従えハレムを作る。雌は春〜初夏に1子を生む。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「しか」の意味・わかりやすい解説

シカ
Cervidae; deer

偶蹄目シカ科に属する動物の総称。雄がりっぱな角をもつ種が多い。角は年1回抜け替る。犬歯が発達した牙をもつものもある。反芻胃をもち植食性。最大のものはヘラジカで体長 3m,体重は 800kgをこえる。ジャコウジカ亜科 Moschinae (1属1種) ,ホエジカ亜科 Muntiacinae (3属6種) ,シカ亜科 Cervinae (4属 18種) ,シラオジカ亜科 Odocoileinae (10属 16種) に分類され,ヨーロッパ,アジア,南・北アメリカに分布する。日本にはニホンジカヤクシカなどが生息している。

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普及版 字通 「しか」の読み・字形・画数・意味

華】しか

麻の花。

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瑕】しか

きず。

字通「」の項目を見る


貨】しか

財産。

字通「」の項目を見る


卦】しか

易筮。

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火】しか

烈火。

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【市】しか

まちのやかましさ。

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【糸】しか

くもの巣。

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【矢】しか

やがら。

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【疵】しか

疵瑕。

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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内のしかの言及

【毛皮】より

…さらに鞍(くら)下の敷物,野外休息の敷皮などの用途のほか,鎗(やり)の鞘(さや),刀の鞘などを包むなど用途は広く,クマ,サルの毛皮もうつぼの外装に用いられた。庶民はカモシカの毛皮を腰当,引敷(ひつしき)に用い,雪中の行動には,毛の方を内側にしたクマ,カモシカの毛皮の手袋,足袋が盛んに用いられている。カモシカの毛皮の引敷は水をとおさず温かいので,岩上に座して行をする修験者が古来愛用した。…

【しり(尻∥臀)】より

…大型および中型の哺乳類には臀斑という種特有の毛斑をもつものが多く,逃走するときなどに貴重な情報を送る。シカ類にとくに目立ち,ニホンジカの白い臀斑は黒い側斑に囲まれて鮮やかである。プロングホーンは緊張すると臀斑が逆毛立ち,白い光のような信号を仲間に送る。…

【動物】より

…これは細胞が分泌した硬い物質からなり,脊椎動物の骨のような生きた組織ではない。(a)二次体腔がないもの 〈扁形動物門〉は寄生生活のフタゴムシ,カンテツ,エキノコックス,ジョウチュウなどのほか自由生活のウズムシなど,約1万7000種がある。体制が簡単で肛門がない。…

【ニホンジカ】より

…広義には偶蹄目シカ科シカ属シカ亜属の哺乳類全体を指すが,狭義にはそのうちの1種Cervus nippon(イラスト)だけを指す。 シカ亜属(Sika)は東アジア特産の中型の優美なシカ類で,しりに広げることができる白い部分(尾鏡),後足の中足部の外側に淡色の中足腺があり,成長した角にはふつう3叉がある。…

※「しか」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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