ニトロ化(読み)ニトロカ(その他表記)nitration

デジタル大辞泉 「ニトロ化」の意味・読み・例文・類語

ニトロ‐か〔‐クワ〕【ニトロ化】

有機化合物の分子中の水素原子ニトロ基に置換する化学反応ニトロ置換

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精選版 日本国語大辞典 「ニトロ化」の意味・読み・例文・類語

ニトロ‐か‥クヮ【ニトロ化】

  1. 〘 名詞 〙 有機化合物にニトロ基を導入する化学反応をいう。炭化水素の炭素にニトロ基を結合させニトロ化合物をつくるC‐ニトロ化、アルコールの酸素にニトロ基を結合させ硝酸エステルをつくるO‐ニトロ化、窒素にニトロ基を結合させてニトロアミン類をつくるN‐ニトロ化などがある。有機合成工業で広く応用される。

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改訂新版 世界大百科事典 「ニトロ化」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化 (ニトロか)
nitration

有機化合物にニトロ基-NO2を導入する反応の総称。ニトロ基の導入反応には大別して2種類ある。(1)ニトリトアニオンNO2⁻を利用する方法,および(2)ニトロニウムカチオンNO2⁺を利用する方法である。

 (1)の方法では,ニトロ化試剤として亜硝酸ナトリウムNaNO2亜硝酸銀AgNO2などの金属亜硝酸塩を用いる。たとえば,式(1)に示すように,ヨウ化アルキルは亜硝酸銀と求核置換反応(求核反応)を起こしてニトロアルキルを与える。

 RI+AgNO2─→RNO2+AgI   ……(1) 

また亜硝酸ナトリウムを塩化水銀(Ⅱ)HgCl2の存在下でベンゼンセレニルクロリドC6H5SeClおよびアルケン(たとえば,シクロヘキセン)と反応させると,ニトロセレン化が起こる(式(2))。



ここで得られるニトロセレニドを過酸化水素H2O2で酸化すればニトロアルケンが好収率で得られ,この反応はアルケンの1個の水素をニトロ基で置換したことになっている。ニトロアルケンはきわめて有用な合成中間体である。

 (2)のニトロニウムカチオンを使用する方法として最もよく知られている例は,ベンゼンなど芳香族化合物のニトロ化である。通常,NO2⁺を発生させるためには濃硫酸濃硝酸混合物(混酸)が使われる。

 2H2SO4+HNO3⇄H3O⁺+NO2⁺+2HSO4⁻       ……(3)

式(3)に示すように,混酸中ではNO2⁺が生成し,これがベンゼン環に求電子攻撃を行う(式(4))。

ここで生成する中間体のカルボニウムイオンは速やかにプロトンを放出してニトロベンゼンが生成する。この反応の律速段階は,ニトロニウムイオンが攻撃を行う最初の段階である。このような芳香族化合物のニトロ化は工業的にもきわめて重要な反応であり,トルエンのニトロ化によるトリニトロトルエン(TNT)は火薬の原料として,あるいは多くの芳香族ニトロ化合物は染料その他のいろいろな原料製造のための出発物質として重要である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニトロ化」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化
にとろか
nitration

有機化合物の炭素原子に結合している水素原子をニトロ基-NO2で置換すること。ニトロ置換ともよばれる。脂肪族の第一および第二ニトロアルカンは、ジメチルホルムアミド(DMF)中でそれぞれ第一および第二ヨウ化アルキルに亜硝酸銀または亜硝酸ナトリウムを作用させると得られる。第二ニトロアルカンを合成する反応では異性体の亜硝酸エステルを約40%副生するが、沸点の差およびエステルのほうが加水分解されやすいという性質の違いを利用して、容易に除去できる。陰イオン交換樹脂を亜硝酸で飽和し、これにヨウ化アルキルを作用させる方法により合成すれば、亜硝酸エステルの副生を避けることができる。第二ニトロアルカンは、α(アルファ)-ハロゲノカルボン酸を亜硝酸アルカリと加熱しても合成できる。


 第三ニトロアルカンは、対応する第三アミンを過マンガン酸カリウムにより酸化すると得られる。

 芳香族化合物の芳香環上のニトロ化には種々のニトロ化剤nitrating agentが用いられる()。

 ニトロ化剤はすべて、反応系内でニトロニウムイオンを発生するものと考えられている。


 ニトロ化剤の選択はニトロ化される化合物の性質と合成したい目的物がなにであるかに依存する。たとえば、トルエンをニトロ化する場合、混酸を用いて0℃でニトロ化するとオルトニトロ体とパラニトロ体とがほぼ等量にできるが、酢酸ニトロニウム(別名、硝酸アセチル)を用いると、同条件下でほとんどオルトニトロ体のみを生ずる。ニトロトルエンをさらに混酸と加温すれば、2,4-ジニトロトルエンを生じ、さらに高温にすれば2,4,6-トリニトロトルエン(別名TNT。火薬の成分)を与える。のように、芳香族ニトロ化反応は、ニトロニウムが芳香環上のπ(パイ)電子に付加し、ついで環の一つの炭素上へ移ってσ(シグマ)錯体を生じ、この炭素上の水素原子が抜けてニトロ化合物を生ずる反応機構で進行する。

[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]


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化学辞典 第2版 「ニトロ化」の解説

ニトロ化
ニトロカ
nitration

有機化合物の分子中のH原子をニトロ基で置換することをいう.アルコールのヒドロキシ基のH原子を置換して硝酸エステルRONO2をつくるO-ニトロ化,アミンのN原子に結合したH原子を置換してニトロアミンRR′NNO2をつくるN-ニトロ化もあるが,通常,C原子に結合したH原子を置換してニトロ化合物RNO2をつくるC-ニトロ化をさす.芳香環に結合したH原子のニトロ置換は,硝酸と硫酸との混合物(混酸)を用いて容易に行われる.硝酸,発煙硝酸,硝酸と酢酸の混合物なども用いられる.脂肪族炭化水素のニトロ化は,普通,硝酸蒸気を用い,高温,気相で行われるが,遊離基機構で反応が進み,副反応も起こるので,生成物が単純ではない.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニトロ化」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化
ニトロか
nitration

有機化合物にニトロ基 -NO2 を導入する反応の総称。代表的な求電子置換反応である。特に芳香族化合物のニトロ化は,染料中間体,医薬,農薬,爆薬などの合成における重要な単位反応の一つである。芳香族化合物のニトロ化は,混酸 (硝酸と硫酸の混合物) によって行われることが多い。

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