日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャクティ派」の意味・わかりやすい解説
シャクティ派
しゃくてぃは
Śākta
ヒンドゥー教シバ派の一派。性力(せいりき)派と訳されることもある。この派の聖典はタントラとよばれ、7世紀ころから多数編纂(へんさん)された。狭義のタントリズムというのはこの派の教義をさすが、その内容は一定ではない。ただし、シバ神の妃であるドゥルガーないしカーリーを宇宙開展の根本的活動力(シャクティ)とみなして崇拝し、その女神とシバ神の合一を自らの身体において実現し、神通力(じんずうりき)ないし解脱(げだつ)を得ようとする点に共通性がある。大まかに分けて、この派には左道派と右道派がある。左道派は、女神に動植物の犠牲を捧(ささ)げ、輪坐(りんざ)儀礼、呪術(じゅじゅつ)を行う。輪坐儀礼においては、酒、肉、魚、焦がした穀物、性交の五つが享受される。この五つはすべてMを頭文字とするサンスクリット語で表されるため、五M字(五摩(ごま)字)とよばれる。左道派はとくに10世紀ころに栄え、タントラ仏教に影響を与えた。一方、13世紀ころから盛んになった右道派は、特別の儀礼を行わず、身体を宇宙と相同であるとみなし、ヨーガの力でその身体を生理的に操作することによって目的を達成しようとした。
[宮元啓一]