正式名を「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Worksといい、万国著作権条約(1952)と並んで著作権の国際的保護のための条約の一つである。
この条約の制定前は、外国人の創作した著作物を自国で保護する場合、あるいは自国人の創作した著作物が外国で保護を受ける場合には、各国が相互主義を予定して外国人にも著作権を認める立法をなし、これを基礎として相互に相手方国民の著作権を保護することを目的とする条約を個別的に他国と結ぶという方法、つまり二国間条約の締結という方法しかなかった。しかし、このような二国間条約は締約当事国以外の第三国との関係において無力であるし、また各国の著作権立法が著作権取得のために登録その他の複雑な要件をそれぞれ課しているために、相手方国の国民はせっかく著作権を認められても、これを現実に取得することは困難で、国際的著作権保護としての実効性は依然乏しいものでしかなかった。そこで、二国間条約以外の方法により著作権を国際的に保護する要請が、とくに各国の文学者をもって組織される国際文芸家協会を中心に主張されるようになり、これを受けたスイス政府の呼びかけによって、1884年国際会議が招集され、1886年スイスのベルンで成立したのが、本条約である。本条約は制定後数度の改正を経て現在に至っている。日本は1899年(明治32)以来これに加入している。2014年9月時点で本条約に加入している国は、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、アメリカ、ロシアなど168か国に達している。
本条約の特徴は次の諸点にある。(1)内国民待遇の原則 ベルヌ条約加盟国(以下、加盟国という)の国民である著作者の著作物は、他の加盟国においては発行・未発行のいかんを問わず、その国の法令が自国民に現在与えており、または将来与えることがある権利およびこの条約がとくに与える権利を享有する。(2)無方式主義 著作者の権利の享有には、登録、納本その他いかなる方式、手続をも必要としない。(3)保護を受ける著作物 「文学的および美術的著作物」が保護の対象となる著作物であるが、具体的には、表現の方法・形式のいかんを問わず、書籍・小冊子その他の文書、講演・演説・説教その他これらと同性質の著作物、演劇用または楽劇用の著作物、舞踊・無言劇の著作物、楽曲、映画著作物、素描・絵画・建築・彫刻・版画、応用美術、地図その他の図面・模型などの文芸、学術および美術の範囲に属するすべての製作物。(4)保護期間 著作者の生存中およびその死後50年。しかし、国内法によってこれより長い期間を定めることは自由である。無名または変名の著作物の場合は、著作物が適法に公衆に提供されたときから50年。
[半田正夫]
『半田正夫著『著作権法概説』第八版(1997・一粒社)』▽『阿部浩二著『著作権とその周辺』(1983・日本評論社)』▽『C・マズイエ著、黒川徳太郎訳『ベルヌ条約逐条解説』(1979・著作権資料協会)』
1886年スイスのベルンで調印された著作権を国際的に保護する条約。正称は〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉。世界での著作権に関する標準的条約で,1997年1月現在,ベルヌ条約加盟国は121ヵ国で,日本は120ヵ国と,この条約に基づいて著作物を保護しあっている。
ベルヌ条約は,1908年以来,著作権の享有および行使に登録,納本,留保の表示などの手続(方式)を必要としない無方式主義を条約上の原則としている。このほか,条約加盟国は,自国民に与えている保護と同様の保護を同盟国の国民に与えるという内国民待遇,条約の同盟国としてこれだけは守るという最低限の事項の定め,著作権の保護の範囲および救済方法は条約のほか保護が要求される国の法令,すなわち法廷地法によるという法廷地原則,条約に加盟した場合,その国は条約発効前に創作された著作物についても,発効時にその本国または保護義務を負う国において保護期間満了により公有となっているものを除いて,すべての著作物に遡及して適用されるという遡及の原則(万国著作権条約はこれと異なり不遡及原則をとる)などの基本的事項を定め,各国のモデル的性格を有している。1886年スイスのベルヌで調印に参加したのは,フランス,イギリス,スイス,ドイツ,イタリア,ベルギー,スペイン,ハイチ,リベリア,チュニジアの10ヵ国で,1887年12月5日条約は発効した(日本はこの条約作成会議にはオブザーバーを参加させるにとどまった)。
日本がこの条約に加入したのは1899年であるが,積極的な気持から加盟したわけではなく,工業所有権のパリ条約とともにこのベルヌ条約への加盟がいわゆる不平等条約改正(領事裁判権撤去。いわゆる条約改正)の一条件とされていたからである。すなわち,1894年イギリスとの改正条約に〈日本国政府ハ日本国ニオケル大ブリテン国領事裁判権ノ廃止ニ先立チ,工業ノ所有権及ビ版権ノ保護ニ関スル列国同盟条約ニ加入スベキ事ヲ約ス〉とあり,日本とドイツなどとの国に対するものにも同様の規定があった。
日本は,外国人の著作物を保護することなどを定めた著作権法(旧著作権法)を1899年3月制定,同年7月15日施行し,ベルヌ条約に同年4月18日加入し,同年7月15日発効した。なお,アメリカは1989年,中国は92年,ロシアが95年,韓国は96年ベルヌ条約に加入した。
なお,WTO(World Trade Organization)協定という世界貿易機関を設立する協定が1995年1月1日発効したが,この協定の付属書の一つのTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定。〈世界知的所有権機関〉の項参照)において,著作権,特許,商標等の知的所有権の国際的保護について規範とともにそれを担保する執行についても規定している。著作権については,コンピューター・プログラム,データベースの保護,貸与権についても規定し,ベルヌ条約,万国著作権条約とともに著作権に関する国際条約として重要である。95年3月現在,87ヵ国がWTO協定を締結している。
→万国著作権条約
執筆者:大家 重夫
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(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)
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…1952年に創設された万国著作権条約による。当時ベルヌ条約に加盟していなかったアメリカ等において,無方式主義国で創作された著作物を保護するための条件として,Ⓒと創作の年と著作権者名を表示することが定められた。その後89年にアメリカがベルヌ条約に加盟し,この表示の法的意義はほぼ消滅したが,アメリカ著作権法ではこの表示に裁判上の意義が認められていることもあり,国際的に慣例として定着している。…
…所管はユネスコ。この条約は,著作権の発生について登録や著作権表示(Ⓒ表示)など,その保護に一定の方式を要求する国(これらの方式を要求するため標準的な著作権条約であるベルヌ条約に入れない。当時のアメリカや米州諸国など)と著作権を無方式で保護するベルヌ条約加盟国とを結ぶ架橋的条約である。…
…
[著作権,出版者]
著作物について著者ならびにその相続者に与えられる版権,および複製権の原則が確立したのは,フランス国民公会が1793年の7月に定めた法律によってである。フランスでは1838年に,ユゴー,デュマその他の作家たちが,文学者の利益を守るために文芸家協会を作り,その会の発起で,78年,国際文学会議が組織され,やがてそれが86年の会議で〈文学,科学および美術著作物の保護に関するベルヌ条約〉(いわゆるベルヌ条約)に結実し,著作権の国際的保護が規定された。96年には第1回の出版者国際会議がパリで開かれ,出版における国際間の協力が討議された。…
…また他の言語に移し変えるものであっても,変形して利用,表現されるものは翻案の一つとして,翻訳とは区別されるのが一般的である。翻訳権が世界で初めて保護の対象となったのは,スイスのベルンで1886年調印,翌87年発効をみた〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉(略称はベルヌ条約)においてである。当初加盟国は10ヵ国にすぎず,翻訳権の保護期間は原著作物発行後10年をもって消滅するという短いものであった。…
※「ベルヌ条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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