エーレンベルクC.G.Ehrenbergが水中から発見した栓抜き様の形をした微生物に,1838年Spirochaeta plicalilisと命名したのがスピロヘータの名の起りである。現在は,スピロヘータ目Spirochaetalesに属する,細長いらせん状の形態をもつ一群の微生物の総称として,この言葉が用いられる。スピロヘータを分類学上,原虫に所属させるか,細菌に編入させるかについては,議論がある。体長は,4μmくらいから長いものでは500μmくらいに達する。好気性のものと嫌気性のものがある。一般に鞭毛をもたず,細胞壁は薄くて柔軟で,細胞は伸縮とともに,軸の回りに速い回転運動を行う。この運動は,細胞壁と細胞膜の間にあって,菌体を取り巻いている軸索と呼ばれる構造物によって行われる。大型のスピロヘータは水生菌や寄生菌が多いが,小型のスピロヘータは人間や動物の病原菌が多い。ふつう6属に分類されるが,人間に対して病原性をもつスピロヘータは次の3属に含まれる。トレポネマTreponema(梅毒および梅毒様疾患),ボレリアBorrelia(回帰熱),レプトスピラLeptospira(レプトスピラ症)。レプトスピラを除いては,一般に培養は困難である。梅毒の病原菌トレポネマ・パリズムT.pallidumは体長6~15μm,径0.1μmくらいである。
執筆者:川口 啓明
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糸状で屈曲性のある螺旋(らせん)状の単細胞の細菌で、スピロヘータ目の1属。長さ5~250マイクロメートル、幅0.2~0.75マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)で、嫌気性または通性嫌気性である。通常、カロチノイド色素を生産する。細胞壁は柔軟で、細胞は細胞壁の伸縮とともに軸を中心とする非常に速い回転運動を行う。硫化水素を含んだ汚泥や汚水・廃水中に生活し、寄生性はない。化学合成有機酸化生物の一つで、炭水化物を発酵させる性質をもつ。
なお、一般にスピロヘータという場合は、病原性のあるトレポネマ属Treponema(スピロヘータ目の1属)をさして使われるが、分類学的には誤用といえる。トレポネマ属のうち、とくに有名なのが梅毒菌T. pallidumで、この細菌は長さ6~20ナノメートル、幅0.13~0.15ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)とスピロヘータより小形である。また、細胞の先端がとがり、両端に数本の鞭毛(べんもう)がある点もスピロヘータ属の性質と明らかに異なっている。もう一つの大きな相違点は、トレポネマ属が動物に対して絶対寄生性をもつことである。とりわけ、梅毒菌はヒトに対して強い病原性を示す。
[曽根田正己]
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…再帰熱ともいう。ボレリア属Borreliaのスピロヘータが病原体の感染症で,シラミとノミが媒介する2型がある。世界各地に分布するが,日本にはない。…
… 性病は,近代の細菌学の発達によって,それぞれの病原菌が確定されるまでは,正確な区別がなされていなかった。梅毒が他の性病と区別されるようになったのは,1905年にF.R.シャウディンとホフマンErich Hoffmann(1868‐1959)により梅毒トレポネマが発見されて以後のことである(はじめスピロヘータ・パリダと命名,のちにトレポネマ・パリズムと改称)。1910年P.エールリヒ,秦佐八郎によって有機ヒ素剤であるサルバルサンが開発され,初めての化学療法剤として梅毒の治療に用いられたが,治療効果は不十分であり,副作用が多発した。…
※「スピロヘータ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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